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高校入試を廃止すべき5つの理由

1. 高等学校は十分に足りており、高校入試によって入学者を選抜する必要性は全くありません

 現代、高等学校への進学率は97%を超えており*1実質的な義務教育と化しています。また、高校の定員も十分に足りているといえます。例えば、令和2年度における高等学校本科の入学定員の合計は約113万人でしたが、入学者の合計は約102万人でした*2。つまり、高校の定員は約11万人も余っていたことになります。さらに、高校の設備も十分に足りています。全国の高校の生徒数は減少し続けており、ピーク時の2/3近くになっているのに対し、高校の数は、ピーク時の9割程度にしかなっていません(図1*3*4

生徒数・学校数
図1 高等学校生徒数および高等学校数の推移

つまり、高校1校当たりの生徒数は約1,000人から約600人へと大きく減っているのです(図2*3*4

生徒数毎学校数
図2 高等学校1校当たりの生徒数の推移

ここから、高校は設備のキャパシティー的にも十分足りているということが推測できます。

2. 高校入試は生徒、保護者、教員、国民にとって大きな負担です

 まず、高校入試は、中学校の生徒に重い負担となっています。中学生は、高校入試の対策のために辛い受験勉強をしなければなりません。また、高校入試に用いられる調査書(いわゆる「内申書」)の対策もしなければなりません。内申書には、部活動やボランティア活動、生徒会活動といった課外活動の実績も記載されるので、中学生は高校入試のためにそのような課外活動もしなければなりません。高等学校教育が実質的な義務教育と化した現代では、高校入試は、ほぼ全ての子どもたちが強制的に受けさせられる試験です。

 また、高校入試は保護者にとっても負担です。ベネッセによる「学校外教育活動に関する調査2017」によると、塾に通っている人の割合は、中学3年生で 6割を超えており、これは小中高の全学年の中で最も高いです*5図3)。

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図3 教室学習活動の活動率

塾のような学校外教室学習活動に対する支出も、中学3年生で月17,500円であり、これも全学年で最高です*5図4)。

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図4 1か月あたりの学校外教育活動の費用(学年別)

中学校3年生の高い学校外教室活動率と学校外教室活動費用は、まぎれもなく高校入試の存在が大きな理由でしょう。高校入試は保護者にこのような経済的負担を強いています。

 さらに、高校入試は中学校・高等学校の先生にも負担を課しています。中学校教員は、生徒の高校入試のために進路指導業務をしなければなりません。文部科学省の調査によると、中学校においては進路指導主任の先生の勤務時間が長い傾向があります*6。つまり、高校入試は中学校の先生の長時間労働の一因なのです。また、高校教員も、高校入試のために、入試問題の作成、願書の受付、筆記試験の監督、面接試験の面接官、答案の採点、合格者の決定など、多岐にわたる業務をしなければなりません。

 その上、公立高校の場合は入試の経費は国民の税金で賄われており、高校入試は国民に対しても負担となっています。

3. 高校入試は日本の教育や社会に弊害をもたらしています

 まず、高校入試は、中学校教育に弊害を招いています。義務教育である中学校教育を高校入試の準備のための教育に変容させてしまいます。かつ、高校入試は内申書を通じて生徒の管理を容易にし、生徒が自由にのびのびと学校生活を送ることを妨げるのみならず、中学校における厳しい校則(いわゆる「ブラック校則」)の原因となっています。東京大学の中村高康の調査によれば、高校入試を控えた中3生の約8割が内申書を意識して学校生活を送っていたことが分かっています*7

 また、高校入試は、高等学校教育にも悪影響を及ぼしています。高校入試は、高校を入試難易度によって序列化します。これにより、出身高校による差別が生まれます。さらに、この序列は、学校間での教育格差を生むだけではなく、入試難易度の高い高校は都市部に集中しているので、地域間での教育格差も生みます。かつ、高校入試対策のための塾等の学校外教育は、豊かな家庭の生徒は受けられ、貧しい家庭の生徒は受けられないため、高校入試により家庭の経済状況に基づく教育格差が生じます。そして、高校入試は、同じ高校に同じような人を集めるので、高校内の多様性を低下させます。

 その上、高校入試は、社会にも弊害です。高校入試は、子育て世帯に大きな教育費負担を課しています。前節でも述べた通り、中学生の保護者の多く子供を高校入試準備のための塾・予備校に通わせています。つまり、高校入試は子育て世帯の負担の1つの原因なのです。

4. 高校入試は日本特有のガラパゴスな制度です

 先進国で高校入試が一般的な国は日本ぐらいしかありません。高校入試が一般的な国は先進国では極めて珍しいのです。

 例えば、アメリカカナダのような国々では、高等学校は、中学校や小学校と同じように学区制なので高校入試はないことが一般的です。

 フランスドイツのようなヨーロッパの国々では、中等教育のコース(大学進学を目指すための普通教育、職業人を目指すための産業教育など)を決定するための試験はありますが、この試験は、得点が所定の点数を上回りさえすれば人数に関わりなく一律に合格とされ、点数が所定の順位内に入らないと合格できない高校入試のような競争試験ではありません。

 韓国では、「平準化政策」と呼ばれる政策が施行され、高校入試は存在せず、教育委員会が生徒を当人の希望や内申書、居住地などをもとに各公立高校に割り当てます。私立高校や国立高校では、入学希望者から抽選で入学者を決定します。

5. 高校入試は時代遅れな制度です

 高校入試は、高校進学率と高校生の数が急増し、設備の建設が追い付かなかった戦後間もない時期の名残であり、現代では全く不必要で時代遅れな制度です。戦前、当時の高等学校にあたる旧制中等教育学校の進学率は20%もありませんでした。戦後、学制改革により新制高校が誕生し、その進学率はわずか24年間で42.5%(1950年)から90%(1974年)に急増しました。また、高校の生徒数も、1948年には120万人しかいませんでしたが、15年後の1965年には507万人になり急増しました(図5)。こうした時代なら高校入試を行って入学者を絞るのもやむを得ないことでした。

生徒数・進学率
図5 高等学校生徒数および高等学校進学率の推移(1948年~1975年)

文部科学省の資料*8からも、そのような事情が読み取れます。この資料によると、新制高校が誕生した時は、志望者全員入学が理想であり、入学者選抜は定員超過の場合のみ行う例外的なものでした(23年局長通達)。ところが、高校生数と高校進学率の急増に伴い、この例外の範囲が徐々に広められ、ついには原則となってしまいました。

しかし、高校進学率が飽和し、高校設備も十分にあり、高校生数が減少している現代では、高校入試は時代遅れで全く不必要です。今こそ、新制高校誕生時の理想であった志望者全員入学を実現すべき時です。

まとめ

 高校入試を廃止すべき5つの理由をまとめると以下のようになります。

  1. 高校は十分に足りているため、高校入試は不要

  2. 高校入試は中学生・保護者・先生など多くの人の負担

  3. 高校入試は日本の教育・社会に弊害

  4. 高校入試は日本にしかないガラパゴスな制度

  5. 高校入試は高校が足りていなかった頃にできた時代遅れな制度

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