うんちを克服した父

母が誤嚥性肺炎で緊急入院してから、2ヶ月と少し。搬送が早かったこともあり、肺炎は順調に回復し、リハビリ転院を含めちょうど2ヶ月で自宅退院した。

退院にあたって、父と私が自宅受け入れ可能な条件としていたのは、母が自分でポータブルトイレに行けること。なぜかというと、父がうんちのついたオムツは交換できないから。その理由は、臭いに耐えられないから。

「なんでやねん、自分かてうんこするやろが!」

と思わず言いたくなったが、とどまった(いや、言ったかも知れないが)。

嗅覚の敏感さは人それぞれ。私より父の方が何十倍と敏感なのかもしれない(でも、自分の便はどう評価しているのか?)

また私は仕事柄、入院病棟の糞尿の臭いに慣れているということもある(初めて病棟に行ったときは、わーこれは…と思ったのは確か)。

まぁ、オムツ交換はかなり身体の負担もあるし、腰が悪い父に無理もさせられないので、仕方がないなとも思う。

ただ、父のうんちに対する反応はちょっと異常なように私には感じられていた。

母がポータブルトイレにうんちをした時には、ポータブルのうんちを秒の速さで捨て、母の部屋の窓及び玄関のドアを開け放ち、冬にも関わらず扇風機を廊下で「強」で回す。ファブリーズを、もう物(ぶつ)はなくなったポータブル便器に思いっきりふりかけるという徹底ぶり。

母も若干ぼけてきているので、素知らぬ顔をしてその中で寝ていたが、意識がはっきりとしていたら、自尊心はかなり傷つくのではないかと思われた。

臭いなんて、臭いを発する物(ぶつ)がなくなれば、自然に消えていくやんと私なんかは思うけれど、父はまるで見えない敵と戦っているような反応だった。

そんなこんなで、病院も母がポータブルトイレに行けるようにとリハビリをしてくれて、ポータブルトイレに行けるようになったからと退院を勧められ帰ってきた。

がしかし、やはり入院中に体力が低下しており、母は、以前のようには動けなかった。動くと酸素値が低下してしまうということもある。

かくして、退院してほどなく、やっぱりオムツやん、の状態になってしまったのだ。

父より、「お母さんはもうポータブルにはいけない」とメッセージが来た時、あぁこれでまた、入院をお願いしないといけなくなるなぁと思いながら実家に行ったのだが、ここからが急展開。

父が、「今日もオムツ変えたんやけどな。お母さんのうんこ、あんまり臭く感じなくなってきたわ」と衝撃の一言を放った。

私は思わず、「ええ!そうなん?慣れてきたんや。お父さんすごいね!!!」と、すごいすごいを連発してしまった。

「せやろ、せやろ、私も病棟で初めて臭いかいだときはどうしようおもたけど、すぐに慣れなもん。やっぱ慣れるよね~」と、うんちの話で小学生の男子なみにテンション高めになってしまった。

ただ、あんなに臭いを嫌がっていたのに…人って、順応するもんですね。てか、80歳のお父さんが順応できていることに、感動すら覚えてしまった。

このことがきっかけで、父に少し介護への余裕がみえるようになってきた。また、父に余裕が見え出したからか、母との間の緊張感も少し緩まったように感じられた。

「ワシのやることは、オムツ交換とラコール(栄養剤)にとろみ付けることやろ」と。父は、ラコールへのとろみ付けも、いつの間にか、手練れになっていた(とろみに関する完璧な分量配分ができるようになっていたのだ)。

あとは訪問看護師さんやヘルパーさんが手伝ってくれる。

「もう少し家で頑張れそう?」とさりげなく聞いたところ、「ああ」と父。

その姿は、まさに見えない敵を克服した勇者の風格だった。

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まぁその後、また新たな問題が起こるのだが。
介護は一筋縄にはいかないですね。
次回へつづく。


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