華やかさとは縁遠い

 重なりすぎて聞き取れない会話を聞き流しながら、彼はぼんやりとしていた。
 立つ位置は部屋の壁際。普段よりも華やかな装いをした淑女諸君と、己の本心を微笑みの裏に隠した紳士達とできる限り距離をとった結果だ。
「やぁ、楽しんでるカイ?」
 そんな彼に、陽気な声がかかった。声だけでその人物が誰かがわかった彼は姿勢を一切変えることなく口だけを開く。
「これが楽しんでいるように見えるなら、なるほど、宮廷魔術師というのはよほどの目をお持ちのようだ」
 彼の言葉に、相手が苦笑したのがわかる。と、何を思ったのか、相手は手に持ったグラスもそのままに彼の隣で壁に背を預けた。
「どっかいけ、酒くさい」
「オイオイ。ボクはまだ少ししか飲んじゃいないゼ?」
 ジロリと睨み付けると、相手は楽しそうに笑っていた。
「オット失礼。そういえば君達は人一倍酒精を嗅ぎ取りやすいのだったネ」
 確信犯であることはほぼ間違いない。彼はため息とともに視線を相手から引き剥がす。
「で、なんでオレは英雄の祝勝会なんぞに呼ばれて壁の花をしてるんだ」
「壁の花をしてるのは君の勝手ダロウ?少なくともここにある料理を食べ、誰かと歓談する自由はあるんだ。存分にそうすればイイ」
「それも無理な話だ」
 一瞬、彼の言っている意味がわからなかったのだろう。相手は首をかしげると彼の視線を追った。やがて、どういうことか納得したのか、その口からやる気の削がれる音を漏らした。
「花氷・・・・・・。確かにあれがあっちゃあ君はテーブルに近づくことはできないナ」
「ご丁寧に出入り口にまで花氷だ。さぞ素晴らしい作家の作品なんだろうが、始まってから飾られたんじゃオレはここから出ることもできない」
「それは悪いことをシタ。どれ、何か取ってこヨウ」
「今日はえらく殊勝じゃないか。何かあったか?」
「イヤ、さすがに英雄の力の拠り所に飲まず食わず、というのは酷だと思ってネ」
 相手の言葉に、彼は取り合えず目に付いた料理の皿をひとつ丸々持ってくるように命じた。

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