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福永紙工㈱ 代表取締役 ”山田明良”さん

クリエイターとコラボレーションしながら新たな自社企画商品を次々に創造し続ける福永紙工。先日スイスで開催された「Designers’ Saturday 2018」で同社が製作する「空気の器」「テラダモケイ」のインスタレーションがグランプリを受賞。2代目として既存の印刷工場のリソースを活かしながら、新たに0から1を生み出すために、経営者として何を大切にされているのかについて、山田明良さんにお話を伺いました。

山田明良さんプロフィール
出身地: 愛知県
活動地域: 東京都
経歴
1962年愛知県生まれ。アパレル商社勤務を経て、1993年福永紙工㈱へ入社。 2008年同社代表取締役に就任。
現在の職業および活動
福永紙工は、東京都立川市にある創業54年になる印刷加工の製造会社。 2006年より デザイナーとの協働プロジェクト「かみの工作所」を発足させ、それまでの製造のノウハウをベースに 自由で斬新なデザイナーの発想を融合させ工場発の主体的な紙製品の開発、製造、販売を手がける。 現在「かみの工作所」「空気の器」「テラダモケイ」MABATAKI NOTE」「gu-pa」「1:16 one to sixteen」「イノウエバッジ店」「紙工視点」プロジェクトを展開している。
座右の銘:悠々として急げ

自分達が得意なことを活かせる場所を作りたいなと沸々と思っていた

Q.今のお仕事をされたのはどんなことがきっかけでしたか?
またどんな心の在り方が今の活躍に繋がっていますか?

山田さん(以下、山田)前職は欧米よりハイファッションを日本に輸入し、店舗に卸したり、自社店舗で販売する仕事をしていました。結婚をきっかけとして妻の父が経営する福永紙工に入りました。

印刷に関して、僕は新参者だし水があわないのを感じていました。元々ファッションの営業をやっていたから、印刷会社の営業もやれると思っていたけど、営業の仕方がまったく違った。ファッションはニッチの世界だったので、自信をもった営業スタイル。けど印刷はファッションとは真逆で、お客さんの言いなりで、自虐を売りにしてるようなところもあり、下にみられがち。それが当たり前なことに疑問もあり、なんか変だなあと思ってました。

印刷、加工の技術もある、きちっと仕上げることもできるにもかかわらず、それなりの価値を認められないことに違和感があった。どっちが安い、どっちが早いかだけ。うちの工場は、素晴らしい技術を持っている。それが正当に評価されていないと感じていました。

 ある日、一軒の文具店に立ち寄り、二代目店主でデザインディレクターの萩原修さんと知り合うことがありました。年齢も近くいろいろと話していくと、萩原さんは「デザイナーの仕事も正当に評価されていない」という思いがあり、僕らは「工場のパフォーマンスが正当に評価されていない」と思いがあった。じゃあ一緒にやったらなんかいいことが起こるんじゃないか、と意気投合。それが「かみの工作所」のスタートです。自分達が得意なことを活かせる場所を作りたいなと沸々と思っていたことが形になったんです。
記者:全社一丸で新しい試みにチャレンジされていたのですか?
山田社長:全然そんな感じじゃなく、最初はコソコソやっていましたね。うちの会社の人たちは優しいので「何をやってんだか」「やれやれ」という感じで見守ってくれていたと思います。 

記者 「かみの工作所」をスタートされて12年ですが、最初はどうでしたか?

山田 まずはお金をかけてやるんじゃなく、今ある設備でいろんなクリエイターに来てもらって、工場から発想できないかと、工場の一部の時間を紙の実験室にして考えた。実際に作ってみたら「いいね」と言われて。
その後、展示会に出すと、見に来てくれたお客さんにも喜んでもらって。じゃあ、売ってみるかって感じになった。印刷工場は受注生産がメインだから卸売がハードルに見えるが、僕にとっては試作→展示→受注という流れができることがファッションでわかっていたので、普通に自然にイメージできました。

記者 創業者である会長は、山田さんの活動をどのように思われていのでしょうか?

山田 どんどんやれというわけではない(笑)僕が会長に直談判したわけではない。勝手に会社に負担のないようやってた。ケンカしても何も生まないので、ぶつかってもダメだし。この展示スペースにいると、ワーッとやってるように見えますが、ちょっとづつやってきてるだけ。会長は僕に不満はあったと思うけど、二代目がいないと困るので、そういう候補もいなかったから、あまり言いたいことをいえなかったと思う。僕のやりたいことを尊重してくれた。その後メディアとかテレビのカメラが入ったりして、納得していく気持ちになっていたのではないかと思う。

記者 萩原さんとはじめられた時点で、今のような展開(自社企画製品の数々)をイメージされていたのですか?

山田 いや、1個1個作ってきた感じ。あまり計画的ではない。人との出会い、いろんなデザイナーのネットワークが今どんどん増えてきている。僕がおもしろいなと思うクリエイターが多く、この人がおもしろいからこの人とやりたい!と思って、1つ1つ積みあげてきています。
ビジョンとか中期計画とかそんなのわかりっこなくて。今の時代、まったく予測できない。10年前に携帯電話もこんな風になると思ってなかったでしょ?

基本はやっていることを共感してもらうこと。

Q.そうした気づきの中で描かれている夢はありますか?

山田 夢ってあまり意識していないですね。基本はやっていることを共感してもらうこと。そのために作品を作っている。販売することにしても、売れそうなものという観点ではなく、クリエイターとかデザイナーの表現したいものを形にすることに共感してもらう、ファンになってもらうことが大事。

「今これが売れそう」だからではなく。

僕らがおもしろいと思っているクリエイターと一緒につくったものの成り立ちやモノとしての意味をなるべく共感してもらう、という活動をしている。卸売に関して言えば、バイヤーやショップマネジャーに理解してもらう。一緒に仕事したいなと思ってもらう。さらにファンになってもらう。ファンになってもらえたら、めちゃくちゃ強い。

印刷業者は下請けの上下関係で辛い感じじゃないですか。だから、デザイナー(クリエイティブ)、印刷工場、クライアント、それらがフラットな関係が築けて、クライアントも僕らを好きでいてくれて、お互いが尊敬しあうことが楽しい。そういう仕事の仕方をこの10年模索してきた。

漫画家の井上雄彦さんとも「イノウエバッジ店」とプロジェクトをやっています。きっかけは、井上さんの森美術館での展覧会があったとき、ミュージアムグッズを作りたいとなって、うちのことを知ってもらって直接うちとやりたいと言ってくれた。そこから5,6年の関係です。

Q.日々の行動で、意識されていることはありますか?

山田  直感力」と「反射神経」。 中小企業に大切なのは数人の決断で変わっていくから、直感はヤマ勘ではなく、いろいろな経験で培われていると思っているし、状況の変化に素早く反応する「反射神経」も必要かと。

Q.これからはAIが活躍する時代と言われていますが、AIが活躍する時代に必要とされるニーズは何だと思いますか?
 
山田  毎年、企業は成長していかなければいけないという呪縛から脱出していくのがポイントだと思う。これ以上便利にならなくていいんじゃないか。もう充分、便利な社会でこの先さらにAIが普及して格差社会がひどくなっていく感じがある。「AIにとってかわられる職種がだめ」云々の話題も不毛な感じがする。

世の中の神経質なトレンドから避難したい。嫌なことを嫌だと言える環境を作っておきたい。大手の下請けで言うとおりにしなくてもいい環境を模索している。極端に言えば売上が半分になろうが、ちゃんと収益がだせればいいと思う。

Q.今後どんな美しい時代を作っていきたいですか?

山田  世の中は美しくない方向に向かってる感じがする。神経質な世の中で、安全、安心すぎる感じ。安全、安心どちらも満たそうとするのは傲慢な感じがする。どっちかでいいじゃないかと。安心できるけど、安全じゃない。例えば海のなかで泳いでいる包まれた感じ、安心な感じしますよね。けれど安全かというと安全ではない。そのバランスがいいなと思っていて、美しいと思う。全部が整っているのは違和感ある。ネットで誹謗中傷したりとか美しくない。誰かが何かを言ったら、炎上となるのがいたたまれない。そんな環境からゆるやかに避難した所に美しい時代があるのでは?

記者 山田さん、本日は大変貴重な素晴らしいお話をありがとうございました!

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福永紙工株式会社
Mail:ymd@fukunaga-print.co.jp
URL: https://www.fukunaga-print.co.jp/

【編集後記】
今回記者を担当した井上と秋葉です。
同席してくださった、広報の竹田さんに「どんな社長ですか?」と伺うと、「いい意味で、フラット。ありがとうと言ってくれる。距離感も近い。経営者というより、いろいろ相談にのってくれるいい人。」 そして、山田社長に社員さんとの関係で大事にしていることを伺うと「緊張感とラフさ。」バランス感覚があるから全体が調和されたフラットな関係性が築けるのだと感じました。今後も日本から世界に羽ばたく作品を創出する福永紙工 山田社長のご活躍が楽しみです。

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この記事は、リライズ・ニュースマガジン”美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36


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