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馬鹿は馬鹿なりに。

『サディスト』
 古いB級映画。
 何処からどう観ても、かなりの低予算で、舞台は(国道沿いではあるけれど)沙漠の真ん中にある、恐らく潰れたのであろうガソリンスタンド兼修理所。撮影許可など取っていないと思われる。
 野球見物に行く三人の男女が、車の故障でそこへ立ち寄る。どんだけ遠い処から野球見物に行ってんだよ、と突っ込みを入れたくなる。それは兎も角、そこには誰も見当たらない。
 ひとけがないからって、家屋の中には四人分の食事があり(手をつけられているのはふたり分、と謂う明白地な伏線)、ひとは恐らく居る筈なのに、勝手にソーダを飲むは、廃車から部品を取って修理しようとするは、職業が教師の普通のひとたちの割には、日本人の目からするとかなり性質が悪い。しかし、これに類する状況は、アメリカ映画を見ていると結構ある。スーパーマーケットで品物をカートに入れながら、未清算のものを喰ったりとか。金を払えばどうしようと「自由だろ」とばかりに。
 閑話休題。
 ひとが居ないとばかり思っていたら、どう見ても良くて強盗、どちらかと云えば殺人者といった若い男女が何処からともなく現れる。凶悪な面相としか表現出来ない青年の手には、拳銃が握られている。少女はおつむが弱そうで、殆ど口を利かないが、演技の経験がなくて科白をつけなかったのではないかと勘ぐりたくなる。
 教師三人組の運命や如何に、と講談や紙芝居のようにしてみたくなるが、「如何に」などと勿体をつけなくても想像はつく。
 『ナチュラル・ボーン・キラーズ』の原点のひとつはこれか?
 とも思うが、この手の設定の映画はよくあったのだと思う。

 解説に依ると、まともなひとも育ててはいるが、B級映画の帝王と名高いロジャー・コーマンの製作だった。映像が、きついコントラストの白黒で、「なかなかいいじゃん」と思っていたら、この映画に関わった人物で映画界に残ったのは、そのカメラマンだけだったそうだ。納得。
 ただ、ちゃんとした映画しか観ない方には観てもしょうがない、と断っておく。

(2015年4月16日)

『とむらいレストラン』
 ちょっと前に紹介した『サディスト』と同じDVDに収録されていた作品。
 どういう構造になっているのか判らないのだが、1枚のDVDに2作品収録されている。
 この馬鹿げた邦題を見れば判る通り、限りなく阿呆な映画です。
 兄弟(だったかな?)が経営するダイナーで使う肉は、毎晩ひとを殺して調達している。客の評判が悪いのだから、普通に豚か牛の肉を仕入れれば良いと思うのだが、彼らにそんな常識は通用しない。兎に角、人肉に拘る。
 タダだから、と謂うのもあるかもしれないが、捕まった時のリスクを考えれば肉を普通に仕入れた方が安全だと思うのだが、そんな常識は彼らにはない。客に「不味い」と云われると、調理法を工夫しようとはする。真面目なのかなんなのか判らない。
 コクトーの「美女と野獣」(だったかな?)の真似なのか、肉の調達(つまり、殺人)をする時は、三人揃って黒のバイクスーツに身を固め、黒いバイクに乗って出掛けてゆく。ダイナーに居るのは二人の兄弟なので、残りのひとりは誰だったのだろう。
 ころっと忘れてしまった。

『地獄のモーテル』
 これも亦、人肉調理の映画。上記の作品と違って、兄弟で経営するモーテルの特製ハムは評判がいい。
 しかも、材料は暫く生きた侭、声帯を切り取りビニールハウスの畑に首だけ出した状態で埋め、食べ頃になる迄「熟成」させる。そんなことをしたら却って不味くなるような気がするのだが、そんな常識はやはり通用しない。
 これをやっているのはモーテルを経営する兄貴の方で、それが弟にばれてしまい、対決することになるのだが……。
 ラストが阿呆らしくも面白い作品である。


 斯う謂うものを紹介しているが、わたしは長いことホラー映画など見られなかった。
 怖いから。
 なので、『13日の金曜日』も『サスペリア』もいまだに観ていない。
 それがどうして観られるようになったのかと云うと、珍作映画を紹介した本を買って、なんだか阿呆くさくて面白そうだ、と思ったのが切っ掛けだった。
 その本は、別にホラー映画ばかり紹介しているのではないのだが、B級にすらならない馬鹿ホラーを紹介している倉阪鬼一郎さんの文章がもの凄く面白かった。大事にしていた本なのだが、酔っぱらって酒を零してしまったらしく(記憶にない)若干ふにゃっとしてしまっている。ああ、わたしの馬鹿。

 しかし、ホラーは古いものの方が面白い。突っ込みどころ満載だし、あまり怖くないのだ。中には『キャット・ピープル』や『たたり』などの良質なものがある。これらをリメイクしたもので、良いものははっきり云って皆無に近いといっても間違いではない。と、思う。
 最近はDVDで昔のホラーが見られるので、ゆっくり愉しませてもらおうと思っている。

(2015年4月17日)

『マシーンヘッド』
 ホームセンターのワゴンにあった500円のDVD。
 気力が無いので、だいぶ放置していた。

 画面が出ると、そこには「ALBATROS CORE」……。
いいものを手に入れた、と思ったわたしは変な趣味なのだろうか。

 所謂、昔で云うところの「ビデオ・スルー」作品である。
 ジャンルとしては、フランケンシュタインの化け物系。
 フランケンシュタイン伯爵に当たる人物が、設定としては高校生なのだが、何処からどう見ても、30才前後にしか思われない。 他の生徒も同じく。
 化け学や医療のことには殆ど知識がないわたしですら、仰け反ってしまう程の無茶苦茶さ。死体の頭にエンジンつけて生き返らすって……。しかも、何故輸血が必要なのかよく判らないのだが、屍体の血液型を忘れて、えーい、全部入れちゃえー、って、あーた。そんなことをしたら、生きていたって死んじゃいますよ。
 そもそも、彼の父親の職業がよく判らない。葬儀関係の仕事をしているのは判るが、輸血用血液のストックがあったり、屍体の処理をしたり、なんと火葬炉まである。その上、葬儀を執り行ったりもしている。アメリカって、そうなの?
 頭にエンジンをつけられた男の屍体は、勿論親族など居ない「身元不明」者だ。
 これを男性の場合は「ジョン・ドゥ」女性の場合は「ジェーン・ドゥ」と呼び習わすと知ったのは、そう、あの「ロス疑惑」の時だった。こう謂う屍体は普通、司法解剖に廻され、警察の屍体安置所へ移されるので、一般の葬儀屋の処にある訳が無い。でも、そんなことはどうでもいい。もう、こうなったら。
 フランケンシュタインの怪物は、大抵「哀れな存在」に描かれるのだけれど、この映画もその定石を踏まえてはいる。が、死んだ状態でエンジンを頭にくっつけられた割には、自分でガソリン入れたり、やけに感情豊かだったり、死に際にはなんと、自分を生き返らせたオッサンのような高校生マックスに、泣けてくるようなことを云い残す。
 やり過ぎだろ、これは。まあ、いいけど。
 ラストクレジットで、監督は「パパ、大好きだよ。愛してる」とメッセージを入れている。うーん、なんとも美しいと謂うか、やはり阿呆なのか。主人公も父と子だけで母親が居ないので、監督の境遇もそうだったのだろうか。

 それも、まあどうでもいいんだけど。

(2015年4月18日)


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