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空力デバイス研究①

「ダウンフォースだ!」
今回は、空力デバイスの研究として、エアダム型ウイングの性能試験の結果をご紹介します。

これまでの研究成果

以前に書いたダウンフォースに関する記事にて、次のような研究成果を得ました。

・ミニ四駆ではコーナリングではなくジャンプ飛距離短縮にダウンフォースを活用すべし
・ストレート3枚着地の速度は5.9m/s
・これをストレート2枚着地におさめるのに必要なダウンフォースは0.36G
・そのダウンフォースを得るには揚力係数2.12が必要だが、本物のレースカーや飛行機の翼の形状を真似ても達成は困難
・このため、ミニ四駆のサイズ・速度に適したミニ四駆用空力デバイスの研究が必要
・エアダム型ウイングが良さげ

(当該記事はこちら)

というわけで、ミニ四駆に適した空力デバイスの実験をしてみました。
上記の記事に記したとおり、エアダム型ウイングというのが有望そうだということで、試作して実験しました。

作成したウイング

試験のために試作したウイングがこちら

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5種類のウイングを用意しました。
全て前後長は20㎜、全幅は70㎜ですが、高さは異なり、10㎜、15㎜、20㎜、25㎜、30㎜としました。すなわち、高さが前後長の50%、75%、100%、125%、150%となる5種類を用意し、前後長と高さの比率の違いによる性能の差を探ろうというわけです。
なお、素材には和菓子の入っていた箱の厚紙を使っていますので、ミニ四駆に搭載してレースに出すことはできません。あくまで実験用です。

実験方法

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すんごいテキトーなやり方で恐縮ですが…
スケールの上にダンボールで作った土台を置き、その上にウイングを取り付けます。
これを扇風機の前に置き、無風状態でスケールを0gに合わせます。扇風機のスイッチを入れ、ウイングに風を当てたときのスケールの数値を読み取り、ダウンフォースの大きさを測定します。

ちなみに、こちらの風速計で扇風機の風の強さを測定しました。

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扇風機の風は強弱の波がありましたが、羽から60㎝くらいの位置で概ね3.5m/sでした。

なお、風に強弱の波があるので、スケールの数値も一定ではなく変動します。
なので、数十秒間ほど数値の変化を見続け、だいたい平均はこのくらいかな?という感覚で数値を読み取ることにします。
より正確な結果を求めるなら、風の強弱に変動がない装置が必要ですが、ひとまず今回の実験はこれで行きます。

実験結果

結果は次のようになりました。

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・高さ比率とは、ウイングの高さが前後長の何%かを示したものです。
・測定値は、スケールの数値を読み取った値です。
・揚力係数は、スケールの数値(グラム)からダウンフォースを単位N(ニュートン)の力として換算して、風速(3.5m/s)と翼面積(前後長20㎜×全幅70㎜)をもとに算出したものです。

考察

揚力係数が最も小さい高さ比率50%の場合でも、揚力係数2.06と極めて高い数値をマークしています。普通の飛行機の翼でも揚力係数は最大1.5程度なので、恐らく空気抵抗も大きいであろうことに目をつぶれば、かなりの好成績と言えそうです。
特に、高さ比率150%なら揚力係数が3を超えており、特筆すべき数値です。

高さ比率が大きくなるほど、揚力係数も大きくなっています。すなわち、ウイングの高さが前後長に比べて高いほど、ダウンフォースを発生させる能力が高いということです。

しかし、ウイングが高くなるほど前方投影面積が増すので、空気抵抗も増すと考えられます。例えば、高さ150%の前方投影面積は、高さ75%に比べると2倍ですので、単純に考えれば空気抵抗も2倍ほどあるものと思われます。が、揚力係数はわずか1.36倍でしかありません。つまり、高さの高いウイングは、劇的な空気抵抗の増大と引き換えに、わずかばかりの揚力係数アップを獲得しているとも言えそうです。

なお、高さ比率75%でも揚力係数は2.33であり、目標の揚力係数2.12を超えているじゃないか!と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これは揚力係数の意味するところが少し違っており、今回測定したのはウイング自体の揚力係数です。一方、目標の揚力係数2.12というのは、車体全体としての揚力係数です。
今回実験したウイング自体の揚力係数が2.12を超えているからといって、これを車体に取り付けたら車体全体としての揚力係数が2.12を超えるのかというと、それはわかりません。
なので、このウイングを取り付けることで必要なダウンフォースを得られるかどうかは、もう少し検討を進める必要があります。

必要なダウンフォースを得られるか?

今回の実験で使ったウイングが、ストレート3枚着地となる5.9m/sの速度のとき、どのくらいのダウンフォースを発生させるのかを考えてみます。
高さ150%のウイングなら、ストレート3枚着地となる5.9m/sの速度のとき約9.6gfのダウンフォースを発生させます。
目標のダウンフォースは、車重を150gとすれば、その0.36倍で54gfなので、単純に考えればウイングを6枚搭載すれば目標達成です。

しかし、ウイングの枚数が多すぎると、前方側のウイングで気流が乱れることにより、後方側のウイングの効率が落ちると思われます。なので、単純にウイングを6枚載せるだけでは、うまくいかないと考えられます。
気流の乱れを考えれば、ウイングの枚数は、前部、中央部、後部の3枚くらいが限界ではないかと思われます。

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また、ウイングが高くなるほど後方の気流が乱れやすくなると考えられるので、前方側のウイングは高さを抑える必要がありそうです。なので、揚力係数が優秀だからといってむやみやたらと高さの高いウイングを使えばいいとは限りません。
また、だからといって前方側のウイングを低くし、後方側のウイングを高くしすぎてしまうと、前方より後方のダウンフォースが大きくなりすぎ、ジャンプ中の姿勢が頭上がりになり、着地に悪影響が出ることも考えられます。

つまり、ウイング単体で見ると高さが大きいほど揚力係数を大きくできるものの、これによる悪影響もあるので、高さと前後長の最適な比率は、一概には判断できないと言えるでしょう。

ウイングの高さは搭載位置や前後のバランスを考慮して決定することとし、必要なダウンフォース確保のためには翼面積の増大を併用して対処すべきと考えられます。
また、枚数が3枚程度となるとウイングだけで必要なダウンフォースをまかなうのは難しいと思われるので、やはり車体そのものもウイングとして活用する必要がありそうです。

まとめ

今回の実験で、次の事項が明らかになりました。

・エアダム型ウイングの揚力係数はとても優秀(ただし空気抵抗もたぶんでかい)。
・高さを大きくするほど揚力係数も大きくなる。
・しかし、高さが大きいことによる悪影響もあるので、高さと前後長の最適な比率は一概には判断できない。
・ウイング後方の気流の乱れを考慮すると搭載可能数は3枚程度と思われ、ウイングのみで必要なダウンフォースをまかなうのは難しい。なので車体そのものをウイングとして活用する必要あり。

自分の感覚としては、エアダム型ウイングは非常に優秀という印象です。
これとアンダーパネルを組み合わせれば、目標のダウンフォースを達成できるんじゃないかと感じています。

次回は、アンダーパネルを付けた車体を試作し、車体によるダウンフォースを計測してみます。


次回の記事はこちら


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