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大切な事は目には見えないから、どうやって見つければいい?星の王子さま。

それは未だ10代の終わり頃でした。
友人から、「星の王子さま」をいただきました。
ペーパーバックで表紙には、作者が描いた星の王子さまがとっても
オシャレな感じがしました。
内容は面白そうだが読んでもよく分からないけれど、引きつけられている自分がいました。その時からもっとこの本に近づきたいと思い、ラジオ講座フランス語を始めました。基礎編が終わった頃に、洋書店で買い求めました。
いつか、この本を訳してみたいと思って、引っ越しの時にも、辞書と一緒に大切にしてきました。
でも、そのいつかは、定年になる年まで来ませんでした。

 40年の年月が過ぎていました。辞書の文字は小さ過ぎていました。何度も引く根気も失われていましたが、心の片隅にあった、「いつか」が来ていることを感じていました。こうして、再度、ラジオ講座フランス語を始め、2年目からすこしづつ訳を始めました。
 そこには、誰もが大人になるけれど、誰もが大切にしてきたもの、子どもの時には持っていたはずのものが、小惑星から来た王子と筆者との出会いによって開かれて行くのでした。いつも、ヒツジのおかげで、王子の人生の秘密のとびらが開かれて行きました。

 ヒツジとの出会いは
第2章 「すみません。ヒツジの絵を描いてちょうだい…」
数字でしか測れない大人の世界とは違って、生きる豊かさに続く道を教えてくれる子どもの世界への入り口でした。

王子に求められて、筆者のパイロットが描いたヒツジの絵です。
大人になると、箱の中のヒツジが見えなくなるのでしょうか。
少なくとも、数字で計ろうとしても見えてこないのですね。

きみの欲しいヒツジはこの中にいるよ

4章では、見かけばかりが問題で、肝心のことが忘れられている大人の世界とともに、王子がいたことの証明がされます。
 「それは、あの人がうっとりするほど美しかったこと。そして、ヒツジを一頭欲しがっていたこと。ヒツジがほしいと思ったら、それが、あの人がいたという証明なのです。」
 こういう表現について、生きることを理解している人たちには、数字なんてどうでもいいことだからです。と言っています。ここでは、(La Vie )を、生きることを理解すると訳しましたが、la vie をどのように訳すかは難しい所です。肝心要のことばと思いますので、もう少し続けます。
 原文の訳者は次のようにされています。 
 ○生きるってことをよくわかっているひとには、こっちの方が、ずっと最もらしいと思う。(大久保ゆう あのときの王子くん)
 ○生きるというのがどういうことかわかっている人たちには、このほうが、はるかにほんとうのことのように感じられただろう。(河野万里子 星の王子さま)
 ○ものそのもの、ことそのことをたいせつにする人には、話しがもっともっとほんとうらしくなったでしょうに。(内藤濯󠄃 星の王子さま) 
 ☆彡Pour ceux qui comprennent la vie,ça aurait eu l'air beaucoup plus vrai. (Antoine de Saint-Exupéry  Le Petit Prince)
 内藤さんの訳は、かけがえの無いものとしての命を、ことばにさえすることができないものとして訳されています。想いの深さに驚かされました。
この la vie は後に21章で、肝心要のもの(l’Essential)と重なるものと思われます。そのように思うと、この本では目に見えない大切なものを、どうやって見つければいいのかということを、パイロットは王子との出会いで、しかも、砂漠の中で見つけて行くのでした。そして、大人のやり方の失敗例がたくさん出てきます。

いま、わたしは75才。
星の王子さまと出会ってもうじき、50年。定年になって再出発してから15年。そして、手元には、洋書店で見つけた 1967年1月発行の、GALLIMARD社の本があります。
なんと素敵な人生の導き手であったことでしょうか。

では、目には見えない大切なものを、どうやって見つければ良いと言っているのでしょうか。

○14章 人の役に立つこと  ランプライター街路灯点灯人から
 「点灯人が街路灯に灯火をつけることは、一つの星や一輪の花を、もう一つ生まれさせるみたいだ。点灯人が街路灯を消すのは花や星を眠らせることだ。本当に役に立っている。」   
○21章 かけがえのない友だち きつねさんから
 「それは、忘れられがちなことなんだけど、人との絆をつくると言うことなんだよ。」
 献辞に登場した、レオンウエルトさんを思いますね。
 「一本の花があって、ぼくは、花がぼくと絆を結んだのに違いないと思いました。」
 「仲良くなることでしか分からないものがある。人間達はそれを知るための時間が無い。奴らは市場で全てのものを買っている。でも、友だちを売っている市場はない。」
○24章 星たちを奇麗にし、砂漠を美しくしているもの
 「星たちはきれいですね。それは、見えないけれども、花のおかげだね。」
 「砂漠を美しくしているもの、それはどこかに、井戸が隠れていているからだね。」
 「そうだね。私の家を動かしているもの、星や砂漠を動かしているものたちを美しく輝かせているものは、目には見えないのだね。」


あとがき

 これらの全てのことが、全章にわたって、ただ一つの薔薇の花を愛するにはどうすればいいのか知るための旅であったと言うことと思います。
 「人間というものは、特急列車に乗っているのに、自分が何を探しているのか分からなくなっているんだ。だから、ぐるぐると、同じ所を回っている。25章」
 「でも、それは一輪のバラの花や少しの水の中に探し当てることが出来るものなのです。」
 「王子はこうも言いました。
 でも、目では見えないんだね。こころで探さなくてはね。」

「目には見えないものをどうやって探せばいいのか」
星の王子さまを手に取って長い年月が経ちました。同じ所をぐるぐるとまわってようやく見晴らしのいいところに着いたように感じています。
もしかしたら、星の王子さまに会えるかも知れませんね。



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