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処女作 【 ダイヤモンドのつくりかた 】私小説を創作大賞2024に応募してみる!

1.プロローグ

「あー、今日も終わっちゃう」
そんな一言を呟いて電車に乗る。
揺れる電車に乗りながら、
なんてことのない1日を振り返って。
窓ガラスに映る自分の視線を避けて
空いた座席に腰を下ろす。
荷物と身体を小さくまとめながら、
おそらく冷めた表情で携帯に目を落とす。
ーもう少し詰めてくれたら楽なのに…。
余裕はあるのに微動だにしない隣の人に
イラっとする自分に幻滅しながら、
サブスクのプレイリストをスクロールする。
選択した音楽が流れ始めてようやく、
透は心の中の避難部屋に閉じこもった。

大学を卒業して早9年。
想像していた自分とはかけ離れてもいないが
(ホントはそこまで未来の自分は想像していなかったのだが)、
平凡な自分と変わらない
おおよそ大多数の人が想像するであろう
社会人とはちょっとだけ、
違う人生を歩んできた。

幼い頃から歌手を目指していた、
といえば夢追い人と思われるかもしれないが
少なくとも、私に言わせれば
地に足がついた、むしろつま先から
頭の天辺まで地面にのめり込むほどの現実を
穴が開くほど見つめた日々が
そこにはあった。

子供の頃からあまり
興味をそそられるモノが少なく、
唯一と言っても過言ではない好きなモノ…
それが、歌うことだった。
3年半地元の銀行に勤め、転職のため上京。
今度はこの小さな島国で名の知れた企業に1年半ほど勤めた。
歌手を目指すことを決めたのは、そこを辞めたあとのことだ。

歌手を目指すなんてそんなに上手くはいかないだろうと思っていたわけなのだが、
たまたま見つけたボーカル募集掲示板でのやり取りがきっかけで、
これまた私にはもったいないくらい有名なバンドさんに目をかけてもらうことになった。
作曲のいろはや路上ライブのやり方など
様々なことを教えてもらい
最終的にライブには、
100人のお客様が集まってくれた。
お客様は友人がほとんどを占める
ライブではあったが、
夢と現実のギャップに悩み
押し潰されそうな毎日を乗り越えて作り上げた
ライブは、自分の目標であった
100人を達成したという意味では
成功と言っても良いのかも知れない。

ただあの日を境に、
いかに自分の考えが甘かったのかを
思い知ることになる。

つづく

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 #私小説

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