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茶湯からの、便り 五

歳月人を待たず
二〇二〇年最後のお稽古
先週から7日しか経っていないのに
いっきに寒さが増して
震えるほどになってきた
真っ赤に染まっていたもみじも
枝のさきでちりちりに縮こまって風に流れていくのを待っている

うう
寒い

釜からお湯を掬いながら
今日の湯はなんだかとろっとしているな
透明というより少し白っぽく思える
と考えていた

たてた茶を飲むと
やはり、とろっとまろやかでやわらかい

お炭だととろっとするのよ
と先生が教えてくれる
そこで初めて今日の湯が炭で沸かしたものだったと気づく

今日の茶碗は
ずっと手で包んでいたくなるよう器だった
茶碗を持った手が
いままで目にした自分の手史上で一番
上品で優しく日本人としての自分を感じる手だった

やわらかな薄茶をのみながら
先生がよく見てないのをいいことに
茶碗を手前に向こうに動かしてみる
小高い山々の前に
ゆるやかに薄緑の海が揺れる
行ったことのない田舎の景色のよう

冬籠り、薄氷、落ち葉
そんな名前のついたお茶菓子をいただきながら
なんて豊かなんだと一時止まる

薄ピンクのまるっとした形に
白いふわっとしたものがかぶさっている
霜がおりた寒い朝にこたつの中で丸くなって
外にも出ずに冬籠りしている姿を思い浮かべる

薄氷
目の前にあるのは少し崩れた台形の四角くて白い板
それに薄氷と名付けた途端
ただの台形が季節味を帯びて
物語を纏う

薄氷を口に運びながら
日本人として生まれた喜びを噛み締める


今年もありがとうございました。
また来年。

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