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夢十夜(第九夜)

夏目漱石
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青空文庫より、
夏目漱石「夢十夜」の
第九夜を読みました。

《ふわっとあらすじ》

夢の中で母からこんな話を聞いた。

今にも戦が起こりそうな世の中だった。

家には若い母と三歳の子供の二人きり。
父は戦に出かけてしまって、
ずっと帰ってきていない。

母は毎日子供に
「お父様はどこ?」と聞く。
やはり、母の期待通りの
答えはなかった。

夜になると、母は短刀を帯に差し
背負った子供を細帯でくくる。
八幡宮へお参りに向かうのだ。

お宮に着くと拝殿の前に座り、
夫の無事を祈る。
辺りが真っ暗なので、
子供が泣くこともある。

それが済むと
子を背負っていた細帯を解いて
紐の片端を拝殿の欄干に括り付ける。
もう片端はしっかり子供を縛っておく。
すると子供は広縁の中を紐の長さ分だけ
自由に這いまわれる。

母は拝殿を降りて
二十間の敷石の間で
御百度参りを始めるのだ。

子が機嫌よくしている日
ばかりではない。
ひどく泣く時は途中で止めて
どうにか泣き止ませてから、
御百度をやりなおすこともある。

こんなに母が毎日苦労をして
夫の帰りを待っていたのだが、
実際夫は、とうの昔に浪士になって
すでに殺されていたという話である。


《語句解説》

足軽:ふだんは雑役を務め、戦時には歩兵となる者。

雪洞(ぼんぼり):灯をともす部分の周囲に紙または
        絹張りのおおいをつけた手燭 (てしょく) 。
        また、柄と台座をつけた小さい行灯 。

四隣(あたり):しりん。前後左右の家や人
鮫鞘: 鮫皮を巻いて作った刀の鞘。
洗い出し:板の表面をこすり、
     洗って木目 (もくめ) を浮き出させたもの。

家中:家族全員。
   江戸時代の大名の家臣の総称。藩士。また、藩
金的:まん中に金紙を張った弓の的 。

冷飯草履:緒も台もわらで作った粗末なわら草履
一図(いちず):一途。ひたすらに。
二十間:一間が1.82m。36.4mほど。

御百度:病気平癒または念願成就のために社寺に参り、
    その境内の一定の距離をはだしなどで 100回往復し
    そのたびに礼拝・祈願を繰り返すお参り。

広縁:寝殿造りで庇の外側に一段低く設けた板張りの吹き放し部分。

夜の目も寝ない:一晩中眠らない。夜も休息しない。
浪士:主家を離れ、禄(ろく)を失った武士。
また、仕える主君を失った武士。浪人。


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音声配信アプリstand.fmにて、
「しんいち情報局(仮)」の
「朗読しんいち」を
担当させていただいています。

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