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インフラの整っているはずのブータンで断水に苦しんだ話

ブータン首都ティンプー。
JICA海外協力隊の要請書には任地の詳細とインフラについての記載が必ずある。
私の要請は電気・水・インターネットすべて安定。

まずブータンに到着すると、1か月ドミトリー生活となる。

ドミトリーではシャワーの水の調整がしにくいとか、数分~数時間の停電があるものの、まあこんなものかと思っていた。

翌月12月はじめに引っ越し。家は基本的に配属先が決める。
私の家は、標高2460m。商店が集まる街より100m高い。
つまりどういうことかというと、街から家に帰ろうとするとひたすら上り坂。
この国でタクシーは大体軽自動車なのだが、私の家の直前の交差点を曲がったところから急に止まりだす。
それほど急な坂の中腹に家がある。配属先までは徒歩10分ほどなのでそこは好立地だ。

中身は本当に良くて、広い。20畳くらいのリビングキッチン、10畳くらいの寝室2つ、6畳くらいの部屋一つ、シャワートイレ2つずつ。

ただ備え付けの家具は冷蔵庫とソファ、ローテーブル、テレビ台、ベッドの枠くらいだったのでベッドのマットレスから洗濯機から食器など15万円分くらいの買い物をした(輸入に頼っている国なので電化製品は高い)。
でも家で過ごす時間は長いから、快適に2年間過ごすための出費だと思った。

同期で集まるのもいつも自宅を使ってくれて、かなりお気に入りの自宅だ。
ちなみにみんな到着したときにもれなく息切れしている。タクシーで来ても、そこから坂を上る必要があるので。家主としてはちょっと面白い。

1月2日に初めて水が出なくなって、それが数日続いた。
その時は大家さんに言ったりいろいろな人に報告して、事務所スタッフにも会った時に、引っ越したいんですけど(笑)と冗談ぽく相談した。
ティンプーの冬は寒いので、凍結じゃないかということで、VC(ボランティア調整員)からの返事は「バケツに水を貯めて、断水した日は記録しておいてください。」とのことだった。
既にやってる。って思った。

2月は幸い水の調子がよかったのだが、
3月は6日間、4月も11日間、5月は23日間、6月は結果20日間断水があった。

4月までは完全断水のときが半分くらい、残りはキッチン以外が止まるということがかなり多かった。
トイレもシャワーも出ないけど、キッチンとその背後にある洗濯機だけは動く。だから生活ができてしまう。
ただシャワーはキッチンのシンクに頭突っ込んで洗って、身体は石鹸付けた濡れタオルで清拭。

4月以降は、なぜか7時~9時が午前午後ともに2時間ずつ水が出てそれ以外は完全断水という仕組みができた。
大家さん曰く、その時間だけ自治体から水を分けてもらえている。とか。
これがとんでもなく不便で、門限が決められている感じ。7-9時にシャワー、料理、洗濯、水を貯める、などなどをしなければいけない。
それでも完全断水よりはマシである。

水も電気もネットも不安定な国からしてみれば、甘ったれたこと言ってるんじゃねえよと思われると思う。
逆の立場だったら絶対思う。
けど、ここはブータンの首都なのだ。
私以外の首都に住んでいる日本人は、誰一人の口からも「断水」っていう二文字を聞いたことがない。
VCさんもそう言ってた。
なんなら多くの家が水道代無料の中、私の家は500円ほど、支払う必要がある。
この国の他の人が抱えなくていいストレスを、なぜか私だけ抱えていることになる。

毎朝起きた時と、家に帰ったとき、まず家中の蛇口を順番に開けて「また止まってるのね、オッケーオッケー」って独り言つぶやくのが日課。

活動でストレスなんて今あんまりないけど、水問題だけが本当にストレスだった。

4月に引っ越したいとVCに相談した。
1月に報告した際に様子見ましょうって言われてた手前、言っても動いてくれないんじゃないか、またもうちょっと様子見ようって言いくるめられるんじゃないかって思ってたから4月半ばまでずっと我慢してた。
けど、同期が「いや、そんなんおかしいよ。」って言ってくれたおかげで相談できた。

そしたらVCさん、とっても親身に聞いてくれて、すぐに状況見に来てくれて大家さんにも話をつけてくれた。

ただ、そこから大家さん大激怒。
事務所から電話を受けたその日に「今どこにいるの?今から話そう」と電話をいただく。
お気に入りの花屋にいた私は大家さんの自宅へ連行される。
そこで「何日自宅でシャワー浴びてないの?」「一週間です。(友人に借りたり、キッチンで頭を洗っていた)」「今からうちで浴びていく?」と、提案され、ありがたくシャワーを借りる。
猫の手も借りたいならぬ、大家のシャワーも借りたい状況だった。
シャワー上がり、ミルクティーを飲みながら、キレる大家の話を聞く。
「数日前にギザ(お湯を作り出す機械)つけたばっかりだし、それまでもすごく投資した。赤字だ。」とのこと。
「わかるけど、もう限界。4ヶ月耐えた。」と伝える。
「でももし今から治れば、水以外は問題ないよね?引っ越さなくていいよね?」と言われる。立地問題や、ゴミ捨て問題が頭をよぎる。「もしそんなことが可能なら確かに引っ越さなくてもいいんだけど」と、100%引っ越すつもりで答える。

そんな不毛な話をして、大家さんからシャワー使いたい時はいつでもおいでと言われ、大きなバケツと、お湯が沸かせる大きなタンクを借りて家に送ってもらう。

次の日、奇跡的に水が完全復活。大家さんに一応連絡をした。復活したよ。って。同じ日に事務所から電話が。「大家さんが、本人はもう引っ越さなくていいって言ってるって言ってるけど本当なの?」という内容。「そんなこと言ってません。Ifの話をされたので、それに対して答えただけで、引っ越したいです。」と伝える。

先ほど出てきたギザに関しては、タンクみたいなもので、水をお湯にしてくれる。
30000円相当くらいのもので、もともとはメインシャワー室に一つとキッチンに小さいのが一つついていた。
しかしメインシャワー室だけが断水していることが続き、サブシャワー室は水が出ているのにお湯が出ないためシャワーが浴びれないということが多々あったため、大家さんの提案もありギザを追加でサブシャワー室につけてもらっていたのだ。

残念なことに、つけてもらった翌日からさらに水の出が悪くなり、結局この新ギザを使ったのは1回だけである。

いくら大家さんがゴネても、こちらが引っ越しますと言えば引っ越すことは可能だ。
ただ、それが契約上の決まりで2ヶ月前であることが条件になる。
つまり、4月末に引っ越しますと言うと、6月末までは現在の家に住むしかないのだ。

よし、引っ越せると決まってからも、大家さんは粘りたかったのか、すごく気にかけて優しくしてくれた。
初めは水が止まるたびに連絡していたけど、引っ越しが決まってからの2か月は出ないことが普通になってたので連絡しなかった。

5月に耐えられなくなり事務所にメールを送った。なんとか生きてるけどここで過ごすのは限界です。と。事務所からは、ドミトリーに事務所の許可を得たということで宿泊してもよいという返答をいただいた。
そこでたくさん荷物を持って、ドミトリーに仮引っ越しをしたのだが、家から配属先までが遠いこと(徒歩40分ほど)、ドミトリーの不潔さが気になること、特にキッチンは汚くて、でも一人でご飯食べに行くのも嫌で、ご飯難民になった。VCさんの奥様が手作りお弁当くれたり、同期が誘ってくれたりでとてもありがたかった。
結局2週間ドミトリーで過ごしたけど、自宅以外で過ごすことのストレスで病みそうだったからまた水のない家に戻った。
それからは水が出ているときにとにかく貯めて、洗濯は無理だからドミトリーに通ってやって…と忙しく過ごしました。

結局引っ越しの日まで水は完全復活せず、思い残すことなく引っ越しをすることができた。ちゃんと掃除して出ていけなかったのは申し訳ないと思っている。

引っ越し後、立地は以前より良くなり、水は止まったことがない。
地獄から天国に引っ越した気分である。
まあまた別の悩みが勃発するんですけど、それはまた別のお話し。


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