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腸活。

 なんとか活、と謂う言葉が溢れて久しいけれども、ついにこんなものまで出てきた。これはなんであろうか。
「腸活」
「腸内活動」
 まあ、どちらでもよかろう。要するに、腸を健康にしようとする行為だと思う。わたしは長年、これに励んできた。と謂うのも、十代半ばに差し掛かる手前で躁鬱病になり、鬱になったひとは判ると思うが、その期間、便秘に悩まされるのだ(因みに、躁状態の時は快便であった)。
 医学的なことはよく判らないが、鬱状態の時は体全体が非活動的になり、内臓も亦、動きが鈍くなる。食慾は落ち、胃の消化活動も鈍く、その先の腸に至っては、ほぼ動いていない。
 素人の大袈裟な話ではなく、十七、八の頃に睡眠薬の過量服薬で担ぎ込まれた病院の医師に、そう云われたのだ。まあ、動いていない訳ではなかろうが、刺激を与えなければ便が出ない状態だったのだ。
 刺激とは、下剤である。
 鬱病で精神科、当たり障りなく云うなら心療内科、今風ならばメンタルクリニックへ行くと、抗鬱剤とともに大抵、下剤が処方される。それもコーラック的な錠剤に加え、滴下薬、液状のものが必ずつく。恐らくその方が、ダイレクトに効くのだろう。
 通院、入院している者の九割ほどが、下剤を服用していた。それくらい、神経と胃腸は密接に繋がっているのだ。ストレスが溜まると胃が痛くなる。これはよく聞く話である。旅行先だと便秘になる。これもよくある。
 些細なことでも胃腸は不調になるのだ(洒落た訳ではない)。その不調な状態が、わたしの場合、三十年以上続いているのだ。生きているうちの三分の二ほどは、糞詰まりな訳である。
 尾籠な話で申し訳ない。しかしこれは、死活問題と謂うか、生活する上で常に便通のことを考えていると云っても過言ではないのだ。極端な話、便通があったらもうそこで一日のすべてが終わったような気がするほどである。
 快眠快便のひとには理解出来ないだろう。なにしろわたしは、不眠症でもあるのだ。酷い時は六十八時間、一睡も出来なかったりする。こうしたことをひとに打ち明けると、
「でも少しは寝てるんでしょう」
 と、必ず云われる。そう云われると、「おどれは一睡もしとらんちゅう言葉を聞いとらんかったんかい。その耳は飾りか、いわすぞゴラァ!」と、襟首を摑んで揺さぶりたくなる。
 一睡もしていないと謂うのは、まったく、全然、眠っていないと謂うことです。うとうともしていません。目は瞑ったりもしますが、脳はギンギンに覚めています。目を瞑ることすら辛く思えるのです。何故なら、眠れないから。無理やり何かをするのは、どんなことでも負担になるのです。
 判ったか、馬鹿野郎。ほぼ三日間、眠らずにおってみろ。神経ぶちぎれるぞ。
 閑話休題。
 精神状態が不安定になると自律神経がまともに働かなくなり、脳も内臓も変拍子になるのだ。つまり、リズムが狂う。
 眠れないだけならまだいい。幾らなんでも一週間も眠れないなどと謂うことにはならない。少なくともわたしはならなかった。せいぜい三日だ。しかし、便通はあり得るらしいのだ。
 大概のひとは下剤を用いて強引に出してしまうので、一ヶ月も滞ったりはしないだろう。が、栓のように詰まってしまい、人力で掻きださねばならぬことにもなるらしい。尾籠すぎて申し訳ないが、本人にとっては必死の思いなのだ。そうでなければ、糞が詰まって医者に出してくれと頼み込む訳がない。
 兎に角わたしは、長年便秘に悩まされてきた。あまりひとには云えない、医者にすら云いたくない悩みであった。
 それが最近、インターネットで検索すると、同じ悩みを抱えるひとが仰山おるではないか。アマンゾでも、食物繊維系の健康補助食品のレビューに、かなり明白地なことをお書きになっている方を多々、見受ける。
 この数年、医者のお世話になっていない状態で、下剤は以前かかっていた心療内科で処方されたものを一年ほどは使い、それがなくなってからはセンナ茶を飲んでいた。これは慥かに効くのだが、調べてみると習慣性があり、腸が慣れてきてしまう。つまり、どんどん濃くするか、量を増やしていかねばならないので、専門家は誰も勧めていなかった。
 ではどうすればいいのか。
 活性酸化マグネシウムがいいらしいと知り、(金がないので)一番安いのを飲んでみた。まあ、効いた。しかし、こうした錠剤を死ぬまで飲み続けるのか、と思うとうんざりする。喰いものでなんとかならぬものか、と思い、もともと白米を食べる習慣がなかったので、雑穀だけの雑炊にしてみた。
 何十年もまともに働いていない我が腸は、そったら生易しいもんではどうにもならなんだ。
 で、あれこれ調べに調べたところ、オリゴ糖とサイリウムハスクに辿り着いた。オリゴ糖はスーパーマーケットで普通に売っていたので、だいぶ前に購入したのだが、何しろ甘いものが好きではないので放置状態であった。青汁を譲り受けたのでそれに混ぜて飲んでみたら、なんとなく腸が動く。
 お、と思った。
 そして最近、サイリウムハスク、と謂うか、オオバコ粉末を購入し、あれやこれやに混ぜてみたら、腸の形が判るくらい膨満感があった。もうそこにある、と謂う感じだ。わたしの場合、医者に腸が死んでいる宣言を十代にされた重症患者なので、そう簡単には効かない。が、確実に動き出してはいる。膨満感がやや怖いけれども。
 オリゴ糖は腹を下すひとが居るくらいなので、大抵のひとに効くと思う。オオバコは、もしかすると却って糞詰まりになってしまうかも知れない。しかもかなり癖がある。薬のように飲んだら窒息するらしいし。
 あと、インターネットで当たってみたところ、このオオバコをその辺に生えている雑草と勘違いしているひとが散見された。間違った情報をおおっぴらに垂れ流してはいけない。
 サイリウムハスクは、そこらの土手や空き地に生えているオオバコではなく(科は同じだが)、中東から東南アジア原産のプランタゴ・オバタと謂う植物の種子の、そのまた外皮である。殻なので、ほぼ九割が消化されない繊維なのだ。その上、水分を吸収して数十倍に膨らむそうな。
 そりゃあ、便通もよくなるわさ。栄養価などないので、普通ならば家畜にも喰わせない代物だ。どうしてこんなものを食品にしようと思ったのだろう。世の中の七割くらいのひとが便秘に苦しんでいるのだろうか。
 な訳ないか。

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