音楽史年表・記事編7.純正律に回帰したブルックナー
ブルックナーはオルガン奏者であり、合唱指揮者でもあったので、フリギア旋法やリディア旋法などの純正律の教会旋法を指定する合唱曲を作曲しています。オルガンという楽器は鍵盤楽器の中で最も歴史が古く、かつ巨大な楽器です。大型のパイプオルガンは数千本のパイプと鍵盤、ストップからなりますが、ストップは音色を変えるためと8つの教会旋法(純正律)ごとに調律されたパイプを選ぶために使用されます。鍵盤楽器で純正律に対応できる楽器はパイプオルガンに限られます。チェンバロなどの楽器は曲ごとの旋法に合わせて調律を行う必要がありました。ヘンデルはオラトリオ「メサイヤ」HWV56を初演するために、平均律への移行期の中全音律で演奏しましたが、それぞれの調性に調律された7台のチェンバロを使用したとされます。
ブルックナーはオルガン奏者として若い時から純正律に親しんでいましたので、交響曲の作曲においても、特にブラスの重厚な響きは純正律であったのでしょう。純正律と平均律の周波数を比較してみますと、オクターヴではいずれも1:2となりますが、ドとソの5度(完全5度)の周波数比では純正律の1:1.5に対して平均律では1:1.4988(△0.11%)、ドとミの3度(長3度)の周波数比では純正律の1:1.25に対して平均律では1:1.2599(+0.79%)となり、特に3度の純正度が悪くなっています。3度の純正度を良くした調律法が中全音律になるわけですが、平均律での演奏であっても、3度の和声が出たときには2声部の周波数比を1.25に近づけると響きがよくなります。ブルックナーの交響曲の演奏では、やはり和声は純正に響かせることが聴く人に感動を与え、教会での圧倒的なオルガンの響きに近くなるものと思われます。
このことはブルックナーに限らず他の作曲家の交響曲や器楽曲にも当てはまると思います。オーケストラが純正で重厚な響きで、演奏するホールを豊かに響かせることができれば、聴衆に大きな感動をもたらすでしょう。
【音楽史年表より】
1878年3/30、ブルックナー(53)
オルガン伴奏、テノール(バリトン)独唱(先唱)、混声4部合唱による交唱「マリアよ、あなたはことごとく美しく」フリギア旋法WAB46
リンツのマリア懐胎大聖堂(新大聖堂)の建立者ルディギール司教の司教就任25周年のために作曲され、同司教に献呈される。(1)(2)
1879年8/28、ブルックナー(54)
無伴奏混声8部合唱による昇階唱「正しい者の口は知恵を語り」リディア旋法WAB30
聖アウグスティヌスの祝日に際して、ザンクト・フローリアンにて初演される。(1)(2)
【参考文献】
1.ブルックナー・マーラー事典(東京書籍)
2.作曲家別名曲解説ライブラリー・ブルックナー(音楽之友社)
SEAラボラトリ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?