仕事が終わって

 目の前の光景を見て、自分のやってきた仕事が報われたことを実感する。
 一年をとおして同じ場所に立ち、休みなどという存在すらない私だが、この瞬間だけは疲れを忘れ達成感に浸ることができる。秋深くなり、もう冬を目前に控えたこの光景が、冬の辛い寒さを乗り越えるための活力を私に与えてくれていた。
 あぜ道から少し離れたところにたち、己が貢献したものを眺めていると、やがてあぜ道を伝って一人の男が近づいてきた。
 遠目からでも日に焼けた肌がわかるその男も、あぜ道から田んぼの様子を見ながら歩いてくる。 
 小さい頃から知っている男だ。それが今では雇用主となり、現場を監督する立場についているのだから、時間の流れは面白い。思春期の頃はあんなにも親の仕事を毛嫌いし、他の兄弟よりも先に家を出たというのに、最終的にこの地に戻ってきて立派に家業を継いでいるのだから。
 小さい頃といえば、目の前のこの男は他の人とは違うことをしていた。
 誰も気にしない私のことを気にして、休みの日を作ろうと言ってくれたり、雨の日は家の中のなかに入れてくれようとしたり、傘を作ってくれたりとそれはそれはいろいろと考えてくれたものだ。そのことがあるからこそ、私は他の案山子よりも頑張るのだが。
「今年もありがとな。来年もよろしく頼むぜ」
 昔のことに思いを馳せていると、傍までたどり着いた男が私に感謝の言葉を向ける。そういえば、これも珍しいことらしい。夜、他の案山子たちと地面を伝って話しているときに、毎年収穫が終わると労いの言葉をかけてもらえると話したら大層驚かれた。
 これまでのことを思い返しながら思うのは、そろそろ限界かな、ということだ。
 腕も最近では雨に侵されあげているのが辛いし、強い風が吹くと倒れてしまいそうになる。これまで頑張ってきたが、さすがにこれ以上は頑張れそうにもない。
 子供の頃から知っている男のとなりで倒れるのも悪くない。
 そう思うと、体に力が入らなくなった。一陣の風が吹き、私に金色の草原が揺れる様を幻視すると、私の体は地面に倒れていた。

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