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夢十夜(第八夜)

夏目漱石
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青空文庫より、
夏目漱石「夢十夜」の
第八夜を読みました。

《ふわっとあらすじ》

こんな夢を見た。

私は床屋に行った。
四角い部屋の二方向には窓があって
残る二方向には、鏡がかかっている。

鏡の前の椅子に座った。
とても座り心地のよい椅子だった。

鏡の中を見ると、後ろに窓があり
斜めに勘定場の帳場格子が見えた。
格子の中に人はいなかった。

鏡越しに窓を見ていると、
庄太郎が女を連れて通り過ぎた。

そして豆腐屋がラッパを吹いて通った。
ほっぺたが膨らんだまま通り過ぎた。

今度は、芸者が来た。
まだ化粧をせず寝ぼけた様子だ。
挨拶だけは聞こえたが、
鏡には映らなかった。

すると白い着物を着た
大きな男が出てきて、
ハサミとくしを持って
私の髪を切り始めた。

白い男は、
「旦那は表の金魚売をご覧なすったか」
と聞いてきた。
自分は「見ない」と答えると、
それきり無言でまた髪を切り始めた。

髪を切っていると、
「あぶねえ」という声が聞こえて、
鏡越しの白い男の腕の間から
自転車の輪と人力車の梶棒が見えた。

次に、粟餅屋の声が聞こえた。
しかし、粟餅屋は鏡には映らなかった。
餅をつく音だけがした。

その次に鏡を覗くと、帳場格子にいつの間にか
一人の大柄な女が座っていた。
札束を数えているらしいが、
いつまで数えても終わりがなく、
ずっと百枚がその手にあった。

洗いましょうと白い男に言われたので
立ち上がって振り返ってみたが
帳場格子の中には女も札束もなかった。

支払いを済ませて外へでると、金魚売がいた。
金魚売はまったく動かなかった。


《語句解説》

帳場格子:和風の商店、旅宿などの
     帳場(勘定や帳付をするところ)の
     三方を囲う細かい衝立(ついたて)格子。

パナマの帽子:パナマソウの葉を細く裂いた紐で作られる、
       夏用のつば付の帽子。日本では戦前、
       紳士用の正装として夏に愛用されていた。

御化粧(おつくり):化粧を丁寧に言う女性言葉。
島田の根:島田髷(しまだまげ)は日本髪において
     最も一般的な女髷。島田の根を高く上げて
     結うスタイルを高島田といい、
     御殿女中などに広まり、
     明治以後は若い女性の正装となった。

梶棒:人力車、荷車などの前の部分に
   車を引くために取り付けた長い柄。
粟餅:もちあわを蒸し、搗(つ)いて作った餅(もち)。
   もち米を加えて作ることも多い。
まみえ:眉。
銀杏返し:幕末ごろ10代前半から20歳未満ぐらいの
     少女に結われた髷で、芸者や娘義太夫にも
     結われるようになり、明治以降は30代以上の
     女性にも結われるようになった。
     銀杏髷を分けて折り返し、
     輪を2つ作ったことに由来する。
黒繻子:黒い色の繻子。
    繻子とは経糸と偉糸の交差する点を
    なるべく目立たないようにして、
    織物の表面に経糸または緯糸を
    長く浮かせた織り方です。
    「サテン」とも言われています。
半襟:和服用の下着である襦袢に縫い付ける替え衿のこと。
素袷せ:肌着を着ないでじかに袷を着ること。
    袷とは、裏地をつけて仕立てた着物。⇔単
斑入り:地の色と違った色がまだらにまじっていること。


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音声配信アプリstand.fmにて、
「しんいち情報局(仮)」の
「朗読しんいち」を
担当させていただいています。

しんいち情報局(仮)
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