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『ムーブ・トゥ・ヘブン』が見せてくれること


NETFLIX シリーズ『ムーブ・トゥ・ヘブン 私は遺品整理士です』から、特に印象に残ったことについて書いてみます。(ネタバレします)


強いこだわりを持つ少年グル(アスペルガー症候群)と、疎遠だったその叔父サング(前科持ち)が突然同居することになり、ぶつかりながらも遺品整理の仕事を通じて様々な故人の人生に触れ、残された想いを汲み取り家族に届けようとする物語。故人として出てくる登場人物は、身寄りがなかったり家族に理解されなかったりというような孤独な人物ばかりなのだけど、そこに韓国の社会問題が盛り込まれていたりする。


遺品の整理には独特の作法があって、”最後の引っ越しのお手伝い”となる。淡々と丁寧に描かれるその作業には静かな愛を感じるし、遺品という形のその人のプロフィールは、自己紹介のためのそれとはまた違う形で、その人がどんな人物だったのかを見せてくれる。


特に印象に残ったエピソードが第9話で、ニューヨークに養子に出された青年が母親を探して韓国に来たものの、見つかっても会ってもらえずに結局持病で亡くなったというもの。韓国で生まれた子供を海外に養子に出すというのが問題になっているというのを私は詳しく知らなかったのだけど、ドラマを観ていて、フランスの家族に引き取られて育ったという女性と実際に話したことがあったのを思い出した。ドラマでは引き取られた後で心臓病だったことがわかって捨てられてしまったという話だったけど、幸い彼女は良い里親に出会えて「私は幸せだ」と言っていたので、本当に良かったなと改めて思った。ドラマのこのエピソードでは、遺品を受け取ったのは実の母親ではなく、養子に出されるまでの期間に子供の世話をするボランティアをしていた家の娘だった。故人は偶然見つけた昔の写真から彼女が母親だと思い込んでいて、その写真が遺品に。著名なアナウンサーになっていた彼女は事情を知った後すぐにそれをニュースで取り上げた。訴えたいことを盛り込む時のこうしたドラマの演出の流れは本当に上手いなと思う。


ドラマのストーリーにはそれぞれの故人のエピソードだけでなく、主人公2人の人生も絡んでくる。実はグルも拾われて引き取られた養子で、自分がそうであると知っている。兄であるグルの父親のことを、自分を捨てたと思ってずっと恨んでいたサングも、そこには事情があって、兄が自分のことを決して忘れていなかったということを知る。この辺りから物語がさらに厚みを増していく。


最後にサングがグルの後見人として相応しいかどうか判断が下されるシーン。弁護士の見解を聞いてからの、グル本人の気持ちを伝えられた時のサングの表情の変化が素晴らしい。一瞬で潤んだ瞳の質が変わる。イ・ジェフンさん、すごい役者さんだと思った。そこでやっと、それまでずっとこのキャラクターは虚勢を張っていたんだとわかった。ストーリーが進むうちに段々それは見えてくるんだけど、ラストのこの瞬間が決定的。サングの心の一番奥のわだかまりが解けたのが伝わって、観ている方にもじんわりと感じるものがある。


人の死をテーマにしているからと言っても重苦しいわけではなく、号泣必至と言われているけどそこまで泣かせようという感じもしない、(と私は思う)ただ深い愛を感じる、穏やかで優しい気持ちになるドラマ。人には人の事情があって、生きているうちに伝えられないこともある。けれど誰かが大事にしていた物は、持ち主がいなくなった後でもたくさんのことを教えてくれる。そんなことをじっくり味わいたい気分の時には、このドラマをお勧めします。




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