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きっともう、今は「いつか」なんだろう

ビレッジマンズストアというバンドの「眠れぬ夜は自分のせい」という曲が好きだ。恋い焦がれる歯がゆさと相手を愛おしく思うもどかしさが、アップテンポの曲調に絶妙にマッチしていて、とっても好きだ。歌詞はもちろん好きだけれど、なによりもこのタイトルに心惹かれる。最近のラブソングは、「眠れないのは君のせい」「涙が出るのはあなたのせい」と、相手のせいにしすぎじゃなかろうか。自分の恋心のせいにしつつも、いじらしさと切なさのあるこの曲がとても好き。

いつかなんだろう
これはもう いつかなんだろう

曲の中で何度かこのフレーズがでてくるのだけれど、私はこの部分にひどく心が揺さぶられる。

いつかなんだろう。
「いつか」なんだろう。

いつかって、なんだろう。

恋に落ちた時。
この人とこうなりたい、この人と今よりも違う関係を築きたい。そんな風になにがしかの夢をみることはごく自然なことだと思う。恋人になりたいとか、愛を囁かれたいとか、「今」じゃないいつかを夢見て期待を膨らますのは、恋の病にかかったならば通る道だと思う。

だけど、いつかっていつくるんだろう。
恋人になれた時、いつかはなくなるんだろうか。
大好きな人と一緒になれたら、いつかがなくなるんだろうか。
いつかこの人と、と何かを夢見ることはなくなるのだろうか。
恋が叶ってもそれはいつか。恋が叶わぬとも、それもまたいつか。
わたしたちは、いつかを選べない。こんなに期待しているのに。

「今」が大事だと謳うけれど。
この一瞬を生きることが大切だというツイートをよく見るけれど。
わたしたちはきっと、心の中で「いつか」に期待をしているのではないだろうか。今ではない、いつか。今よりももっと輝いている、いつか。この苦しみも、この逃げたさも、何もない明るい未来のいつか。自分が想像するいつかに夢を見ている。

あの頃のわたしが想像していたいつかは、今の私なのだろうか。
あの頃のわたしが期待していたわたしは、今のわたしと何が違うんだろうか。
社会人なんて、スーパーマンみたいなものだと思ってた。上手に恋愛をして、夢を叶えて、それなりにお金を稼いで。何不自由なく自立ができていて、休みの日はアクティブに遊んで。人に優しく、笑顔が絶えなくて、愛想が良くて。

だけど、期待していたいつかは想像の何倍も泥水の中だった。
人を好きになることがこんなに切なくて苦しいなんて知らなかった。誰かを本気で好きになって、叶わなくて泣いて。もう二度と恋なんてできないと思った間際にまた新しい誰かに恋をして。
夢を叶えるということが、好きなことをして生きていくということが、こんなにも死にたくなるほど過酷なことだなんて知らなかった。好きだからこその苦しみがあるなんて、楽しさを超えた地獄があるなんて、想像していなかった。
お金を稼ぐ責任も、自立をするための条件も、何もかもを知らなかったから。

もう少し、カッコ良い自分になれると思ってた。
今よりももっと、余裕があって綺麗で、おしとやかに、がっつかなくて。
男の子に引かれるくらい仕事に必死になんかなっていなくて、片手間に恋愛がちゃんとできて、もっと、あと少しだけいい女になれるって、多分思っていた。
だけど今のわたしは、あの頃のわたしが夢見るわたしではないのかもしれない。
ないのだろう。

ただ、あの頃の自分は「いつか」なるわたしに、随分と期待をしていた。何も知らなかったわたしは、「いつか」を神聖なもののように、待っていれば自然と来るであろう明るい未来であるかのように、待ちわびていたのかもしれない。

いつか。
今が、あの頃わたしが夢見たいつかなら。
わたしが今期待をしているいつかにも、いつかなる。
だけどきっと、その時のわたしは今のわたしよりもたくさんのことを知っているのかもしれない。全然期待通りのいつかじゃないのかもしれない。
切ないけれど、思い通りの自分になんてきっと、ずっと一生なれない。
近づけるかもしれないけれど、完全にはなれない。
理想の自分になるための経験値はたくさん積める一方、しなくていい経験をしてしまうことだってある。そこで味わう気持ちが、またわたしをつくる力になるとしたら、理想とは少し味付けが変わってしまう。
だけど、きっとそれでいいんだ。人は、それでいいんだろう。

今はきっと、あの頃夢見たいつかなんだろう。今はもう、「いつか」なんだ。

いつか、成功する。
今はまだダメダメだけど、毎日余裕などもてずにボロボロになって仕事をしているけれど。今よりももっと大物になって、いつかきっと、成功できるかもしれない。納得のできる結果が残せるかもしれない。

いつか、可愛くなれるかもしれない。
今は自分に自信がないけれど、鏡を見るのが嫌いで顔に対して死ぬほどのやるせなさがあるけれど。いつか、もう少しだけ可愛くなれるかも。可愛いねと言われて、素直にありがとうと言えるくらいの自信と余裕が持てるかもしれない。

いつか、大好きな人と結ばれたりもするかもしれない。
仕事しかしていないわたしも、上手に恋愛ができるのかもしれない。ちょっといいなが大好きになったり、わたしもみんなみたいに小花が舞うような可愛らしい恋愛話ができるかもしれない。いつか、器用に人を好きになれるかも。

そんないつかは、来ないのかもしれない。
どこかでわかってはいるけれど、今日もまた淡い期待を膨らませて、そのうちなんとなくやって来る自分が目指すいつかにむかって、わたしたちは今を生きる。
期待なんてしなければ裏切られることはないけれど。それでも。
いつかに少し期待をするから、今が楽しくなったりもするんだ。

今だけを生きるのなんて、難しいから。
未来のことを、いつかを夢見て胸を膨らますのも、そしてそれが理想通りの形で来るかもわからないことをわかりながら期待するのも、大人の醍醐味なんじゃないかなんて思うのです。

#エッセイ #コラム #note編集

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