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「今回のデザインは好きにやってくれ」という罠と対処法_後編(解決編)

第3章【ヒアリング】

ヒアリングをしながら見い出していくものは何か

時々「見たことのないデザインを見たい」とか「斬新なデザインを見たい」というクライアントが現れる。
だが、それを真に受けて実践しても喜んでくれるクライアントはいない。
クライアントが満足するデザインは結局「クライアントが思い描く見てみたかったデザイン」でしかない。

デザイナーは彼らが「思い描くもの」の精度を上げて盛り上げてゆくために質問(ヒアリング)をする。ビジュアル化されていなくてもいい。クライアントのやりたいことをはっきりさせ言語化して道筋になったもの。目印にして、迷ったら立ち止まって確認するコンパス。それをコンセプトと呼ぶ。

そのためにヒアリングをして、彼らに語らせるのだ。語っていく中で、彼ら自身に作りたいイメージを膨らませてもらって、その言葉を抽出・昇華していき、彼ら自身にデザインを意識してもらうのだ。それが、デザイナーのヒアリングだ。

【ヒアリングの目的を明確にする】

ヒアリングとは、
①見えているものと、見えていないものを振り分けて
②見えているものを確認し、見えていないものを掘り下げていき

③それぞれをつなぐ作業である。

禅問答みたいだけど、見えないものを可視化するのがデザインの本質。

【①見えているものと、見えていないものを振り分ける】

まず見えているものとは何か?
例えば、製品の特徴や、会社のビジョン、イベントの目的のような、すでにインフォメーションされ顕在化されているものは、見えているものである。

それに対し、製品がもたらす感情、会社の雰囲気、イベントの動機。
…普段あまりクライアントが言語化しない、潜在的な意識、想い。
より本能的で根源的なものを、見えないものと定義する。

②見えているものを確認しつつ、見えていないものを掘り下げていく

ヒアリングでは最初に、この見えているものの確認をしながら、それをクライアントに語ってもらう。クライアントは既存のそれをじっくり語れるだろうから、そこから、徐々に普段彼らが語り慣れていない、無意識的で感情的なもの、潜在的なもの、思いや、動機、などを言語化していってもらうのだ。

【③見えているものと、見えていないものをつないでゆく

たとえば、見えているものは、それぞれ「点」である。見えていないものもまた「点」である。点のみからその全貌を見ることは難しい
見えているものと見えていないものを対で結ぶことで「」ができる。それを骨格として、肉付けしていくと、その本質が見えてくる。それをクライアントが認識できれば、自ずと、やりたいこと、作りたいものが見えてくる。

第4章【全貌を立ち上げる】

3つの線を作る

私は普段、3つの見えているのものとその対になる、3つの見えていないものをつなぐことを意識している。

①1つ目の線:見えている目的から見えていない動機を引き揚げる。
②2つ目の線:機能や特徴から、それを得ることで生まれる感情を深掘る。
③3つ目の線:抽象的イメージを具象化してゆく。

①の目的から動機を引き出しつつ、その中にある②と③を深掘りすることで、どんな案件でも、どこに向かっていくべきかが見えてくる。

【①目的と動機をつなぐ線】

前回最後に書いた「なんのためにこのイベントを行うのですか?」はクライアントに得意なことを喋らせて、彼らの「目的」を語ってもらう言葉である。そこを掘り進めて、目的を確認したら、今度は目的の元となった「動機」を掘り起こして引き揚げていく。なぜなら「動機」のほうがより個人的で無意識的で根源的だからだ。「目的」は「動機」という欲望の現実的な帰結点に過ぎない。
(※動機は見せたくないこともあるので、そういうときはそこで、引き返そう)

動機を深掘りすると、彼ら自身が思っていた動機と、彼らが潜在的に持っている動機が異なる場合がある。潜在的な動機を捉えることで、よりクライアントの本質的なイメージに近づいていく。

さて、動機と目的をある程度明確にしたところで、頭の中で「動機」から「目的」へと結ぶ線を引いてみよう。その線の先に一般顧客がいるイメージで。
その線こそが、クライアントが歩んできた道、歴史、ブレない柱である。これをコンセプトの骨格としよう。それに沿ってデザインを行えば少なくともクライアントの希望から大きく外れることはない。

※言語化すると小難しく感じるが、シンプルに、この動機とこの目的で、「この辺のことを言いたいんだな。」くらいのニュアンスを見極めれば良い。

※目的と、動機のそれぞれの質問の投げ方は簡単で
●「このお店を作ったことで何を成し遂げたいのか?」が目的(未来・外的)
●「なぜこのお店を作りたいと思ったのか?」が動機(過去・内的)

【②機能と感情をつなぐ線】

人は商品説明をする時、たいてい機能から入ろうとする。
「NASAの技術」「ウルトラバブル」「コンドロイチン」…専門用語は語り手を雄弁にして、賢そうに見せる。それは語る側の論理であり、語る側の安心を欲する心理だ。
顧客の心を動かすのは、もっと根元にある「美味しそう」であり「安心感」や「見た目」「怖そう」といった本能的な感情に他ならない。

人は赤いリンゴを見て、美味しそうと思い、触ってみようかと思い、買おうかなと考えた時初めて、産地や製法に目を向けるのだ。機能は決め手や裏付けになるが第一印象にはならない。

商品の機能やイベントの特徴は目的を決める時に、語り尽くされているはずである。だから、その先の機能がもたらす感情。それを徹底的に洗い出す。

大切なことは感情が第一で、機能とはその感情の裏付けである。

すべてのデザインは、色も写真も、言葉も、まずは感情に訴えるために組まれている。それを見て、近づいてきた人を納得させるための一押しが機能である。だが、感情はあやふやで心変わりをする。だから、どの感情を主役にして前面に押し出すか、クライアントと確約してデザインの軸にしなくてはいけない。

これがデザインを上(感情)から下(機能)に導くストーリーの線、2つ目の道筋になる。

※例:めっちゃ美味しいものが作れる、子供も安心、こんな簡単に、楽々でびっくり(感情)→実は●●という最新技術を使っているんです。(機能)。
(これを逆にすると説明的で嘘っぽくなる)

【③抽象から具象へつながる線】

この抽象から具象は、動機や感情をクライアント語る時断片的に提示される言葉から、目に見えるイメージを生み出してゆく作業である
「なんかキラキラした感じが…」とクライアントが発した時、そのキラキラが「星のキラキラ」か「春の小川のキラキラ」か「若さの輝きのキラキラ」かを明確にしてゆく。
「ディズニーっぽい感じ」なんて言われた時、一見具体的に感じるが、そこには多くの可能性があって、それをしっかり一つの言葉に集約してゆかなくてはならない。

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ここにはクライアントの価値観や生まれ、嗜好、センス…そして、思い出なども含まれる。ヒアリングしながら、その辺りを汲み取り、
「それってこう言うことですよね」「そうそう」を積み上げてゆく。
これをやりながら、彼らが元々やりたかったふんわりとしたイメージを、彼ら自身が意識できる具体的なイメージ・表現にかえてゆく

この章の最初にも書いたが、クライアントが満足するデザインは結局「クライアントが思い描く見てみたかったデザイン」でしかない。そのディテールをここで浮かび上がらせる。

【3つの方向から得られたもの】

3つの方向のヒアリングをして何が得られるのか。と思うかもしれない。
要約すると以下の3つだ。

①1つ目の線:目的と動機をつなぐ線→コンセプト
②2つ目の線:感情から機能→ストーリー

③3つ目の線:抽象的イメージを具象化してゆく→ディテール(あしらい

この3つでデザインに必要な概念的なものの、おおよそすべてが揃う。(すごくないですか?)別に全てを一度に網羅する必要もなく。きっちり行う必要もない。それぞれを軽く確認して、想像し、こねまわして、デザイナーの本業であるレイアウトに落とし込んでいけばいいのだ。

【全ては得られたがまだ足りない】

コナン:「確かに…これをやれば、間違いなくクライアントは納得してくれるだろう…。そう…クライアントはね。
蘭ねーちゃん:「ど、どう言うこと?コナンくん」
おっちゃん:「ケっ!こんな古臭いデザインのチラシで、客が来るもんかよ…」
コナン:「そう…今のままじゃ、クライアントの自己満足を表現したに過ぎない。」
ブチャラティ:「『クライアントを納得させる』『集客も増やす』両方やらなくちゃならないのがデザイナーのつらいところだな。
みんな「だ、誰?」

【デザイナーの仕事とは】

どれだけクライアントの要望に応えたとしても、それを体現するだけでは、ただの制作者でしかない。
彼らの求める、センスが古かった場合、キャッチコピーがダサかった場合、ターゲット層がずれていると感じた場合。なんらかしっくりこない場合、それらの感覚を言語化し「現代版」に刷新して、ターゲットとのベストマッチを目指しクライアントを納得さて、集客も増やす。
新しいアイディアや組み合わせを発見したら、クライアントに提案して驚きを与える。納期や構造の制約をアイディアやデザインで解決する。

それら全てをやってはじめてデザイナーの仕事である。
(その対応力がその人の「らしさ」をつくる)

【最後に「今回のデザインは好きにやってくれ」と言われたら】

「え〜嬉しいな。では一つお伺いしたいのですが。クライアントさんが仕事でやりがいを感じるのってどんな時ですか?」
「いつからこのお店をやってらっしゃるんですか?」
「素敵なオフィスですね。このセンスってクライアントさんのですか?」
相手を知るところから始めて求めるものを掘り下げていこう。

この話をすると、コミュニケーションできないとデザイナーになれないのか!?
って言われるだけど。コミュニケーションは下手でもいい。クライアントが作りたいものを、その素材となる商品を、それに対するクライアントの想いを。クライアント以上により深く想像できるかどうか。それを突き詰めていけるかでしかない。

【2年目の失敗の本質】

私がデザイナー2年目に大失敗したのはひとえに、
「自分にデザインを任された、」「自分の実力を見せる時が来た」「自分の120%を」「自分のセンスを」…

ええ、どこを切り取っても、自分自分。自分にフォーカスが当たっている。これでは多分どれだけ時間をかけても、クライアントが納得のゆくデザインなんてできるわけがなかったのです。

フォーカスは全てクライアントに、そして、その先にいるターゲットの顧客に。

追伸:ちなみに2年目とか書いてますが、今でも勝手な解釈で意図を外すことはあります。情報を引き出せたから勝った、と思った瞬間負けるのがデザインだと思っています。

おしまい。

おまけ「クライアントとのコンセプトの決め方と、それを変えないということ」

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