官僚の法案ミスについて

官僚の法案ミスのニュースが最近話題になっている。

提出する法案にミスがあってはいけないのは当然だが、世の中の人の大半は、法案の作り方を知らない人がまず多いし、なぜ法案を作る上でミスが発生するのかがわかっていない人が多いと思う。なので、ちょっとした法案作成の裏側を書いてみようと思う。

法制執務

法案作成にあたって、守るべきルールがあり、一般的には法政執務と呼ばれている。全ての法案は、日本の法体系の統一性を守るために、この法政執務を守った上で書かれなくてはならないことになっている。この法政執務が癖モノで数多のルールがある厄介なモノなのだが、法案を作る上で基本となるルールなので、官僚はこの法政執務に目を配りながら、条文案を書き上げている。

法政執務の例を一つ挙げると、例えば字のインテンドにもルールがあり、題名は必ず上から3字空きで書き出すとか、最後につける理由(法案提出の理由を書いたもの)は奇数ページに置くとか、沢山のルールがある。数は不明だが何百かはあるだろう。いくつかは極々特定のケースでしか当てはまらないものもあるが…

新規制定法と改め文

日本の国の法案は新規制定法と一部改正法に分かれている。新規制定法とは、読んで字の如く、一から法律を、その目的から罰則、附則に至るまで書き下すモノ。刑法とか民法とか商法とか会社法とかがそれにあたる。それに対して一部改正法とは、既存の法律の一部を鉤括弧でとって改めてしまうというモノだ。分かりづらいと思うので、少し例で示そう。

第○条 国は、民間団体を支援するよう努めなければならない。

という条文があり、この条文を「努めなければならない」という努力義務(できるだけ頑張ってね)から義務規定(やらなければならない)に変えたいという政策があったとする。その場合は、鉤括弧で変える部分をとり

「するよう努めなければならない」を「しなければならない」に改める。

という改め文と呼ばれるものを描く。こうすることで先程の条文は、

第○条 国は、民間団体を支援しなければならない。

となる。これが、場合によっては複雑多岐に及びながら続いていくのが、通常の改め文と呼ばれるものである。実際にはこんな感じで延々と続いていく。長い法案だと何百ページに及ぶこともある。気が狂いますね。

第〇条第〇項中「A」を「Y」に、「B」を「C」に、「D」を「K」に改め、「Z」の下に「E」を加え…
第〇条を第〇条とし、第〇条から第〇条までを二条ずつ繰り下げ…

縦と横の整合性

条文案を作成する上で留意しなければならないのが、横の整合性と、縦の整合性だ。横の整合性は今ある現行の法律と新たにできる法律の内容が矛盾抵触しないようにすること、縦の整合性は、一言で言えば、憲法に反しないようにすることだ。この中で、横の整合性を保つために、しばしば法案はコピペで作成される。

コピペ?そんなんでいいの?と思われるかもしれないが、この作業を書き下すとこうなる。例えば、事業者が新規事業に取り組む際に、危険なので事前に国から許可をもらうような政策を作るとする。その場合、この国には事業者が事業を行うに当たって国から許可をもらうスキームを組んでいる法律がたくさんあるはずなので、理由がなければ、それらの既にある法律に倣って書く。そうすることで、同じような構造なのに、書き振りが理由なく全く違うということを避けられるし、法案を作るうえで先ほど言った横の整合性が保たれやすい。無論、全く同じ構造のものが見つかるとは限らないので、その場合はやむを得ない、新規に書き下すことになる。ただそれでもなるべく先例に沿うよう気を配ることになる。

こうやってできた法律案は、政府が作った法律案の場合、全て内閣法制局と呼ばれるところで審査され、憲法に違反してないか、他の法律との整合性が取れているかをチェックされることになる。法政執務は複雑なので、今回のミスがどういったものかは過分にして把握してないが、おそらく簡単な誤字脱字のようなものだったのだろう。そうでなくては野党に見つけられるとも思えない。

官僚の仕事のうちでも、法律を作るということは大変な労力を費やすことになる。聞く話では、蛸部屋が作られ、そこに押し込められて何百ページもあるような法案を、利害関係者と交渉しながら血眼になって作るようなケースもあるようだ。日本を支える彼ら彼女らエリートの苦悩は続く。ご苦労様です。(僕は法案作成のプロではないので記載に過ちがある可能性があります。また官僚でもありませんので、悪しからず。)

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