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菊次郎の夏。
北野武の作品で、1990年に公開された。そんな前だったのかと驚く。夏と謂うことで、母と鑑賞した(五年前の話である)。
叙情的でたけしの作品としてはとても愛らしい作品である。題名の菊次郎は監督の実父の名前で、彼はペンキ職人だった。『たけしくんハイ』と謂う自伝的小説に登場し、これはNHKでテレビドラマ化された。駄目親父ではあるが、愛すべきひととして描かれている。たけし本人によく似ていると思った。
物語は祖母に育てられている孤独な少年が瞼の母に会う為、ひとりで家を出る。持っているのは白い羽のついた水色のナップサックに入ったお母さんの写真と夏休みの宿題、そして二千円。そのわずかなお金を不良にカツアゲされているところを、岸本加世子演ずる菊次郎の女房が助けるのだが、ヒモの亭主(ビートたけし)はその金を自分のポケットに入れようとしてど叱られる。
事情を知った女房は、駄目亭主に少年を母親のところへ連れて行かせる。しかし、菊次郎はもらった五万円を競輪でスッてしまうのだ。駄目な奴は何をしても駄目だと謂う見本である。
ビジネスホテルらしき宿に泊まり、翌日も競輪場へ行くふたり。なぜ金があるのかと云えば、少年の金で、少年が云った数字で、見事当てたらしいのだ。そして二匹目の泥鰌を狙って少年に数字を決めさせるのだが、そうそう当たる筈もない。
菊次郎が焼き鳥屋で酒を引っ掛けている間に、少年は変質者について行ってしまう。それを演じるのが麿赤児。こんな変態、怖すぎる。少年を探しに来た菊次郎は、弱い相手には強く、変態をボコって金を奪う。
その金でタクシーに乗り、少年の母が居る豊橋へ向かうのだが、東京からだと幾ら掛かるのか判っていない。運転手が便所に行った隙にメーターを見て驚いた菊次郎は、なんとタクシーをそのまま運転して行ってしまう。しかも、無免許としか思えない。
走っているうちにエンジンが煙を出し、なんだか判らない処で動かなくなってしまい、仕方なくヒッチハイクをするのだが、日本でヒッチハイクはなかなか成功しない。歩いて辿り着いた高級そうなホテルでアロハシャツやサングラスを買い、プールでは溺れ、やっちゃいけないことばかりをして注意され、支払う段になると高すぎると文句をつけ、フロントの男に送らせる。
まさに最悪の客。
ドライバーらが休むドライブインで、トラックの運ちゃんに乗せてくれと交渉するも失敗。沼津ナンバーのカップルに乗せてもらうことになったら、同乗を断ったトラックの窓ガラスを割っていくと謂う始末。案の定、追いかけられてしまう。
親切なカップルとも別れ、通り過ぎる車をパンクさせて止めようとするが、上手くいきすぎてパンクした車は道路の下に落ちた。ヒッチハイクが成功し、後部座席で少年は「普通に頼めばよかったね」と菊次郎に云う。
全国を車で廻って詩を書いたり曲を作ったりしている小説家志望の青年(めっちゃ胡散臭い)に豊橋まで乗せて行ってもらうが、少年の母は働く為に家を離れたのではなく、幸せな二度目の結婚生活を送っていたのだ。
事態を察して、少年を慰める菊次郎であった。近所のひとに事情を訊いてくると少年を砂浜に残し、公衆便所に居たふたりのバイカーからガラスの鈴をふんだくり、それをお母さんが残していったお守りだと少年に渡す。
心温まるエピソードだが、カツアゲはいかんだろう。
お祭りへ行くも、傍若無人なことばかりするので地廻りのヤクザに、今度は菊次郎がボコられてしまう。血だらけの顔をして戻ってくると、少年には階段から落ちたと云い訳する。少年はひとりで神社を出て、薬局で薬を買ってきた。幼き者がするせめてもの思い遣りに、菊次郎は胸を詰まらせる。
翌日はまた、小説家志望の「優しいお兄さん」に会い、行動を共にすることになった。そこへ鈴を奪われたバイカーも合流し(グレート義太夫と井手らっきょ)、少年を楽しませようと色々な遊びをする。
優しいお兄さんに東京まで送ってもらい、菊次郎と少年は別れるのだが、少年はおじさんの名前を聞いていなかった。おじさんの名前は何、と今更ながら訊ねると、苦笑いをして答える。
「菊次郎だよ、馬鹿野郎」
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