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'キリエのうた'の感想(ネタバレあり)

※私が映画全般事前情報無しで観るタイプなのもありますが、キリエのうたは事前情報無しの方が面白いと個人的には思うのでまだ観ていない方は気を付けてください🙇🏻‍♀️


岩井俊二の美学を詰め込んだようで、この映像美のためだけでも十二分に観る価値のある作品だったと思う。

主人公のキリエ(るか)という人物についての描写が細かくてよく描かれているのだけれど、観終わった時にキリエの考えていることや見ている世界が全部分かったかと言われるとそういう訳でもない。主観的すぎず、だからといって第三者目線でもなく、どちらかと言えば監督目線で、ドキュメンタリーのような描かれ方だったように感じた。
この絶妙に客観的な描き方がまた岩井俊二らしくて、キリエはこういう気持ちで歌っているんだ!感動!みたいな形には絶対持っていかないのが凄く良かった。

岩井俊二の(良い意味での)不安定な撮り方、どれだけ世の中の撮影技術が向上していっても変わらない撮り方、何故こういつ観ても胸を掴まれるんだろう。特にこの不安定な撮り方と地震との親和性が高くて苦しかった。本当に苦しかった。

プロモーションにも13年の愛の物語とあったけど、正直、13年という長い時間を描くには3時間とは言わずドラマにしても良いのではとは思った。
いっことキリエの関係性、学生時代の二人をもう少し見たかったな。学生時代のいっことキリエが雪で遊ぶシーンから始まり、同じように学生時代の二人が雪で寝そべるシーンで終わる。始まり方と終わり方から見ても、キリエと夏彦の関係性よりもキリエといっこの関係性の方がこの映画では描きたかったのかもしれないと思った。から余計。
でもキリエという人物の人生を描くには、映画という短さが丁度いい気も、した。多くは語らない(歌を歌う)人だからね。

ふとしたらどこかに消えてしまいそうなキリエと、夏彦の漂う哀愁の中にある人間臭さと、いっこの脆い人生故の強さと明るさと愛情とが、綺麗に混じって映画の世界観を作っていたなぁ。青という色は憂鬱さと清々しさを両立させ、ネチネチとしたしつこさを無くす。言うなればリリイシュシュとは正反対なように感じた。この映画の雰囲気に、憐れみの讃歌のオーケストラが良く合っていた。何よりこのタイトル曲が良かった。

( 唯一、唯一ね、いっこ死エンドだけは許し難かったな…
分かる、女を売りにしたくなかったいっこが上京して結婚詐欺師になる、そして運命のように辿る死エンド、分かる、分かるけど…
この映画はto be continuedでいいのに……むりやり終わらさないで……)

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