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ニューヨーカーの煩悩—NYタイムズ不動産欄の悦楽

滞在期間も終わりが近づき、去年はすみずみまで読んでいたニューヨーク・タイムズも斜め読みしかしないように。紙版だとやっぱ楽しいなと思った日々(←気持ちに余裕があった、ないし暇だった)が懐かしい。弔いに、大好きだった欄(セクション)を紹介。第一弾は、real estate 不動産。

土曜版に入っているのがこの不動産セクション。ニューヨークの金持ちとインテリが、週末の朝にコーヒーを飲みながらぐふふと読むわけです。リベラル派で知られ、平日の舌鋒鋭い記事と土曜版・日曜版の充実した論説欄もウリですが、この不動産セクションでは金持ちもインテリも一緒にぐひひ。煩悩感がすんごい。のぞき見気分でわたしも大好きです、むふふ。

なんと言っても、持ち家!アメリカ人たるもの不動産所有者でなければならない!という呪文が練りこんであるのがこのセクション。絢爛たる物件、素敵すぎる家具、あぁ美しい庭。わたしなぞにはリアリティが感じられないお値段。—なるほど、こういうのがニューヨーカーたちの夢なのかと深く得心できます。

下世話感が増してもっと好ましい(?)のは、ひとさまはどんな家を買うかのドキュメンタリー。こちらのコーナーではぐっと現実味のある人間が登場して、予算の制約とその人物のちょっとしたライフヒストリーが紹介されて、物件三択。さて、彼・彼女はどの家を買うのでしょうと野次馬根性をあおってきます。土地勘があって、自分の家の値段なり家賃なりを知っていれば、ほぉほぉそう来ますかとか、あの辺はそんな風かと熟読してしまう。パーフェクトな物件はないわけで、当人がどこに妥協点を持ってくるのかを味わう滋味深いコーナー。

と、全体にムフフなセクションですが、ときどきオッという記事も。昨日(2022/7/30)の、不動産投資をする女性たちの記事はそんな一本。

またお金持ちの話かと思いきやさにあらず。夫とのセットでいるだけで良いのかと悩んだとき、母親になっていったん職場の一線から離れたとき、自分が自分らしくいられるかと不安になったとき、不動産をもつという踏ん切りが自分を力づけてくれたと。女性不動産主の互助会も頼もしいと。不動産フェミニズムですね。女性もが不動産神話に取り込まれるという話でもありますが、NYタイムズらしい具体的な顔が描きこまれた好記事。

家賃の急上昇で引っ越さざるを得なくなった女性たちの記事とあわせて、ドラマティックです。この辺じっくり読み解いていったら卒論くらい書けるのでは。

では第二弾はFood sectionで(いつのことやら)。あとよく見ると、不動産セクションには日曜の日付が入ってました。あれぇそうだったかなぁ。いつも土曜に来るような気がするけど(こういうテキトーなところもアメリカ)。

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