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【働くあのひと case.10】遊ぶように働き、働くように遊ぶ

10人目は、保険会社でアクチュアリーとして働く とらさんです。大学院を卒業して、今年から社会人。サークルで出会った、頼もしい兄貴のような存在です。わたしが知る中で、トップレベルに面白くて頭がいい彼ですが、今回はじめてその心の内を語ってくれました。
ぜひ、じっくりとお読みください。

ーまずは、今のお仕事について教えて!

保険会社で、アクチュアリーの仕事をしています。一言で説明するなら、「保険会社の数理専門職」。例えば、事故が起きる確率に基づいて保険料を計算したりします。
保険会社って、一般的なビジネスモデルとは少し異なってるんだよね。普通は商品を用意して、それを買ってもらってお金をいただくけど、保険ってお客さんに先にお金をいただいて、その人に事故や死亡など予期せぬ出来事があったときにお金を支払うというので成り立ってる。保険会社自体が、事故などがないと事業が成り立たない。だからこそお客さんからは常に適切なお金を貰わないといけないんです。

保険会社って、潰れたら本当にいろんな人が困ることになる。一般的なメーカーの場合、その会社が潰れても、おおよそ同じような仕事をしている会社が他にいるから(代替商品を手に入れられるという意味で)最悪の事態が起こっても代えが利くことが多い。
だけど保険会社が潰れたら、その会社に関わった人全員が被害に合う。助けられるはずだった人を助けられなくなってしまうし、マイナスを0にする機会すらなくなる。

だから、常に健全な運営をする必要があるんです。会社が絶対に潰れないように、どんなリスクが考えられるか、一年後どれくらい会社にお金が必要かとか。アクチュアリーはそんなことを常に考えて、あらゆる計算をします。
いわば、会社を支えるための柱となる仕事をしています!

―どうしてアクチュアリーになろうと思ったの?

高校生くらいまでは教員になりたかったんだよね。そもそも自分は、人のためになにかをするのがすごく好きなのよ。自分が好きな数学を使って、人のために生きていくにはどうしたらいいかと考えたときに、シンプルに数学の教員になることが浮かんだ。大学も教育学部に入ったし、実際そこでも教育関係の人に出会っていろいろ学んで、さらに塾の講師のアルバイトまでもして……。
教育の世界をたくさん見たから、将来もその道に進むことを真剣に考えてた。

でも、知れば知るほど、教員って自分が出会った目の前の人しか救えないんだと気づいてしまったんだよね。周りにも自然と同じ職業の人しか集まらなくなってしまう。決して教員の方を否定するわけではないけれど、俺みたいな人間が教師になったら自分の世界も狭くなってしまう気がした。
どうせ誰かのためになれるのなら、もっとたくさんの人を救える仕事がしたいって思った。教師よりももっと、多くの人のためになることがしたいなと。

そんな時に、大学の授業でたまたまアクチュアリーの存在を知った。しかも、同じ大学の院に、専門的に学べるところがあるということも発覚した。(アクチュアリーに関して)専門的なことを学べる研究室って日本に3つしかないんだけど、そのうちのひとつがうちにあったから、なんだか縁を感じた。大学で確率の勉強をしていたから、アクチュアリーの資格を得ることも現実的だった。

アクチュアリーになれば、保険会社を支えることができる、保険会社を支えられればそれだけたくさんの人が救えることになる。教員になるよりも、自分にとってはそっちの道のほうがいいんじゃないかって思った。それが、アクチュアリーを目指すことになったきっかけ。

今、実際に働き始めて5カ月ほど経ったけれど、仕事は非常にやりがいがある。自分が思っていた通りのことをさせてもらえてるよ。教育の分野にも関われているし、ずっと続けてきた数学の知識も生かされてるし……。
これまで自分が培ってきたものが、すべて生かされている気がして、今とても楽しい!なんだか本当に、今までやってきたことが全部繋がっている気がしてて、今はすごく良い状態だな。恵まれてる。

―就職活動のお話を聞かせて!

本格的に就職活動を始めたのは、大学院1年生の夏かな。大学3年のときには、推薦の都合もあって、自分は院に行ってから就職しようってもう決めてた。大学院への進学は、就職を考えての道だった。

大学院1年生のときには、5,6社インターンにも参加してみた。アクチュアリーってやっぱり少し特殊だから、採用人数も少なくて、学生のうちにできることはまずしておこうと思って、積極的にインターンに参加して業界研究はした。
就活本番では、30社くらいESをだして、10社くらい面接に進んだかな。最終的には、生命保険会社と損害保険会社の2社で悩んだ。
損害保険って、例えばツイッターが炎上したときとかにも保険がきいたりするくらいだから、いろんなビジネスチャンスがあるんだよね。いろんな面で人助けができるし、そっちの方が可能性が広がる気がして、損害保険会社に就職することを決めた。

大学3年生くらいから、「就活はこういうプランでいけばうかるであろう!」という計画を用意してたから、割とスムーズに就活は進んでいた気がする。それでもやっぱり心配だったから、就活が始まったときには、めちゃくちゃ自己分析をした。

―どうやって自己分析したの?

プールでずっと泳ぎながら、自分のことを考えてた(笑)

―!?

(笑)

地上にいると、携帯が見えてしまうから、いつでも誰かしらと繋がれる。でも、水中にいるとまぁまず誰とも繋がらない(笑)
俺の頭の中って、二人か三人くらいの何かがずっと喋ってるのよ、ラジオみたいに。プールで無心で泳いでいるときには、そのうちの一人を面接官に仕立てて、ずっと想定質問を繰り返してた。プールって本当に必要なものしか持ち込めなくて、究極に無駄がない。だから、泳ぎ終わってプールから上がったときに覚えているのは、自分にとって本当に必要なことだけなんだよね。家に帰ったときに、頭の中に残っていることを書き出して、自分を見つめなおしたりしてた。
今思えばやばいやつだけど、結構おすすめよ!(笑)

こういうインタビューとかあれば、本当の意味で自分を見つめなおすきっかけにもなるけど、普通に生きてたらそんな場面はなかなかない。でも、就活って嫌でも自己分析をしなきゃいけないから、それは面白いと思う。本当の意味で自分を知ることって難しいけど、就活があったからこそ知れた自分もいるな。

―今の自分のこと、どう思う?

やっぱりコンプレックスは、すごくある。
最近思うんだけど、コンプレックスの扱い方って人によるよね。それ自体をなくす人もいるんだろうけど、自分の場合は、コンプレックスを残したまま他を伸ばして、最早それをネタにしちゃってる。
…俺、痩せたら面白くないんじゃないかとさえ思ってる(笑)そう思い込むことでやっていけている節もあるけれど、太っていることがいい方に転んでいるようにも思えるんだよね。

直接話せば、俺は自分のキャラを相手に伝えられる自信がある。だけど、まったくの初対面で自分のことを知らない人には、俺って嫌われやすいのよ。何も知らない人に俺の写真を初めて見せて「この人と仲良くなりたいか」って質問したら、「太ってるしなんかきもいし、陰キャっぽいから仲良くしない」って解答が、まあ全体の5割くらいから返ってくると思う。
でも俺は、その対である5割に囲まれて幸せに生きれてる。友達にも恵まれてる。みんなに好かれるのは無理だし、あれもこれも手に入れるのは難しい。
そういう意味では、今はなりたい自分になれてる気がするんだよね。そのうえ仕事も楽しいし、衣食住は満たされているし……。
あ、強いて言うなら映画とか観るとその主人公になりたいなとは思ったりする(笑)影響受けやすいんだよね、きっと。

嫌いなところを上げたら、たくさんあるけれど……。自己評価が甘いとか、考えすぎたり、臆病だったり。さぼり癖もあるから気を付けたい。誰かのためになることはやりたいしやるけど、そうじゃないことはさぼったりもする。
さぼり癖に関しては……この癖がなければ、そもそも太らないもんなぁ……(笑)

自分が就活をしているときにも、「なぜ?」を繰り返して自己分析をしていった。アクチュアリーになりたい理由も、就活の面接の答えとしては「人のために何かをするのが好き」というので上手に終わらせられるんだけど……。

なんか、もっと元を辿っていくと。
そもそも自分は、怒られるのが嫌なんだよね。本当にだめ。めちゃくちゃメンタルが弱いから、一回怒られると三日以上はひきずるね(笑)

怒られるのが嫌いだと、怒られないようにいい子になる。いい子になればなるほど、褒められるようにもなる。次第に、褒められるのが好きになってくる。
目立つのは好きでリーダータイプだったから、いつもまとめ役ではあった。小学校1,2年の時って、なんか知らないけど喧嘩するやつって絶対いたじゃん。自分はどうもそういうタイプは嫌いだったんだけど、むしろそういう集団にやわらぎを与える役目だった(笑)これは一種の自分の能力なのかもしれないけど、俺は自分の周りの人間を「いい人間」にする力がある気がしてて。「とらさんと一緒にいると、うちの子いい子になるのよ~。これからも仲良くしてね」なんて、いじめっこのお母さんたちにもいわれてて、そんなこと言われたらますますいい子ちゃんになっていくわけで……。
その結果、今こんなんになりました。

俺ね、周りからは「とらさんって、すごいよね」って言われがちなんだけど、学生の時から表彰とかされたことがないんだよね。生徒集会で、みんなの前で表彰状をもらう人には一度もなったことがない。
この、表彰とかはされないけど、「なんかすごいね」と言われ続けたのが、俺のプライドが高い理由だと思ってる。自信となるものがない。なにか一個でもあれば、自信の拠り所になったんだろうな。そのくせ、嫌われたくないし、怒られたくもない。そうすると、やっぱり他人に拠り所を求めていって、それが「嫌われたくない」につながってるのかもなぁ。

これは半分言葉遊びなんだけど、他人って自分が思うほどに自分のことを見てはいないけど、自分が思っていないところをすごく見てたりするんだよね。こっちが気にしていることなんて、意外と忘れていたりするのに、そうじゃないどうでもいいことは覚えてたりする。コイツ、変なとこに毛が生えてる…とか、変な服着てる…とか(笑)
だから、どう思われてるって結局わかんないもんだよね。いつのまにか、人を傷つけてしまっていたりもする。そんなつもりはなくても、誰かに嫌な思いをさせてしまったりだとか。そういった後悔は、たくさんあるな。傷つけられたことよりも、傷つけた後悔の方が多い。

今でも自分に自信はないし、後悔はたくさんあるけれど、だからこそ自力で勝ち取ったアクチュアリーの仕事で、きちんと資格がとれれば、少しは自信を持てる気がするんだよね。
今はとにかく仕事に一生懸命。きちんと勉強して資格をとれれば自信の糧にもなるし、俺は無敵になれる気がしてる。

―とらさんは、最終的になにになりたいの?

何でも屋。

なんか、何にでもなりたい。好奇心は人一倍ある方だし、いろんなことに興味があるな。小学校高学年から中学にかけては編集者になりたかったし、その前には作家になりたかったから出版社に作品を応募したりまでした。サービス業はこれまでに経験しなかったからやってみたいし、本当になんでもやりたい。
だから、ある意味みんながうらやましい。それぞれ何者かになってるわけで、自分がなれていないものになれているから、周りのみんながすごいと思って生きてる。

逆に、すべてをとっぱらって、殻にこもった状態になるのは嫌だな。人との関わり合いがなくなったら、俺はいなくてもよくなる。
あとは、人を傷つけたりするのは絶対に嫌だ。いじめで笑いをとるしか手段がないやつは嫌いだし、そういう人間にはなりたくない。

もっとキャッチ―にいうと、孫に嫌われるクソジジイになりたい!(笑)この先歳をとっても、孫と対等に喧嘩するくらいの遊び心を持っていたい。俺が死んだときなんかには、その孫にガン泣きされるような存在でありたい。こち亀の爺さんみたいになりたいな。
自分の子供って、必然的にどんな形であれ親を追いかける気がしてるんだけど、孫ってある程度の距離があるから客観視されている気がする。だから孫に憧れられるって、結構すごいことな気がする。

―わたしととらさんの出会いは早稲田大学だよね!早稲田大学に入って、実際どうだった?

本当にいい大学だと思うよ。行ってよかった。
自分の高校時代を振り返ると、割とどんなことでもうまくいってたんだよね。理系で学年一位だったし、生徒会長もやってて。文化祭の後夜祭のライブもやったし、なんか……。青春という青春を味わいつくしてて、正直調子にのっていた部分もあって「これは!俺はどう考えても受験はうまくいくだろうね!」って思ってた。そしたら案の定全部落ちて浪人するはめに。現役時代は東大しか受けてなかったんだよね(笑)そのほかの私立大学は一切受験しなかった。

浪人時代は、なまじ頭がよかったおかげもあって、夏の模試でも東大A判定で、まあ大丈夫だろうって思ってた。でもさすがに浪人してたから、なんとなくすべりどめで明治と早稲田も受けてたんだけど、いざ試験を受けたらまたしても東大がおちまして。結局、早稲田にいくことになった。俺はやっぱり詰めが甘い。

でも結果的に、早稲田でよかったって思えてる。早稲田生って全員が勉強だけをするわけではなくて、そのときどきで自分が何をするか選べる環境にいる。それって、ベンチャー企業みたいで面白いなと。やりたいことを自分の好きなバランスでやっていけるのは、いいことだと思う。

あとはやっぱり、お酒……かな…(笑)お酒と出会ったのも、コミュニケーション能力をあげる助けになったとは思う。
高校の時の自分は割と尖ってたし、なんなら中学のときには少しいじめられてたりもしたんだよね。中学生ってやっぱりナイーブだし、ちょっとしたことでいじめられたりもしてしまう。それこそ、太ってるというだけで笑われたりもするし。俺なんか、太ってるうえに生徒会長だったからよけいに目立つし。中学ってなんだか雑多で、いろんなタイプの人が集まるし、合わない人とも一緒にいなければならない。
でも、高校くらいから自分と似たような人たちが集まる界隈に身をおけるようになるから、そこでやっと自然体でのふるまい方を覚えたのかも。

だけど、自分はやっぱりお酒を覚えてからコミュ力が格段にレベルアップしたな。お酒のおかげで仲良くなれたりしたこともあるし……特に、早稲田で入っていた音楽サークルでは、酒の思い出がありまくり。

―その音楽サークル、入ってみて実際どうでしたか?

一番いいサークルですね(笑ってるけど真面目です)

―なんで音楽サークルに入ろうと思ったの?

高校のとき、「フォークソング部」っていうアコースティック音楽をやるところと、軽音部に入ってた。軽音部に関しては、最初は軽音楽同好会だったんだけど、俺が生徒会長だったから、部活に昇格させるという(笑)(きちんと生徒手帳にのってる規則にのっとり昇格させました)アコースティックと軽音の二つができるところがいいなと思ってサークルを見てたんだけど、そのサークルに出会ったとき、「あ、ここだわ」と瞬時に空気で察した。

なんか、やっぱり優しい人が多かったから、居心地がよかったんだよね。みんな尖ってなくて、人を受け入れてくれるところもよかったな。早稲田大学入ってよかったって、心から思う一方で、学生の中には振り切りすぎてる人もやっぱりいて、それはどうかと思うこともあった。
例えば女性を食い物にしか見ない人とか、酒や賭け事に溺れる人もいたなぁ……。
でも、自分が入っていたサークルにはそういうのが少ない気がして、少なくとも自分の周りの男友達を見たらいないから、サークルの仲間は信用できてた。嗜むくらいに遊ぶならまだいいけど、偏ってしまって人や自分自身を傷つけてしまうのはやっぱり違うなって思うよ。

―お話が変わりますが!とらさんにとっての一番の「好き」を教えて!

俺にとっての「好き」には、一時的なものと、長い目でみた場合のものの、ふたつがある。

自分って、大体のものに対してまずは「好き」って気持ちから始まるんだよね。これは、どんなことにもまずは興味を持つための手段なんだけど。

一時的な好きは、それに対して興味を持つための、きっかけ。その後、そのまま永続的にそれを好きでいられるかが、長い目で見た好きになる。それのために動けるかどうかとか、すべて捨てても掴み取ろうするかとか、本当に好きだったらまずは自分から動く。
自分でも難しいんだけど、他の人と「好き」の具合が違うのは、まずは入り口が「好き」ってことなんだよね。最初のハードルは低い。
でも、好きから始まったものでも、「やっぱり違うな」って思ったり、そもそも興味がなくなってしまったら、もうそれは嫌いなことと同じだな。一度「嫌いモード」に入ってしまったら、そこから好きに戻ることはほとんどない。割と冷たい人間です。

―最後に!とらさんにとって、働くってなんですか?

働くことは、あくまでライフスタイルの一個でしかないとは思ってる。

今の自分は、働いていても楽しいし、休んでいても楽しいし、何をしていても俺の本質が変わることはない。休んでいる時間の中でも働こうと思えば働けるし、働いている中でも休もうと思えば休めるし、なんでもできるはず。ただ、どっちかがないとバランスがとれなくなってしまうからどっちも存在しているってだけなんじゃないかな。
「働くことこそが人間の定義」みたいなことを言ってる哲学者がいるんだけど、「遊ぶことこそが人間の定義」ってまったく真逆のことを言ってる人もいるんだよ、なんかもう両方あっていいんじゃないのって。

休みだけでも、仕事だけでも、どちらかひとつだけの人生じゃきっと面白くないけど、そこの境目って微妙だよね。なんか、みんな無理して仕事と遊びの境目つくってない?休みの日に無理に遊びのスケジュールいれたりする人結構いるけど、その予定をいれようとしていることが最早、ひとつの仕事だよね?とか思ったりもする。

だから、遊ぶように働いて働くように遊びたい。ほかの人が働いている中で余裕をもって遊びたいし、逆にほかの人が遊んでる中で余裕をもって働きたい。そうすれば、組織のバランスをとる役割にもなれるし、誰かに感謝をしてもらえたりもするんじゃないかなと。オンオフわけすぎると、どこが表か裏かわかんなくない?だから、どっちもあってもいいとおもうし、それが面白ければいい気がする。

俺は、面白くありたいな。面白く生きていきたい。

とらさんが社長の会社で働くのが、わたしの夢のひとつです。いつも面白くて頭が良い彼ですが、はじめてその内面に触れた気がしました。サークルのみんながとらさんのことが大好きな理由がわかった気がします。

とらさーん!ありがとう!

#働くあとひと #インタビュー #就活 #アクチュアリー

いつも応援ありがとうございます。