見出し画像

ねじめ正一『高円寺純情商店街』

「なにか、一冊。」と思って入ったかもめブックスでの出会い。時々、本屋さん特有のこの買い方をする。予定調和ではなく、そのときの自分が引き寄せ、また引き寄せられた一冊との出会いを求めて。あたらしい風に吹かれたい好奇心や、変わりたいという焦燥感や…いろいろまざり合って抱えきれなくなる前に、本屋さんに向かう。

高円寺純情商店街。
物心ついてから長いこと、中央線沿いで暮らしてきたにも拘らず、わたしがこの商店街に踏み入ったのは最近のこと。
はんぶん仕事、はんぶん遊び。そんな出会い方をしたがために、ドキドキとワクワクの象徴としてわたしの中に刻まれている場所だ。

そんなわけで、手に取らずにはいられないタイトルだった『高円寺純情商店街』。多くのひとに愛されるあの商店街のことを、わたしももっと知りたい。もっと仲良くなりたい。外出自粛を受けて足も気持ちもすこし遠ざかっていたこともあって、ググッと手繰り戻されたような感覚もうれしかった。

読み終えた感想は、期待をおおきく上回る、おもしろく滋味深い小説。商店街で乾物屋を営む一家族をまんなかに、「ご近所」におさまる範囲の暮らしを綴った日記のようだった。あ、商店街のみんなで日記をつけたら、おもしろいかもしれないな。
ハレがあってケがある。波乱万丈とも平穏とも言える。そんな日常を飾り立てることなく、でもユーモアをもって描きだした、そんなひとつの物語。


滋味深い。この言葉がぴったりな余韻にひたっているところです。


ねじめ正一『高円寺純情商店街』(新潮文庫)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?