彼の布団事情


「あぁー布団干してぇ・・・・・・」
 同僚の突っ伏しながらのつぶやきに、タイピングの手を止める。
 しかしそれも一瞬。そのまま何事もなかったかのように再び手を動かし、彼女は今度の企画を通すための資料作りを再開する。
「干せばいいじゃない」
「最近夕立が結構あるだろ?怖くて布団干せないんだよ」
 確かに最近は毎日のように夕立があるな、と思う彼女だが、同時にもう一つ思う。
「別に朝干せばいいじゃない」
「・・・・・・は?」
「いや、だから」
 PC操作の手を止め、同僚に体を向ける。
「朝干せばいいじゃない。朝起きて、出社するまで外に出しておけばいいじゃない」
「いやいや、そんなことできるわけねぇじゃん」
「なぜだ?」
 同僚の言っている意味が心底理解できずに、彼女は首を傾げる。
「だってよぉ、朝だぜ?」
「夕方に雨が降るから布団が干せないんでしょう?だったら、朝に布団を干せばいいじゃない」
「いやいや・・・・・・。朝は出勤するまで眠くて布団から出れねぇんだ。だから無理」
「むぅ。やはりそういう人はいるのか」
 別にこの同僚とは短い付き合いではないのだが、こんな話は初めてする。彼女は首をかしげると、同僚からPCのディスプレイに視線を戻す。
「だったら私から言えることはなにもないな」
 彼女の日課は朝起きて走ること。
 必然的に朝起きる時間は早くなり、布団を干す時間も十分にあるのだが、これを言っても他の人にはなかなか理解してもらえない。
 内心で理解されないことを不満に思いつつ、仕事を再開した。

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