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怒りの古本。

 わたしは勤務中と就寝中以外の殆どの時間を、活字を追うことに費やしている。それくらい、読書が好きなのだ。読書だけでなく、本そのものも愛好している。わたしにとって、本は神聖なものなのである。
 そしてわたしは書物を購う数が多いので、専ら古本を入手する。大抵、状態はいい。しかし昨今はアマンゾやブッカフなどを利用する為、現物を見ずに注文、自宅へ配送される。それでも目に余る状態だったことはあまりない。
 ところがこの度、我が手許に届いた本が、落書きまるけだったのである。「まるけ」と謂うのは、○○まみれ、〇〇だらけを意味する名古屋弁である。
 先づ、最初の見出し頁に手書きの文字があった。まさか落書きとは思わず、作者の覚え書きを印刷した意匠だと思った。が、さにあらず、その頁を捲ったら、前頁の手書き文字が浮き出ていた。
 つまり、書き手の筆圧が高く、裏に出てしまっているのだ。
 落書きやんけ。
 書き込みとは表現したくない。神聖なる書物に手を加えるなど、神をも恐れぬ所業である。それをやっていいのは教科書か参考書、新聞に毛が生えたような雑誌の類いまでだ。
 それだけでなく、各所に傍線が引っぱってあった。しかも、水色の蛍光ペンである。蛍光ペンなど、中学高校の受験生が使うものではないか。社会人が使うことは滅多にない。使うとしたら、やはり何かの資格試験を受けるひとくらいではあるまいか。しかも線を引いてある箇所が、どう考えても重要とは思われぬ文言なのだ。或るところでは、「菜の花」だけに青い線が引っぱってある。
 菜の花と謂う字をはじめて見たのか、よほど重要に思えたのか。ただ単に水色の蛍光ペンで、二センチほど線を引きたかったのか。そもそも、昭和軽薄文体のようなエッセイに、蛍光ペンで線を引かねばならぬことは書いてないと思うのだが。
 落書きの字体から察するに、年齢が低く知能も低い女子がこの本の売り主であろう。其奴に伝えたいことがある。
 おどれ、ナニ考えとんのじゃ。このだぼメンタ。書物をメモがわりにしとんちゃうど。作者に謝ったらんかい。ちゅうか、汚した本を売るな、カスが。

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