呪い疑惑

「すっかり秋ですなぁ」
 始業時間前、朝早くに投稿し、昨日の夜読み終わることができなかったラノベを読み進めていると、友達がそんなことを言いながら教室に入ってきた。
 気にすることなく読書を続けていると、その友人は本を読む彼の肩に手を回してきた。
「すっかり秋ですなぁ」
 その口から、一言一句違えることなく教室に入ってきた時と同じ言葉が紡がれる。
 これは相手にするのがめんどくさいなぁ、と内心うんざりしながらも読んでいた本に栞を挟み、机の上に置く。
「そうだな。まだまだ暑いけどな」
 言う通り、9月になり、夏休みが終わったとはいえ、まだまだ残暑厳しい時期だ。
「で?何が言いたい」
 友人との会話よりも、今は読んでいる本の続きがきになる彼にとって、相手にしなければ永遠と同じ言葉で絡んでくる友人は厄介この上ない。相手にせずに過ごしていたら、最終的には涙声になるのだ。
 その時になっても口にする言葉は一緒なのだから、こいつは何かの呪いにでもかかっているんじゃないかと心配したこともある。
 相手にしてもらえるまで同じ言葉しか話せなくなる呪い。
 うん。めんどくさい上に同性のそんな呪いを解くために付き合うのはいい加減に疲れたのでだれか解呪してください。
 これが異性なら多少ときめかないでもないのだが。
 相手にしてもらえずに涙目になる女子。
 うん。いいな、それなら。喜んで相手になろう。
「いや秋といえば食欲の秋。昨日栗食ったんだよ!!」
「・・・・・・で?」
「え?いやそれだけ」
 呆れてものも言えないとはこのことだ。
 彼は大仰にため息をつくと、本を開き、再び読書を再開した。

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