僕達は。2

「ふう」 
  
  
今日も色々緊張して疲れた…。 
魅影はもう帰ってるのかな? 
遅かったり早かったりするからどうだろう。 
  
僕が部屋に入ると、魅影は掃き出しの窓辺に座って夕暮れの空を眺めていた。 
橙色に染まった姿は、どこか… 
 
  
「……お帰り」 
 
「た、ただいま…」 
 
 
窓の右横にある机の上に鞄を置く 
 
  
「…体育の時間、見てました」 
  
「…そ。」 
  
「…、凄いですね、魅影…。僕には…出来ないです」 
  
「…。」 
 
「羨ましいです…。」 
 
「ふーん。…アンタ、50m走何秒だった。」 
 
 
なんだか、リスペクトされることなんてどうでもよさそうだ…。 
 
  
「きゅ…9秒…」 
  
「ふっ…」 
  
「わ、笑わないでください。僕だって、一生懸命やったんです…」 
  
「あぁ…ふふっ…悪かった。……昔、陸上部だったから、俺には出せないタイムだと思って。」 
  
「…そうだったんですか…。…、イヤミですか…?」 
  
「…バレた?ふふっ。」 
 
 
ああ、笑ってる。 
やっぱり、綺麗だ…。 
 
けど笑ってるのに、どこか影が…。 
 
  
「…うう…。…今日ほんとに体調、悪かったんですか?今は元気そうですけど?」 
  
「……。まぁな。今はそうでもないけど。」 
  
「…、そうですか」 
  
「その敬語やめねぇ?あと名字で呼ばれるの嫌いだから、名前で呼んでくれ。」 
  
「…わ、わかりま…、わ、わかった?努力し、…いや…するよ?」 
  
 「はは。たどたどしい。」 
  
  
  
  
敬語を…やめないか、か… 
難しいな…。 
両親にも他人にもずっと敬語を使ってたから何だか変な喋り方になってしまいそう。 
でも何だか、嬉しい。 
まだ殆ど知らないけど魅影…鷹博と少し近づけたようなこの感じ。 
少しだけ友だちになれたようなこの感じ。 
  
温かい陽気と少しづつ伸びていく日照時間が 
より一層鷹博と過ごす明日をワクワクさせてくれる気がした。 
 
 
 
 
 
 
ーーー 
 
 
 
「……」 
  
  
授業が終わって、一人窓際で青空を眺める鷹博に近付く。 
  
  
「…、暇そうだね」 
  
「……そう?」 
  
「何…考えてるの?」 
  
「何も…」 
  
「そっか…」 
  
 
不思議と、鷹博を見ると話しかけたくなる 
いつも一人で空を見てるから  
 
  
「…、」 
  
「…。」 
  
「…。」 
  
「…。」 
  
  
でも、話す事が何も思い付かない… 。
だけど…なぜだろう…。
鷹博を一人にしたくない… 。
  
  
「よお千尋~、魅影と何話してんの?」 
  
「あ、え、えっっと…何も…話してないです…っ」 
  
「ふっ。」 
  
  
中尾くんと悠樹が近づいてきて、悠樹が話しかけてくる。  
  
  
「あははっ。何も話してないのか~。…魅影って名前鷹博だったっけ?」 
  
「…ああ」 
  
「じゃ、鷹博は長いからたかでいい?」 
  
「あ、ああ…」 
  
「俺は悠樹でいいよ。よろしくな」 
  
「よ、宜しく…」 
  
  
鷹博が少し戸惑うような顔で悠樹と話して握手をしている。 
僕も悠樹のまっすぐな気さくさには驚いた。戸惑う気持ちはよく分かる。 
  
  
「あ~腹減った~腹減ったなあ~」 
  
「稔之くんうるさいよ~」 
  
「お腹空いたの?黒飴ならあるけど食べる?」 
  
「おっ、いいのか中尾!」 
  
「光希でいいよ。はい、どうぞ。」 
  
「サンキュー!!あっ、俺も稔之でいいから~!」 
  
「ありがとう中尾くーん、これで多少静かになるよ~」 
  
「涼岬くんも食べる?」 
  
「いいの~♪」 
  
「うん。あと、光希でいいよ。」 
  
「わかったぁ!ありがと光希くん!僕も要人でいいよ♪」 
  
  
中尾くんが黒飴を使って距離を縮めてる…。
そういう風に距離を縮めたらいいのか…。
  
  
「相原くんもどう?」 
  
「い、いただきます…。」 
  
「光希でいいからね。」 
  
「は、はい…、僕も名前で大丈夫ですから」 
 
「うん。よろしくね。鷹博くんもどう?」 
  
「…もらう」 
  
「はい。」 
  
「アリガト、光希。」 
  
  
…鷹博はもう名前で呼んでたんだ…。体育で一緒に休んでるからだろうか。 
…なんでだろう。 
 
少し心が、…。 

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