コンビニまでの道のり

 雲の峰を飛び越えようとするかのような軌道で飛行機が飛んでいるのが見える。
 よくもまぁあんな大きな入道雲の上を飛び越える気になったものだ、と感心しながら腕組みをした。
「ちょっと、私の話聞いてる?」
 と、その腕組みをした男の肩を声と共に突く姿があった。男が視線を下に下げると、そこには白いワンピースに麦わら帽子、といったちょっと狙いすぎな少女の姿が。
「あぁ、聞いてる聞いてる。その狙いすぎたキャラ設定がいい加減辛いから今からもっと楽な服に着替えたいって?いいよ着替えてきな。俺はその間にこの面倒なお役目から逃げ出すから」
「ひどぉい!!そんなこと思ってたの!?この格好は別に狙ってるとか、そんなんじゃなくて!ちょっとでも涼しい格好をしようと試行錯誤した結果なの!」
 少女の主張をさらに適当に聞き流す。
 少女の家を男は知っており、少女が決して裕福なところのお嬢様でないことぐらいは百も承知だ。そもそも少女と知り合ったのは、少女の兄が男と同じクラスだったためだ。そこから少女の兄の家に遊びに行くこととなり、当然そこにいた少女とも知り合いになったのだ。
「知り合ってからもう5年かー」
「また私の話聞いてないし・・・・・・」
 となりでむくれる少女の頭を、麦わら帽子の上からやや乱暴に撫で付ける。
「で?なんのアイスがいいんだ」
「んー?コンビニ行ってから考える」
「あんまり高いのはやめてくれよ」
「えぇ?どうしよっかなぁ。さっきから邪険に扱われてるしなぁ」
 唇に人差し指を当て、考える素振りを少女がする。
 動く人差し指を思わず目で追い、当然その唇で目が止まる。柔らかそうなその唇に。
 普段は意識しないようにしている少女のその色気から無理やり視線を引き剥がし、男は空を再び見上げる。
 雲の峰を、飛行機はすでに飛び越えていた。

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