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小笠原でイルカと泳いだ時の出来事


もう何年も前のこと。いつだったかはっきり覚えていないけど、小笠原の父島に行った。イルカと泳いでみたいと思ったからだ。


フェリーで24時間かけて島に着き、コーヒー山の上にある手作りのロッジに泊まった。環境に負荷をかけないサステナブルなロッジで、自然の中にお邪魔させてもらうような宿だった。オーナーと話していて、まだ一度もシュノーケリングをやったことがないと言うと、それは練習しといたほうがいい、とのことで、ドルフィンスイムの予約を入れた前日に、ロッジのお兄さんに浅瀬で基本を教えてもらった。


そして当日、雲ひとつない空の下、ガイドの船長と、何度も泳ぎに来ている(たしか水中写真家と言っていたような)経験者の男性と、前日にシュノーケリングを覚えたばかりの私で小さめの船に乗って、ドルフィンスイムのポイントへ向かった。天気は良くて波はそんなに気にならなかったけど、大海原に出たら、うねりで船の進行方向の視界が高さ4〜5m全て海になった時があって、一瞬どうしようと思った。「ちょっと今怖かったです」と言うと、船長は「大丈夫、船だから」みたいな軽い言葉をかけてくれた。よく考えたらそうだ。船はうねりの上を滑るように進んでいるんだった。「そう言えば救命胴衣は着けないの?」と聞かれて、着けたほうがいいのか聞くと、「安全のためには着けたほうがいいけど、イルカと一緒に泳ぐ感じにはならないね」と言われて、一緒に泳ぐのが島に来た目的だったから、着けないことにした。船長は「無理しないでね」と言いつつ許可してくれた。水中写真家の男性は慣れた感じでヨガの呼吸法をしていた。


ポイントの一つ目にはイルカの群がいなくて、船長は「いないなぁ、天気良いんだけどなぁ」と言いながら二つ目のポイントに向かった。二つ目の辺りには大きめの船が先に来ていた。船長が「5隻までは行って大丈夫だから」と言って近づいて行くと、大きめの船から10人くらいの人たちが次々に海に飛び込み始めて、そのうちの何人かは救命胴衣を着けていた。「いたいた!早く!」と言われるままに、シュノーケルとフィンを確かめて私も海に飛び込んだ。大海原で初のシュノーケリングは姿勢を整えるだけで精一杯だった。船長はイルカの群れが進む前方に船を着けてくれていたけど、イルカたちは方向を変えたようで、私たちの方には来なかった。しばらく泳いでから船に戻ると、「もう一回行ってみよう」と言って船長は船の速度を上げた。


「来た来た!急いで!」イルカの群れが今度は方向を変えずに来てくれたようだ。急かされながら何とかまた海に飛び込み、さっきよりは落ち着いて姿勢を整えながら、とりあえず真っ直ぐ泳いでいると、いきなり私の右隣に一頭のイルカがすっと現れた。あまりに近かったのでちょっとびっくりしながら、とりあえず挨拶しようと思って頭の中で「こんにちは、一緒に泳ぎたくて来ました」と言ってみた。テレパシーなら通じるかと思ったから。するとイルカは流し目で私を頭から足の先まで見た。それからすっと私のすぐ下に入って、クルッとお腹を見せた。その後さらに下を泳いでいた仲間のイルカの隣に行くと、そのイルカと仲間のイルカが二頭揃ってクルッと私にお腹を見せた。気づいたら下の方には数頭が群れで泳いでいて、二頭は他の仲間たちと速度を上げて去って行った。


「今のは何だ… F○○k you?」


悪意は感じなかったけど、一緒に遊んでもらった感じもしない。涼しげな流し目の後の腹見せ。まあ、いくら一緒に泳ぎに来たと言っても、さすがに前日に初めてシュノーケリングを練習したレベルでは、海の住人と一緒に泳ぐのにスペックが違いすぎた。


あとで調べたら、イルカがお腹を見せているように見えるのは、両目で対象物をよく見るためというのが妥当らしい。イルカが興味を持ったかどうかは知らないけど、よく言えば好奇心、それか面白がって「なんかいるー」みたいな感じで私を見たのかな。F○○k youじゃなさそうだから良かった。


これが、私が小笠原の海でイルカと泳いだ時の出来事。イルカと優雅に並んで泳ぐのは、相当慣れないと大海原ではまず無理だ。それから、あちらの住む場所に大勢でいきなり押しかけるというのは、やっぱり気が引けるなと感じた。人間の住む場所に別世界の住人がいきなり来たとして、よく観察できるならまだいい。場合によってはF○○k youしちゃう人もいるかも。どんな相手でも礼儀はわきまえたいなと感じた次第。




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