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馬鹿とは誰か。森博嗣先生と小説

こんばんわ。実は森博嗣、京極夏彦(百鬼夜行シリーズ)ファンのアヒルです。邪魅の雫の続きを今か今かと10年以上全裸待機してます。そろそろ寒いので続き読ませてください。今日は、京極夏彦先生ではなく、その対極(?)にある森博嗣先生の小説最新刊「馬鹿と嘘の弓」を読ませていただきましたので、それと絡めて色々と適当に書いてこうと思います。ここでは「馬鹿と嘘の弓」についてのネタバレが少しだけあります。ご注意ください。

森博嗣先生に対する雑感

森博嗣先生といえば、スカイクロラの原作や、全てがFになる、で有名な方ですが、小説はミステリから時代劇、エッセイは日々の雑感からテーマに沿った長編まで書いておられる方です。森博嗣先生の凄さはファンの方がとうとうと語ってくれると思いますが、個人的には先生の凄さはその観察眼と独立心にあるかと思います。

物事をしっかり見て自分で判断して(誰かに頼ることなく)動く。だからこそ、その場その場で作品の内容(質はどれも高いです)を変化させてコンスタントに売り上げを上げてこれるのでしょう。実際、先生のデビュー作S&Mシリーズ「全てはFになる」、Vシリーズ「黒猫の三角」と現在進行中の作品群では、文章の書きぶりが全然違うように感じます。初期の作品群は精巧なアンティークの時計を見てる感じでしたが、今はアップルウオッチを見てる感覚です。どちらがよいということではなく、だんだんシンプルな描写になっていて、昔より読みやすく(時には読みづらく)感じます。文章はとてもきれいで、思考のシャープさがあふれ、現実の汚い部分がろ過されて文章に落とし込まれているように感じます。

小説の内容も、ミステリに関して言えば、昔は問いと解がぴったりはまるような作品群でしたが、今は問いも解も不定で、解釈の幅が広くなっているように感じます。これは人それぞれで好き嫌いの分かれるところと思います(例を挙げると、有栖川有栖先生の著書が好きな人は違和感を感じるかもしれません。私はどちらも好きです。)。今回の作品も解を匂わせつつ、どれが正解かは分からないものとなっています。これは森博嗣先生の犯罪事件の報道に対する記載にフィットしています。(たしか)事件の報道は、社会に事件にぴったりのラベル(解)を与えるために行うものであるというものです。カッとなって、とか、お金目当てでとかいろいろあるだろうけれども、本当の真実は誰にもわからないという趣旨のことだったと思います。※上記記載は記憶に頼って書いているので不正確なおそれがあります。また、それが先生の主張なのか、意見なのか、思ったところをただ書いただけなのかは分からないです。

今回の作品は森博嗣先生が、たまにある事件に一つの(ぼんやりとした)解を与えたもののように理解しています。最後の警察とのやり取りが、明確に社会におけるラベル張りを描写しているように感じます。

話がわき道にそれますが、社会学の研究では、よくqualitative researchとquantitative researchの違いを理解する必要があると教わります。qualitaive research methods、例えばインタビュー等は基本的にconstrucitvismとかinterpretivismの思想に則り行われます。これらの思想の意味するところは、現実は社会が作り出すもの若しくは研究者(interviewer)と対象(interviewee)が作るものという考え方です。これに対してquantitative research methods, 統計分析とか、randamized trial controlとかは、あらゆる物事に通底する法則を見だすために行われます。思想的には、誰の目からも独立した一つの現実(positivism)があるというものです。この見方からすると、先生の御思想は、段々と、positivism から interpretivismによって来たのかななどと考えています。

馬鹿と嘘の弓(少しだけネタバレ)

久々に小川さんと加部屋さんが登場して、活躍します。私得ですね。うれしいです。二人が失恋について語るシーンもあり、長年のファンとしては楽しめるファンサービス満載の出来になっています。シリーズの中の位置づけはどうなるかは分かりませんが、海月氏への言及がところどころあったりと、ファン泣かせの作品になってます。

森博嗣先生の書く思考の鋭敏さは健在です。森博嗣先生は、基本的に大衆の考え方について警戒心を示されている節がありますが、この作品も読んでいて、果たしてバカはだれなのかと悩まされることになります。コロナと絡めるのもあれかもしれませんが、一見馬鹿に見える人が、実は一番冷静に物事をとらえているのかもしれません。

終わりに

今回の記事ですが、引用を引かずに森先生について書いているので、なんか間違いなこと言ってたらごめんなさい(笑)。全文章は(当たり前ですが)私が独断と偏見に基づき書いたものです。

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