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【短編小説】エレベータに閉じ込められた4人、秘められた各々の物語

【シーン】
高層ビルのエレベーター内。
地震による非常停止後、揺れが収まり、涼しい照明のみが数名の不安な顔を照らす。

【登場人物】
祐介(ゆうすけ): 30歳。気配りができるリーダータイプのイベントプランナー。ガーデニングとジャズを愛し、秘密を抱える。
渉(わたる): 26歳。情熱的なイベント会社勤務。スノーボードと機械いじりが趣味。抱える奨学金の悩みを秘める。
雅(みやび): 28歳。誠実なウェディングプランナー。オペラと古書が好きで、未公開の感情を抱える。
美月(みつき): 25歳。個性的なファッションデザイナー。旅行とダンスが大好き。

【祐介】
(他を気遣いながら)
「みんな、まずは深呼吸しよう。大丈夫、すぐに救援が来るはずだから。」
【渉】
(息を荒げつつ)
「はぁ...はぁ...ですよね、祐介さん!」
【雅】
(控えめに)
「間違いなく救われますわ。私たちだけじゃありませんもの。」
【美月】
(ちらっと祐介を見て)
「祐介さんがいればなんとかなる...かも。」
(緊迫した静けさが流れる中、エレベーターが少し揺れる)
【渉】
(美月に向かって)
「大丈夫ですよ、美月さん。君が教えてくれたダンス、ここでも役に立つかもしれないし。」
【祐介】
(皆を落ち着かせる)
「リーダーとして、僕が落ち着いていないといけないね。渉、ガジェットは苦手だけど……エレベーター操作くらいならどうにかなるんじゃないかな?」
【雅】
(美月に優しく微笑んで)
「まぁ、ファッションの話でもしましょう。美月ちゃんが作ったドレスの話」
【美月】
(過去を思い出しながら)
「ああ、返済しなきゃいけないものもあるし……ええ、そうですね、話しましょう」
(エレベーターがさらに強く揺れ、アラート音が鳴る)
【渉】
(パニックになりながら)
「くそっ、これはヤバいんじゃ...」
【祐介】
(冷静さを保ちつつ)
「大きな声ではないけど、大丈夫、渉! 君の勇敢さにはいつも助けられているから、今度は僕が……」
【雅】
(勇気を振り絞って)
「大丈夫、みなさん。愛する人のためにも、平静を保ちましょう」
【美月】
(慌てる)
「愛する人……そうね、祐介さんや、みやびちゃん……」
(アラート音が止み、再び静けさが訪れる。4人は一様に安堵する)
【祐介】
(和やかに)
「さて、これからのことを考えるための良い機会かもしれないね。恋心、秘密……聞きたいことがあるだろう?」
【渉】
(興味深げに)
「いいですね! 秘密の交換ゲームは、どうですか?始めましょう!」
【雅】
(照れくさそうに)
「それは……ですけど、どうかな、美月ちゃん?」
【美月】
(少し赤面しながら)
「あら、それじゃあ、私の失敗話から始めます?」
【祐介】
(温かく)
「秘密はそれぞれある。みんな、普段は隠しているものなんだね」
【渉】
(祐介を見て)
「俺はたいして……でも、祐介さんっていつも何かを抱えてるように見えるんです」
【雅】
(自分の感情に正直に)
「みんな、それぞれに重い思いを抱えて……(小声で)美月ちゃんにも伝えたいことが……」
【祐介】
(皆を見渡しながら)
「見えない絆で結ばれている。こんな時だからこそ、お互い心の支えになるべきだね」
【渉】
(希望を抱きながら)
「そしてそれが、新しいスタートになるかもしれません。」
【雅】
(心を開放して)
「はい、美月ちゃん。いつだって私たち、友だちでしょ?」
【美月】
(涙ぐみながら)
「もちろんよ……私達、ずっと一緒よね?」
(非常通報装置が作動し、外部からの声が聴こえる)
【救助隊の声】
「皆さん、救出作業を開始します。危険ありませんので、落ち着いてください」
【渉】
(安堵して)
「最後に笑えれば、それでいい。助かった……!」
【美月】
(ニッコリとしながら)
「秘密の交換ゲーム、続きは外で!」
【祐介】
(リーダーとして)
「今回のことは、一生の思い出になるね。皆のために、どんなイベントも成功させるよ。」
【雅】
(感謝を込めて)
「ありがとう、みんな。これからも、支え合おうね。」 (エレベーターの扉が静かに開き、安堵の光が差し込む)
【全員】
(救助され安堵して)
「助けていただき、ありがとうございます!」
【祐介】
(渉に向かって)
「君もよくやった。これからも部下として、そして友として、頼りにしてるよ」
【雅】
(美月に)
「あなたの勇気に私も救われたわ。これからもよろしくね。」
【美月】
(遠慮がちに)
「ええ! みんなでまた新しいことに挑戦しましょう!」
(一同は救助隊に導かれてエレベーターから出る。彼らの間の秘密と恋心は、まだ語られぬまま、希望に満ちた未来へと一歩を踏み出すのだった)
【エンド】

●SIDE祐介
 感情は錯綜としていた。
 それぞれの心には秘密があり、そしてその秘密に翻弄されながらも、僕たちは日々を過ごしている。
 僕、祐介はイベントプランナーとしての顔とは別に、もう一つの顔を持っている。
 心の奥底に隠し続けてきた恋心がある。それは渉に対する恋心だ。世間では認められない関係だとは判っている。だが、僕は僕の心に正直でありたい。
 地震による揺れが収まり、僕たちは高層ビルのエレベーター内で非常停止の状態にある。暗がりの中、わずかな照明が僕たちの不安に満ちた表情を照らす。僕は自分の内面と向き合いながら、他を気遣って声をかけた。
「みんな、まずは深呼吸しよう。大丈夫、すぐに救援が来るはずだから」
 その言葉はそう、僕自身にも言い聞かせているものだ。
 自分の気持ちを抑えるためにも、他人を励ますことで心を落ち着ける。
 僕の目はふと、渉の方へ向かう。
 彼は息を荒げながら僕に同意を示す。
「はぁ……はぁ……ですよね、祐介さん!」
 僕は密かに胸を痛める。彼が魅力的でない瞬間はない。
 僕はどうにかしてこの気持ちを押し隠し、自分がリーダーとして落ち着いていなければならないと自分自身を戒める。
 その時、雅が控えめながらも心強い言葉を投げかける。
「間違いなく救われますわ。私たちだけじゃありませんもの」
 そして、美月がちらっとこちらを見て言う。
「祐介さんがいればなんとかなる……かも」
 この状況に対して、僕に抱かれる期待。
 僕はさらにリーダーシップを取らなければと感じたけれど、心の中は渉のことで頭がいっぱいだった。そんな自分自身にも苛立ちを隠せない。
 エレベーターが再び揺れると、渉はみんなの注目を美月の軽快な趣味に向け、緊張を和らげた。
「大丈夫ですよ、美月さん。君が教えてくれたダンス、ここでも役に立つかもしれないし」
 それに応えて、彼女は過去を思い返しながらも話を弾ませる。
「ああ、返済しなきゃいけないものもあるし...ええ、そうですね、話しましょう」
 しんとした静けさの中、エレベーターがさらに強く揺れた。
 渉がパニックに陥ろうとする中、僕は冷静さを保とうとする。
「大きな声ではないけど、大丈夫、渉! 君の勇敢さにはいつも助けられているから、今度は僕が……」
 雅もまた、勇気を出して言う。
「大丈夫、みなさん。愛する人のためにも、平静を保ちましょう」
 愛する人。
 その言葉がどれほど今の僕の心に突き刺さることだろうか。
 美月が慌てる声で返す。
「愛する人……そうね、祐介さんや、みやびちゃん……」
 この瞬間、僕は自分の心の中にある告白を抑えつつ、和やかな雰囲気を演出しようとする。
「さて、これからのことを考えるための良い機会かもしれないね。恋心、秘密...聞きたいことがあるだろう?」
 渉は探究心をくすぐられるように提案する。
「いいですね! 秘密の交換ゲームは、どうですか? 始めましょう!」
 雅は照れくさそうに応える。
「それは……ですけど、どうかな、美月ちゃん?」
 美月は少し赤面しながら遊び心を見せる。
「あら、それじゃあ、私の失敗話から始めます?」
 僕は心からの温かさで彼らに向けて言う。
「秘密はそれぞれある。みんな、普段は隠しているものなんだね」
 僕たちは皆、見えない絆で結ばれている。
 こんな時だからこそ、お互い心の支えになるべきだ。
 渉が希望を抱きながら言った。
「そしてそれが、新しいスタートになるかもしれません」
 この一連の出来事を通じて、僕は自分自身と正面から向き合い、秘めた感情を認める勇気を持つことができるかもしれないと感じていた。愛する人々が周りにいて、皆の支えを受けられることに感謝する。そう、彼らは僕の大切な人々だ。そして、心深くある渉への恋心。それを認める勇気が、いつ出てくるかはわからないが、今はただ皆と共にいることに感謝の気持ちを抱いている。
 救助隊の声が届いて、最後には、みんなで助かった喜びを共有する。このエレベーターという小さな空間が、大きな絆を確かなものに変えたのだった。そして僕たちの間の秘密と恋心は、まだ語られぬまま希望に満ちた未来へと一歩を踏み出す。

●SIDE渉
 こんにちは、僕の名前は渉。
 26歳で、イベント会社で働いてる。
 日々、スノーボードに機械いじり、あとは……実は、奨学金の返済で夜遅くまでアルバイトを掛け持ちしている。誰にも話さないでいるけど、それが僕のささやかな秘密だね。
 でも、今は別のことで胸がいっぱいだ。それは、美月さんへの恋心。僕の中でどんどん大きくなってるんだ。この気持ち、もう僕は抑えられる自信がないんだ……。
 さて、今、僕たちは高層ビルのエレベーター内に閉じ込められている。非常停止ボタンの赤いランプがぼんやりと不安な光を放っている中、静かだけどはっきりとしたリーダーシップを発揮する祐介さんが言った。
「みんな、まずは深呼吸しよう。大丈夫、すぐに救援が来るはずだから。」
「はぁ……はぁ……ですよね、祐介さん!」
 僕は息を荒げながら彼の冷静さに感謝する。
 祐介さんはいつも僕たちをしっかり支えている。
 雅さんが微笑んで付け加える。
「間違いなく救われますわ。私たちだけじゃありませんもの」
 美月さんの目が、僕とは違う意味で祐介さんを見ている。
「祐介さんがいればなんとかなる……かも」
 僕はなんとか気を取り直そうと、美月さんに声をかける。
「大丈夫ですよ、美月さん。君が教えてくれたダンス、ここで役に立つかもしれないし」
「リーダーとして、僕が落ち着いていないといけないね。渉、ガジェットは苦手だけど……エレベーター操作くらいならどうにかなるんじゃないかな?」
 祐介さんが微笑みながら僕に期待をかけてくる。 雅さんが美月さんに話しかける。
「まぁ、ファッションの話でもしましょう。美月ちゃんが作ったドレスの話」
「(小声で)ああ、返済しなきゃいけないものもあるし……ええ、そうですね、話しましょう。」
 美月さんは過去を思い返しながら答える。
 突然、エレベーターが激しく揺れアラート音が鳴り響く。
「くそっ、これはヤバいんじゃ……」
 パニックになる自分を感じる。
「大きな声ではないけど、大丈夫、渉! 君の勇敢さにはいつも助けられているから、今度は僕が……」と祐介さん。
「大丈夫、みなさん。愛する人のためにも、平静を保ちましょう」と雅さん。
 愛する人……美月さん、その言葉が心に突き刺さる。
「愛する人……そうね、祐介さんや、みやびちゃん……」
 アラート音が止まり静寂が訪れたとき、僕はやっぱり思うんだ。
 美月さんのことばかりで。 秘密の交換ゲームを始めようという祐介さんの提案。いいかもしれない。この緊張をほぐすのにちょうどいい。
「俺はたいして……でも、祐介さんっていつも何かを抱えてるように見えるんです。」
 心を開放して笑い合い、僕たちは皆、見えない絆で結ばれていることを再認識する。 「そしてそれが、新しいスタートになるかもしれません。」
 新しい未来へ向けての希望を胸に抱きながら、僕は美月さんにもっと近づきたいと願う。 救助隊の声が届き、安堵感が全身を包む。
「最後に笑えれば、それでいい。助かった……!」
 秘密の交換ゲームは、また外で続けよう。新たな関係の始まりかもしれないと思うと、胸が高鳴る。
 そして、バレないようにしていたけど、僕の秘密、美月さんへのこの恋心、いつ日の目を見るのかな。エレベーターのドアが開き、僕たちは新しい一歩を踏み出すことになる

●SIDE雅
 わたしの名前は雅です。
 ウェディングプランナーをしており、オペラと古書を愛しています。
 28歳になってもまだ、誰か特定の人を愛した経験がなかったわたしですが、最近になって恋に落ちてしまいました。
 その対象は大学の後輩であり、今では最も親しい友人でもある美月。
 彼女の個性溢れるファッションセンス、自由で明るい性格に引かれてしまったのです。
 しかし、その感情を隠し続け、今日もまた、なにもなかったかのように振舞っています。
 そして今、私たちは高層ビルのエレベーターの中、地震によって閉じ込められたのです。わずかに点る涼しげな照明に緊張や不安がじわりと浮かび上がっています。
 祐介さんが、みんなを気遣うように声をかけてくれました。
「みんな、まずは深呼吸しよう。大丈夫、すぐに救援が来るはずだから」
 渉さんも息を切らせながら反応し、「はぁ...はぁ...ですよね、祐介さん!」と返しました。
 私は、控えめにけれど力強く言いました。
「間違いなく助かりますわ。私たちだけじゃないですもの」
 心の中で、自分にも言い聞かせるかのように。
 美月が祐介さんをちらりと見ると、「祐介さんがいれば何とかなる……かも」とつぶやきました。
 少しの静寂の後にエレベーターがまた揺れました。
 そんな中、渉さんが美月さんに向かって、「大丈夫ですよ、美月さん。君が教えてくれたダンス、ここでも役に立つかもしれませんよ。」とぼけたことを言って、緊張を和らげようとしました。
 そして祐介さんが、全員を落ち着かせながら、「リーダーとして、僕が落ち着いていないとね。渉、ガジェットは苦手だけど……エレベーター操作くらいならどうにかなるんじゃないかな?」と話した時、私は少し温かな気持ちになりました。
 私が美月に優しく微笑んで言いました。
「まぁ、ファッションの話でもしましょう。美月ちゃんが作ったドレスの話」
 実はそれは、彼女の事をもっと知りたいから。
 エレベーターが再度激しく揺れ、アラート音が鳴り響くと、渉さんがパニックになり、「くそっ、これはヤバいんじゃ……」と言葉を失いました。
 祐介さんは冷静に、「大きな声ではないけど、大丈夫、渉! 君の勇敢さにはいつも助けられているからね。」と励ました。
 それから、私は何よりも愛する人のことを考え、「大丈夫、みなさん。愛する人のためにも、平静を保ちましょう」と言いました。
 その「愛する人」とは、内心では美月のことだったのです。
 アラート音が止まり、しばしの静寂が戻ってきました。
 祐介さんが和やかに、「さて、これからのことを考えるための良い機会かもしれないね。恋心、秘密...聞きたいことがあるだろう?」と提案しました。
 渉さんが興味深げに「秘密の交換ゲームはどうですか? 始めましょう!」と盛り上げてくれたのですが、私は照れ隠しで「それは……ですけど、どうかな、美月ちゃん?」と反応しました。
 彼女が少し赤面しながら「あら、それじゃあ、私の失敗話から始めます?」と言いました。祐介さんも温かく「秘密はそれぞれある。みんな、普段は隠しているものなんだね。」と話しました。
 私は祐介さんを見ながら心の中で思いました。
「みんなそれぞれに重い思いを抱えて……」
 そして、美月ちゃんにも伝えたいことが……。
 非常通報装置が作動し、外部からの声が聞こえました。
「皆さん、救出作動を開始します。危険ありませんので、落ち着いてください」
 そして、救助隊の到着と共に、渉さんは安堵して、「最後に笑えれば、それでいい。助かった...!」と話しました。
 美月はニッコリとしながら「秘密の交換ゲーム、続きは外で!」と言いました。
 祐介さんはリーダーとして、「今回のことは、一生の思い出になるね。皆のために、どんなイベントも成功させるよ」と私たちを鼓舞しました。私は感謝の意を込めて「ありがとう、みんな。これからも、支え合おうね」と皆に伝えました。
 エレベーターの扉が静かに開かれると、安堵の光が中に満ち渡りました。みんなで「助けていただき、ありがとうございます!」と声を合わせました。
 救助隊に導かれてエレベーターから出るわたしたちですが、それぞれ抱えた秘密と恋心は、まだ語られぬままでした。
 しかしその秘密が、今後どう展開するのか、その可能性に胸を躍らせながら、希望に満ちた未来へと一歩を踏み出したのでした。

●SIDE美月
 わたしの名前は美月。
 25歳で、ファッションデザイナーをやっています。
 旅行とダンスが趣味で、ちょっぴり失敗からの借金を背負っていますが、それはまた別のお話。
 とにかくわたしはクリエイティブなことが好きで、いつも自由に生きたいと思っています。
 でも、今、わたしの心はずっと自由じゃありません。
 なぜなら、わたしは恋をしてしまったから。
 その人は祐介さん、わたしたちのプロジェクトで衣装を提供したことがある、とてもやさしい人です。でも、彼は男の人、渉さんと……。
 さて、今はこんなこと考えてる場合じゃないですよね。地震でエレベーターに閉じ込められてまして、照明がほんのりとわたしたちの不安な顔を照らしています。
 祐介さんが言いました。
「みんな、まずは深呼吸しよう。大丈夫、すぐに救援が来るはずだから」
 彼はいつも気がきくんだ……。
 わたしは心の中でつぶやきました。
「祐介さんがいればなんとかなる……かも」
 エレベーターがまた揺れ始め、わたしは自然と祐介さんの方を見てしまう。
 不思議です。
 こんな時でも、彼の声はわたしを落ち着かせるんです。
 渉さんが冗談を言ってきました。
「大丈夫ですよ、美月さん。君が教えてくれたダンス、ここでも役に立つかもしれないし」
 はは、それも一つの方法かもしれませんね。
 祐介さんが、さらに皆を鎮め、
「リーダーとして、僕が落ち着いていないといけないね。渉、ガジェットは苦手だけど...エレベーター操作くらいならどうにかなるんじゃないかな?」
 と言うと、なんだかホッとしました。
 渉さんには内緒ですが、わたしは彼にとても感謝しています。
 雅さんがファッションの話を持ち出された時、わたしは自分の苦しい過去、あの失敗と借金を思い出しつつ、「ああ、返済しなきゃいけないものもあるし……ええ、そうですね、話しましょう」と返事しました。
 エレベーターがさらに激しく揺れ、アラート音が鳴り始めた時、わたしは慌てずにいられなかった。
 でも渉さんと祐介さんがいてくれたおかげで、なんとか落ち着けました。
 わたしは恋する人、伝えたい人のために、強くありたいと願いました。
 そしてやがて、アラート音が止み、祐介さんが提案してくれました。
「さて、これからのことを考えるための良い機会かもしれないね。恋心、秘密……聞きたいことがあるだろう?」わたしは、これがチャンスかもしれないと感じました。
 秘密の交換ゲームの提案が出た時、わたしは少し照れつつ、
「あら、それじゃあ、私の失敗話から始めます?」
 って提案してみました。
 内心では、祐介さんにもっとわたしのことを知って欲しい。
 でも、もしかして彼にとってわたしはそもそも恋愛の対象では……。
 そう思い悩む間もなく、救助隊の声がわたしたちに届きました。
 そして、みんなで安堵の声を上げ、「助けていただき、ありがとうございます!」と感謝を伝えました。
 エレベーターが開いた時、わたしは祐介さんに感謝の気持ちを伝えたかった。でも、言葉にはできず……。
 未だに隠れた感情と秘密を抱えたまま、みんなと共に新しい未来への一歩を踏み出したのでした。

●4人……以外にも誰かいた?

 高いところから眺めるのが好きなおいら。そう、このビルの天井裏で暮らす小さなネズミさ。
 人間の世界をガラス越しに見るのが、いつもの楽しみなんだ。
 今日もそんな日常だったんだけど、いつもとはちょっと違うんだ。
 地震で止まったエレベーター、そこには4人の人間が閉じ込められている。
 不安にかられる彼らを、おいらは天井裏からじっと見ている。
 おいらには言葉はないけど、彼らの話は全部聞こえてくるんだ。
 でも彼らが知らないことが一つある。このビル、実は違法建築の手抜き建築でもうすぐ倒壊するんだ。おいらには分かる。ほら、沈む直前の船からネズミは逃げるっていうだろ? それそれ。
 そろそろ新しい住処を探さないと……そんなことを考えながらも、彼らの会話に耳を傾けた。
 祐介さんが言ったんだ、「まずは深呼吸しよう」と。
 彼はいつも思いやりがあって、みんなのリーダーだった。
 渉くんは少しパニックになりながらも、祐介さんの言葉に力をもらってた。
 雅さんは、いつものように落ち着いてたけど、美月さんへの気持ちだけは隠しきれていないようだった。
「祐介さんがいればなんとかなる……かも。」
 美月さんはそう言って、祐介さんをちらっと見た。その目には明らかに特別な感情があった。
 渉くんは美月さんを励まし、ダンスの話で気を紛らわせようとしてたんだ。
 みんな、それぞれの秘密を胸に隠しつつ、お互いを支えてる。
 祐介さんはリーダーとしての責任を果たし、渉くんとエレベーターの操作について話す。雅さんは、ファッションの話で美月さんを励まし、美月さんは彼女自身の借金について心を開いた。
 借金……そんなものおいらには関係ないけど、彼女の心配事が本当に大変そうだって感じた。
 アラート音が鳴り、僕の心も少し揺れた。
 危険が迫ってるんだ。
 でも、祐介さんが皆を落ち着かせ、雅さんが勇気を持って前向きな話をする。
 彼らの中の恋心や秘密がゆっくりと解き明かされていく。
「みんな、普段は隠しているものなんだね。」
 祐介さんがそう言ったとき、僕も何だか共感してしまった。僕にも隠してること、つまりこのビルの秘密があるから。でもそれはしょうがないよね、僕には人間語は話せないんだし。
 そして救出された彼らは、笑顔でお互いを見送った。彼らの絆は今回の体験でさらに固くなったんだろうね。
 だけど、僕には彼らと違う道がある。
 このビルの未来が危ないことを知っている。
 もうすぐこのビルを離れて、新しい家を探さないといけない。
 そう思いながら、僕は静かに天井裏を後にしたんだ。
 最後に彼らにそっと告げたい気もしたけど……「ちゅーちゅーちゅー! ちゅちゅちゅ!」……やっぱり無理だ(笑)。
 彼らの世界は彼らのもの。
 僕は僕の道を行くだけ。
 彼らの未来は、まどろっこしいけど希望に満ちている。
 僕の未来は、もっと直接的でシンプル。
 生き残るために、次の家を見つける。
 ただそれだけのこと。
 さて、どこかいい場所はないものかな。

(了)

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