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幼少期 保育園児愛ちゃん、人間観察を始める

弟が母親と一緒に帰ってきた
その日からさらに神経を張り巡らせて生活をすることになった。

朝、目が覚めると胃の辺りがぐっと重たくなる。
幼少期から朝は大嫌いだった。
「あなたは小さい頃からお布団が好きね」とよく母親に言われる。これは認めよう。
だが、それ以上にお布団以外が安心できる場所でなかったと、今ではわかる。

毎朝どんな顔で振り向いてくるかわからない母親の後ろ姿に、声をかけるのが怖かった。
唯一の救いが平日、幼い私の起きている間に父親は仕事で顔を合わせることがない事だ。
両親に「おはよう」というこの瞬間が一番胃にくる。
この人たちは今どんな状態なのか、把握しないと苦しい言葉が飛んでくる。
何を言われるかわからない怖さに声のトーンは低く、次第に両親には朝は不機嫌な私として映るようになってしまう。

弟を産んだばかりの母親の状態は、最悪だった。
笑顔の母親の記憶はほとんどない。今ならわかる。
産後うつだったのかもしれない。
当時はそんな言葉もなかったし、保育園児の私にはわからない。
前よりひどい状態になったということはわかった。
殺気立ち、力のコントロールができないのか、不機嫌を発散するように物に当たりながら家事をする母親。
母親が部屋を移動したり何かを始めると、しばらく身を潜め、耳を澄ませて気配を察知することが習慣になった。

特に引き出しを閉める音、扉を閉める音は役に立つ。
荒立つ様子がなければ話しかけてOKだ。
タイミングを間違えれば1時間は捕まる。
弟の世話の大変さ、母親の大変さを切々と語り出し
私が存在していることが申し訳なくなってくるまで聞き続けることになり、最後に
「ごめんね」と私が言い「ならあっちいってて」で完了。

話の途中に
「でも」
「なんで?」
「だって」
「わたしは」
なんて言おうものなら、被せるように彼女の正義を説いてくれたものだ。
慎重に口を開くこと。

弟もなかなか大変らしく、ミルクを受け付けない。
当時には珍しい大豆のミルクを飲んでいた。
母乳は母親の持病の薬の投与のため早々に打ち切られている。
「男の子は10歳までは天からの預かり物」この言葉を支えに母親は育てていた。
君が元気なら母はご機嫌なんだが…頼むよ…と心の中で思っていたのは秘密だ。


母親の気持ちの揺れのタイミングを見誤ってはいけない。
これが一番最初に気付いたこと。
なぜなら、これを見誤ると言葉と言動(暴力はない)と気迫で当たり散らされるからだ。
保育園児にはなかなかハードだった。

ご機嫌な時に
「なんで弟を産んだの?」
と聞いた
「兄弟がいないとあなたが可哀想だから」
と母親
意味がわからなかった。

まず、弟が欲しいとお願いしていないし。
今の状態が改善されるなら弟はいなくてよかったのではないだろうか。
元々あなた身体丈夫じゃないですよね?
私を産む時に絶食治療で10ヶ月入院してたって誇らしげに話してたじゃないですか。
その時にも思った。
なんのために私を産んだの?と。

いつもどこか歪んだ表情で私を見る母親。
大変だ、しんどいが口癖。
私を大変な思いをして産んだ話を聞いては、ごめんなさいの気持ちが湧いてくる。
存在してごめんなさい。

寝込む母親を見ながらでも…お腹は減る。ご飯を食べなければならない。
父親は今日も残業で帰らない。
さぁ、どうしようか。

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たくさん失敗をしながら幼稚園生になるころに気付いたことがある。

1.相手(ほとんどは両親)の機嫌を見誤ってはいけない。
2.予測せよ。
3.先回りしろ。
4.喜ばせなくても良いから、地雷を踏むな。
5.相手の気持ちに添え

これらを四六時中、365日注意していると、私の五感は人より冴えていてコントロールしやすいことがわかった。

聴覚…違う部屋にいても布が擦れる音も聞き取ることができる。どんな小さな音も聞こうと思えば聞き取れる。
(両親が布団から出て部屋を出るまでの時間を把握し、部屋を出るタイミングを考えるため)

嗅覚…感情によって変わっていく匂いを嗅ぎ分けることができる。その場にいなくても残留している匂いでわかる。
(無表情に黙っている両親に話しかける時、怒っている匂いの時はさけたいから)

視覚…瞬間的にその部屋にあるもの、状態を瞬時にある程度把握し記憶することができる。
(人以外の情報をなるべく多くキャッチし、そこに置かれる人の状態を認識、予測することで感情を推測するに役立つ)

味覚…味を消して食べることができる。
(嫌いなもの、苦手なものでも何か言えば言葉の嵐が降ってくるので、味を感じずに食べるようになった)

痛覚…痛覚検査を医師に進められるくらい痛みに鈍い。
(痛い、と言うとそれは痛いうちに入らないと言われる。さらに母がどれだけ痛みに耐えてきたか、昔の話を永遠に聞くことになるから言えなくなった。そのうち痛みを感じたら消すことができるようになった。気付いた時には重症なので、しっかり体調管理はしている。良い子の皆さんはどうか真似しないでいただきたい。)

五感をフル活用して状況を察し、なるべくダメージを受けないよう生きていくために、幼い私が始めたトレーニング。
この頃から練習を始めた人間観察スキルは、今ではしっかり応用、複合し役に立っている。

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