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夢十夜(第十夜)

夏目漱石
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青空文庫より、
夏目漱石「夢十夜」の
第十夜を読みました。

《ふわっとあらすじ》

こんな夢を見た。

庄太郎は町内一の正直者で
好感の持てる男である。

彼が女にさらわれて
七日目の晩に帰ってきて以来、
熱を出してずっと寝込んでいる、
と健さんが知らせに来た。

庄太郎は果物屋の店先に立って
通りすがる女の顔を眺めるのが
ただ一つの楽しみだった。
女が通らないときは、
籠に盛られた果物を感心して見ている。
商売をするなら果物屋だ、と
言っているものの、
いつもパナマ帽をかぶって
ぶらぶら遊び歩いている。

ある夕方、
身分のありそうな女性が一人で
庄太郎のいる果物屋を訪ねた。
庄太郎は女を見て、
すぐに着物の色が気に入り、
女の顔も好きになった。

女はその店で一番大きい
果物の籠詰めを頼んだ。
庄太郎が籠を渡すと、
女は大変重いというので、
気さくな正太郎は女の家まで
籠を持って同行することになった。

それきり彼は帰って来なかった。

みんなが心配して騒ぎ始めた七日目の晩、
正太郎はふらりと帰ってきた。

庄太郎の話によると、
電車に乗って山へいったのだと。

電車を降りるとそこからは広い原で、
女と歩いていると、急に断崖に出た。
すると女は庄太郎に
ここから飛び降りてごらんなさい、
といった。
庄太郎は何度もそれを断ったが、
飛び降りないと豚に鼻を舐められますよ
というのである。

豚は嫌いだが、命には代えられないので
飛び込まずにいると、豚が一匹
鼻をならしてやってきた。

庄太郎は仕方なく
持っていたステッキで豚の鼻面をぶった。
豚はぐうと言って崖の下に落ちていった。

しかし、
次々と数え切れぬほどの豚が
途切れることなく群れを成して
庄太郎めがけてやってくるのが見えた。

庄太郎は七日六晩、豚の鼻を打ち続け、
そのたび豚は崖の下に落ちていく。

しかし、さすがの庄太郎も精根尽きて
とうとう豚に鼻を舐められてしまった。
そして崖の上に倒れた。

ここまで健さんは話をして、
女を眺める趣味はよくないよ、
といった。さらに、
庄太郎のパナマ帽が欲しいと言った。

きっと庄太郎は助かるまい。
パナマ帽は健さんがもらうことだろう。


《語句解説》

好男子:好感のもてる男子。美男子。
水菓子屋:果物屋。
水蜜桃:桃。
切岸、絶壁(きりぎし):切り立った険しい岸。断崖。
雲右衛門:桃中軒雲右衛門のことか。
     明治後期の浪曲師。
     門付け芸にすぎなかった浪曲(浪花節)を、
     大劇場で通用する芸に高めた、浪曲中興の祖。
檳榔樹:ヤシ科の常緑高木。高さ10~17メートル。
    幹は直立し環紋がある。
    葉は羽状複葉で、幹の頂に集まってついている。


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音声配信アプリstand.fmにて、
「しんいち情報局(仮)」の
「朗読しんいち」を
担当させていただいています。

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