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今日のメインは #月刊撚り糸

新しいホールへの連れて来られて、どれだけ時間がたっただろう。
引っ越し先であるここは、思うにとても変な場所だ。まず暑い。明日にも今年の最低気温を塗り替えるってここにくる直前に聞いていたんだけれどな、と熱でぼんやりする頭で考えている。

あまりの暑さで体が溶けていきそうだ、と思っていると、音もなく世界が回りだす。あまりのスピードに体がちぎれそうだ、でもこの試練はきっとこのホールで必要なことなのだろう。自分のからだがすこし、軽くなってしまった気配を覚えながら すっかり変わった周囲をきょろきょろとみまわす。なにより見渡す限り、しかいがほんのり赤い。
「あとどのくらいかかるんでしょう……」ふと背後から聞こえる声に自分は思わず振り返った。

すると、「透明感!」と思わず言いたくなるくらいの子どもがそこに立っていた。どうやらこのホールにはひとりで来ることになったらしい。
かれこれ二時間くらいこうしているよね、というと どうやらこの子は自分より先にこのホールにきていたようで。「もういつ回るか分からない世界、出たいんです。いつ終わりますか?」と再び尋ねられた。

空がオレンジに色づいてきたから、あと30分もすれば…あるいは明日までここにいるのかもしれない。と答えるとわかりやすく肩を落とした。そりゃ、見通しも立たないままずっとここにいるのはしんどいだろう。でも、答えを示したくても自分にも いつまでここが熱いのかも、いつまでここが ときどき回るのかも、自分たちがこれからどうなっていくかもわからない。

そんなことを話しながらぼんやり座っていると、心なしかさっきまでよりも暑さが和らいでいる。これはもう、あの地獄のような暑さからは解き放たれたのだろうと周りを見渡すと、心なしか視界が色づいている。さっきから一緒の子どもも、少し体が赤い。


すると突然、空気がゆらいだ。また回るのか、と2人身体を固くしたが、隣を見ると子どもの身体が下に…ではなく、自分の体が浮いていた。もがいても逃げられず、どこか別のばしょに移されたのだろうか。周囲の温度が急速に下がっていくのを感じながら、小さな揺れに身を任せるしかなかった。



カチャカチャ、かたかたと さっきまでの静けさとは裏腹に音が飛び込んでくる。あの子どもはどうなるのだろう。きっと彼もじき、このテーブルにやってくるのだろうな。あれだけの時間暑い思いをしたんだ、きっとこのテーブルの主役は……



「このミネストローネ、メインのハンバーグにぴったりだね!」


***


*この小説は、七屋糸さんの「月刊 撚り糸 」一月のテーマ「どうして言ってくれなかったの」に参加したものです。

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