僕達は。1

「初めまして、僕は、相原千尋(あいはらちひろ)です。宜しく、お願いします。」


陽蘭学園の寮に案内されると
部屋で初めて三年間ルームメイトになる人と対面した。
 

「…ああ」


優しくて、頼もしい人であってほしいと思ってたけど…なんか怖そうな人だった。
 
でも、雰囲気は怖いけど、綺麗な顔をしている。  
クセのない柔らかそうな髪の毛は栗色で
笑ったら綺麗なんだろうな。


「…魅影鷹博(ミカゲタカヒロ)。…宜しく。」
 
 
僕が思うのもあれだけど暗い人だな。
三年間も同じ部屋で仲良くできるかな…。
 
 
「とりあえず、飯とゴミ捨てと掃除決めとく?」
 
「あ、はい、そうですね…」


関西の出身だろうか?イントネーションが…

 
「ジャンケンにする?」
 
「はい、そうしましょう。」
 
 
ここの寮は変わっていて、ご飯は自炊になっている。
自炊じゃない寮もあるけど、料理はそこそこできるから自炊寮にした。
ジャンケンをして当番を決める。
 
 
3日ー料理 相原
4日ー料理 相原
5日ー料理 相原
6日ー料理 魅影
7日ー料理 相原
8日ー料理 相原
9日ー料理 魅影
 
 
「……っ」
 
「や、やり直す?」
 
「いえ…いいです。とりあえず、一週間はこれでいいです…」
 
「ホントにいいのか…。じゃあ俺風呂掃除とゴミ捨てするから…」
 
「…すみません」
 
 
僕はついてない。
昔からついてない。
頭にボールはよくぶつけるし、よく怪我もする。
彼とも仲良く過ごせるだろうか。
なにかとついてないから不安だ…。
 
 
 
 
ーーー
 
 
高校に入って初めての体育の授業で
魅影と中尾光希(なかおみつき)くんが見学していた。

中尾くんは心臓が悪いと説明されたけど
魅影は体調不良なんだとか。
…普通に元気だったはずなんだけどな。
魅影は一人でバスケットボールで遊んでいる。
 

「…あれ?」
 

さっきからずっとゴール決めてる?
黙々と拾っては投げてを繰り返してるけど、ひたすら永遠と外れる事なくボールがゴールに入っていく。
 
 
「魅影ってヤツすげーな~」
 
「え、あ…はい」
 
「もう50回くらいずっと続けてるけど、全然外れないな。」
 
「そう…なんですか」
 
「えっと、相原だっけ?」
 
「はい。相原千尋といいます。」
 
「俺は北山悠樹(きたやまゆうき)。悠樹でいいよ。よろしくな。」
 
「は、はい…。ゆ、悠樹…」
 
 
悠樹と会話してる間も魅影のボールはひたすらゴールに入っていた。
運動音痴の僕には真似できないから見惚れてしまう。
 
 
「相原~、位置につきなさい~」
 
「は、はいっ…」
 
 
徒競走でタイムアタックをしている僕達に背を向けて
魅影はひたすらバスケットボールをゴールに入れて遊んでいた。
 

 
 
ーーー

 
 
いやー、なんなんだ、あの一人バスケ!
マジスゲーし、腹立つ~!
 
俺は宮内稔幸(ミヤウチトシユキ)
自慢じゃねえがバスケバカだ!
 
 
「おい、オマエ!」
 
「…何だ」
 
 
皆が体操着から制服に着替えて一息ついてる中、俺の前の席の魅影は
涼しげな顔で頬杖を付いて次の教科の教科書を読んでいた。
 
 
「さっき一人でバスケしてたろ!」
 
「それが何だ」
 
「バスケ部に入れ!」
 
「…遠慮する。」
 
「何で!すげーゴール決めてたじゃんか!」
 
「バスケなんか好きじゃないし、運動は……嫌いだ」
 
「…好きじゃないのにあんな事できるとかやなやつだなオマエ」
 
「……そうだな」
 
「どうしたの稔之くん」
 
 
要人(かなめ)が話しかけてくる。要人と俺は寮が同じ部屋で
およそ飯を作って貰っている。
 
 
「コイツがあんなに上手いくせにバスケ部入らないって言うんだよ~。何とか言ってくれよ!」
 
「うーん、いくら出来ても個人の自由としか言いようがないよね~…」
 
「…ふぅ。俺は何の部活にも入る気なんてないから。」

 
そう言って魅影くんは歴史の教科書を閉じて席を離れて行った。
稔之くんはまだ文句ありげに去っていく魅影くんを見ていた。
稔之くんはスポーツ推薦でこの高校に入って来たから
バスケ部をより強くしたいって気持ちが大きいんだろうなあ~。
あれだけゴールを決め続ける事が出来るならチームの即戦力になるだろうし。
 
でもあんなに出来る魅影くんが何の部活にも入る気ないなんて不思議。
…何か事情でもあるのかな?
 

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