小説表紙絵の頼み方
こんにちは、フリーイラストレーターの頼和 愛(@ai_yoriwa)です。
前回こちら↓の記事で小説同人誌の作り方についてお話しました。
今回はその中でも文字書きの中での最大の難所、「表紙絵問題」についてお話しします。
自分で本を作ったことのない方、絵を描かない方からするとどうしたら良いのか、分からないことだらけだと思います。
私は幸いライター仕事で紙媒体も扱っていましたし、個人の二次創作では表紙を頼む側の文字書きも経験し、今は自分で漫画の同人誌も作っているので、字書きさんの気持ちも絵師さんの立場も一応分かっています。
その上で小説書きさんが知っていれば、絵師さんに頼む時に役立つお話をしたいと思います。
まずはどういう人に頼んだら良いのかという点からお話ししましょう。
絵を描ける友人
一番頼みやすいのでいいと思います。特にご自身でも本を作ったことのある方なら安心して任せられるでしょう。
ここで一点気をつけて欲しいことがあります。絵が描けるだけで、本を作ったことのない友人はまあまあ危険です。
依頼側が本を作ったことがあればこちらがリードして教えていけばいいのですが、依頼側も初心者の場合はリスキーです。
WEBだけで絵が描ける=紙媒体用にも絵が描ける、ではありません。
描き終えた後に解像度が72dpiでしたとかでは正直しゃれになりません。しかし相手が友人の場合、失敗されても何も言えませんよね。個人の本とはいえ、金銭が発生する以上仕事のようなものなので、これをきっかけにぎくしゃくするようなことになると面倒なので、よほど信頼できる友達でない限りはやめた方がいいかもしれません。
友達じゃないけど憧れの絵師に頼む
絵の描ける友達がいなかったり、描いて欲しい絵師さんがいる場合はこれに当たると思います。
友達でない方に頼むのは気が引けるところもあると思いますが、大抵の人は「あなたの絵が好きで描いて欲しい」と言われたら嬉しいはずなので、友達じゃないからどうしようとか思い悩む必要はありません。
ただその方が依頼に対応しているのかどうかはプロフなどをちゃんと確認した上で、どうなのか分からなければDMをしてみると良いと思います(ただ、ここでも紙媒体の発行経験がない相手の場合は、絵が上手くても面倒なことになる可能性があるので、その方の実績を過去の作品などで見てみた方がいいと思います)。
頼み方については後述します。
プロに頼む
SNSやクラウドソーシングなどで紙媒体のお仕事をしたことのある方に頼むやり方です。
これは初心者の方でも安心なので一番おすすめです。
対価を渡して仕事を頼む形ですので、変に気を使う必要はありません。趣味で描いている相手に修正などは頼みにくいこともあると思うのですが、相手はお仕事ですから気に食わなければはっきり言えるという利点があります(本データ提出後の修正はなるべくやめてあげてくださいね)。
締め切り問題などもプロであれば問題ないでしょう(趣味だとルーズな人もいますから……)。
私自身は仕事でも何十冊も媒体を発行した経験がありますし、自身でも小説・漫画同人誌を作っていますので、表紙絵のお手伝いであればお気軽にご相談ください。
仕事でも校正経験も10年ほどありますので、表紙絵だけでなく校正のお手伝いも可能です。表紙絵を誰に頼むか検討されているようであれば是非こちら↓のリンクからどうぞ!
さあ、依頼しよう
ここからはいざ絵師さんへ頼む際に必要なことをあげていきます。
・どのような絵を描いて欲しいのか(ジャンルなど)
描きたいジャンルや人物、
表1(表紙)表4(裏表紙)含めて何人描いて欲しいのか、
BL本なのかHLなのか成人向けか否か、
どういう話の小説なのか、
背景などの描き込みは必要か、
凝った衣装や絡みの絵を描いて欲しい場合も先に言いましょう。兎に角大事なことは後出しは絶対ダメです。
特にその絵師さんが描いたことのなさそうなキャラをお願いする場合は、ちゃんと参考画像を提示するなどしっかり伝えましょう。
・発行日&納品日(締め切り)
ここが一番大事です。これによって引き受けられるかどうかが決まることもありますので。ちなみに相手が締切をちゃんと守ってくれるかは分からないですし、修正の有無や何かしらのトラブルで遅れる可能性も考えて、入稿締切よりは3〜4日余裕を持った納期を伝えましょう。
納期が一番重要なのでそれさえ分かればいいですが、勿論いつ出る本なのかは気になるところだと思いますので、発行日(イベントに出るのであればどのイベント)も伝えましょう。
・報酬
クラウドソーシングなどで料金が明示されているならいいのですが、DMなどで頼む場合は出せる報酬をお伝えしましょう。
ただこれはあまり安過ぎると相手の気持ちを害する可能性があるため、本当にどうしてもその絵師さんに頼みたいのであれば「この内容でいくらならお願いできるでしょうか?」というスタンスの方がいいと思います。
ある程度名のあるイラストレーターさんなら数万円(大物なら数十万はしますからね)は覚悟した方がいいです。
・仕様・サイズ
念のためですが、カラー(もしくはモノクロ)、表1表4どちらもお願いすることを描きましょう。それと出す本のサイズです(A5、文庫)。
・使用用途
本だけでなく、例えばノベルティやポスターにも使う場合は、予め伝えましょう。リサイズなども必要であればそれも伝えます。
・タイトルロゴも頼むか否か
これ、特に絵を描かない方には理解されにくいと思いますが、絵が描けることとタイトルなどのロゴが作れるかは別の技術です。
ただ、絵の描ける人が絶対無理とも限らないので、他に頼んだり自分で作ることを想定していない限りはタイトルロゴもお願いしたい旨を必ず伝えましょう。
後からタイトルロゴもお願いします、だと話が違うとなりますし(報酬が変わる)、いざ本データが来たらタイトルがなかった、なんてこともあります。
・読んだ上でお願いするか、構図を伝えて描いてもらうか
二次創作などで同じジャンルで知り合いだったり、友達なら読んで描いてもらうのが一般的だと思うので特に伝えなくてもいいと思いますいますが、プロやそれまで関係ない人の場合は、読んでもらって描いて欲しいのか構図を伝えてその通り描いてもらうのか伝えた方がいいと思います。長い話だと読むのにも時間がかかりますので。
・どうしても貴方に描いて欲しい
絵描きも人間ですからね。こう言ってもらえて嫌な人はいないでしょう。それなら……とスケジュールを都合してくれることもあると思います。逆に誰でもいいから困ってるんで描いてくれ感が出てしまったら報酬が良いとかでない限り引き受けてもらえないと思います(私は知り合いにそういう言われ方をして傷付いたことがあります)。
何気にここが一番大切じゃないでしょうか。元々知っている絵師さんであればその方の活動に対する感想などもあれば引き受けてもらえる確度は高まると思います。
以上の内容を詰めてお願いして、引き受けてもらえたらおめでとうございます!
引き受けてもらえたら
依頼の時に伝える必要はなくとも、引き受けてもらえたら伝えなくてはならないことがあります。
・解像度
紙媒体をやっている人なら当然分かることなので、わざわざ言わなくてもいいのですが、怪しければカラーなら「350dpi」、グレースケールなら「600dpi」モノクロなら「1200dpi」と伝えましょう。
ここが間違っていると後から取り返しがつきません。注意しましょう。
・使う印刷会社・フォーマット
紙媒体用で制作するためには余白などトンボのついたデータで描き始める必要があります。印刷会社では大抵フォーマットを用意してくれているので、それを渡してあげて、念のため印刷会社(の入稿規定のページリンク)も伝えておくと良いと思います。
・背幅
頼む時点から決まっていることはあまりないと思うので、後から伝えることになると思いますが、決まり次第早めに伝えましょう。
印刷会社の見積もり画面などで、ページ数と紙の厚みが分かれば背幅が分かるようになっているはずです。
背幅が決まらないと厳密には絵の位置が確定しないため、背景と人物は別レイヤーにしてもらうなど後から動かせるように描いてもらう必要があります(塗り足しも多めに描いてもらった方がいい)。これも紙媒体で発行したことのある絵師さんなら分かると思いますが、怪しかったらちゃんと伝えましょう。
できれば表1と表4は繋がった状態にした方が楽だとは思います。
タイトルロゴもお願いしている場合、それを背面に付けるかどうかも決めましょう。
・納品形式
入稿する際は大抵印刷会社からpsd形式を求められると思いますが、念のため印刷会社の入稿規定を確認して伝えておきましょう。
・献本はいるかどうか
通常発行した本は絵師さんにもお渡しするのが普通ですが、あまり関係性のない間柄であれば、献本が必要かどうか確認しておきましょう。
・報酬(献本)の受け渡し方法&時期
イベントなどで会うならその場で献本と報酬をお渡しするのか、それとも振込や郵送にするのか確認しておきましょう。
最後に注意して欲しいこと
絵描きはエスパーじゃないです!
何を突然言い出すのかという話ですが、以前どこかの掲示板(?)でとある字書きさんがこのように嘆いていました。
「いつも誰に頼んでも絵師さんに自分が思っている表紙を描いてもらえない! 私の話は途中は暗いけど最後はハッピーエンドなのに、どの絵師さんも暗い雰囲気の笑顔のない絵しか描いてくれない!」と。これは辛い気持ちは可哀想ですが「そりゃそうなるだろ……」と思いました。残念ながら絵師さんに落ち度はないと思います。
そもそもいくつか気になる点があり、話を読んだ印象というのは人それぞれであると思いますし、私個人としては最後がハッピーエンドだろうと、途中の展開がシリアスなものであれば、ストーリーの山場はシリアスな部分だと思うので、シリアスな展開があるのであればそこにフォーカスされるのが普通ではないかと思いました。
辛い展開の全くないほのぼの日常小説やギャグならまだしも、シリアス展開のある話の表紙が笑顔満点だったらそれこそ表紙詐欺じゃないか? とも思うくらいです。
色々変だなとは思いましたが、その字書きさんが笑顔で描いて欲しいと思うならそれは自由なので、私が口を挟めることでは当然ないです。
ただ一番の問題は「要望をちゃんと伝えなかったこと」、「ラフの段階で指摘しなかったこと」、この2点に尽きると思います。
この世に何も言われずに相手の希望が分かるなんてエスパーはいないんですよ(中にはいるかもしれないですけど)。
この字書きさんは「同じ絵師さんでも他の方の表紙絵には笑顔のキャラがいて羨ましい」みたいなことを言っていましたが、確実に言えるのは「それはちゃんとその字書きさんがディレクションしたからだろう」ということ。
どんなに絵の上手い絵師さんに頼んだからと言って、指示する側の指示が的確でなければ依頼側の思い描いている作品なんて余程運が良くなければ出来上がりません。
この方は残念ながら絵師さんの力を過信しすぎて、自分の指示が甘かったのだと思います。絵師さんに幻想を抱き過ぎでしたね、可哀想に。
絵を上手く描く能力とヒアリング能力や理解力、相手の気持ちを汲み取る力は全く別物なんですよ。
依頼側が明確に指示ができなかったのなら、絵師さんを責めることはできません(多分その方は責めているわけではなかったのでしょうけれど)。相手の感じ方にお任せしたなら文句は言えないでしょう。
たまにいる「何食べたい?」「何でもいいよ」「じゃあ中華」「中華は嫌」という意味不明な問答と一緒です。何でもいいって言ったよね???
依頼側が思う通りの作品が納品されないのは、極端に画力が足りなかったり絵師さんが伝えたことを理解できない場合を除いて、ちゃんと指示をしなかった依頼側の責任だと思います。
言葉で表現していたって他人同士で意思疎通をかわすのだってうまくいかないことがあるのに、何も言わずに自分の思い描いているものが相手に伝わるなんて思ったら大間違いです。
私はこちら↑の記事で書いている通り、有償でお仕事をさせて頂く時はなるべく詳細に希望を聞きますし、ざっくりしている場合はラフ案でいくつもの方向性を提示するようにしています。
ラフ案であれば基本的に何回でもお出しするようにして、相手が何をどのように描いて欲しいのかを綿密に探ります。
つまりラフの段階であれば修正はいくらでもできるんですよ(人によるのかもしれませんが)。
ラフの段階で気に入らなければ言ってくれないと本当にどうしようもないです。
ラフと違うものを絵師さんが提出してきたのであれば文句の言いようもありますが、ラフでOKを出しとして実は希望と違っていたなんて、詐欺被害気取りみたいなものです。買う気がないのに買いました、のような。
・要望をちゃんと伝えること
・ラフの段階で疑問や懸念点はちゃんと伝えること
以上が表紙絵の依頼において最も重要なことです。
最後の方に色々と辛口めなことを書きましたが、大抵は丁寧にやり取りをしていば、絵師さんとの間に問題が起こることはないと思います(変な絵師さんだったらどうしようもないですが)。
本を出したい気持ちがあるのなら、恐れず絵師さんにお願いしてみましょう!
ちなみに私は表紙絵以外のアイコンなどもココナラさんで出品していますので、是非覗いてみてやってください!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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