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マーケティング理論を応用した「推し」布教方法

ビジネス書を読みはじめたVTuberオタク、あごひげ20cmです。

マーケティングについての書籍を何冊か読んだ中で「マーケティング理論、推しの布教に活かせるんじゃね?」と思いました。「どうやったら商品/サービスを売れるか」の理論を応用して「どうやったらエンタメコンテンツを布教できるか」のヒントにできないか、と考えたわけです。

具体的には、普及の段階を見極めて適切なアプローチで布教活動する方法を「イノベーター理論」を参考にして解説していきます。専門用語はできるだけなくして説明するので、最後までお付き合いください。

読者の皆さまにおかれましては【もっとたくさんの人に見てもらいたい推しジャンル】を思い浮かべながら読んでいただけると理解が捗ると思います。ゲームでも漫画でも歌ってみた動画でも、なんでもOKです。(この記事ではVTuberを例として多用します。)


マーケティングの「戦略」と「戦術」

まずこの記事内で用いる語句「戦略」と「戦術」を定義します。(人によって定義があいまいな語句なのでご注意を。あくまで本記事での定義です。)

戦略は「明確に設定された商品コンセプト、ターゲット設定、差別化ポイントの集合体」と定義しましょう。
VTuberで例えると。商品コンセプトは配信内容=素敵な体験の提供、ターゲット設定は喜んで配信を見てくれる視聴者層、差別化ポイントは他のVTuberがやってない自分の強み、といった感じ。

一方、戦術は「戦略で決めた内容を消費者に広めていく手段」と定義します。
VTuberで例えると。日々のTwitter投稿、他チャンネルでのコラボ配信、企業タイアップでの案件配信などなど。 また、視聴者が推しのツイートを拡散したり、ファンアートを投稿したり、note等で記事を書いたり、友達に勧めたりするのも戦術の一部と言えます。


ここで大事なことは2点。
・「戦略」はコンテンツ制作者が考え抜いて工夫する領域であること。基本的にファンがあれこれ口出しする領域ではありません
・「戦術」はコンテンツ制作者だけでなくファンも関われる領域であること。むしろファンが中心的な役割を発揮する段階もあります(後述)。



イノベーター理論とは

世の中に新しい商品が誕生して普及していくとき、5つのタイプの顧客層が順番に商品を購入して広まっていくというのがイノベーター理論です。

それぞれの名称と、大雑把な人口割合は以下の通り。
 ①イノベーター(マニア)|2.5%
 ②アーリーアダプター(リーダー)|13.5%
 ③アーリーマジョリティ(ウォッチャー)|34%
 ④レイトマジョリティ(フォロワー)|34%
 ⑤ラガード(アンカー)|16%
マニア層が商品を発見するところから始まり、リーダー→ウォッチャー→フォロワーと広がっていく感じです。

普及する過程で参入してくる顧客には5つのタイプがある。
ちなみに100%の分母は「見込み顧客」です(全人類ではありません)。商品やサービスによって分母(対象)は変わります。
例えば、日本語しか喋れないVTuberであれば「日本語が理解できてYouTubeを見る人たち全員」が見込み顧客になります。 一方、音楽に特化しているVTuberであれば「多かれ少なかれ音楽を聴く人全員」を分母にできるポテンシャルがあるでしょう。



普及段階に応じたマーケティング戦術

では、イノベーター理論の5つのタイプの特徴を見ていきながら、エンタメコンテンツの適切な布教アプローチを考えていきましょう。


まず①マニアは新しいものにとにかく飛びつく人たち。アンテナを張り巡らせて情報収集力に長けている層です。「新しさ」を求めて動くので品質の良し悪しは二の次です。"自分だけで"楽しむ傾向にあるため、積極的な布教はあまり期待できません。

マニアを獲得するためには「新しい」ことをアピールするのが効果的です。ここまでで見込み顧客の約2.5%を獲得したことになります。


次に②リーダーは品質を自分で見極めつつ積極的に試し、気に入ったものは拡散する人たち。審美眼と発信力に長けている層です。制作者の言葉、マニア間の評判などをアンテナで受信し、その中から自分の好きなものを見極めて選出します。その上で「こんなに素晴らしいものがあるよ!」と身近な人に宣伝してくれます。

リーダーを獲得するためには、制作者側が「戦略」をしっかり練り上げることが大事です。戦略とは商品コンセプト、ターゲット設定、差別化ポイントの集合体(おさらい)。ここまでで見込み顧客の16%が獲得できます。

残念なことに、多くの新商品・コンテンツはリーダー獲得までで終わってしまいます。ここまでは「戦略」で動いてくれる層で、これ以降は「戦術」に更なる工夫が必要だからです。前者は初期市場、後者はメインストリーム市場とも呼ばれます。 ※より詳しく知りたい人は「キャズム理論」で検索!
メインストリーム市場を獲得するためには、戦術の転換が必要になります。


③ウォッチャーは周囲の人々の評判を聞いて動く人たち。積極性はないものの、良い物だと分かればすんなり買ってくれます。
大手メディアでの紹介やリーダー層が発信する口コミ、お客様の声などを信用します。一方で、厄介なことに警戒心が高く、制作者側の言葉はなかなか受け取りません

ウォッチャーを獲得するためには、ファンの中のリーダー層が発信し続けることが重要です。つまり、ファンによる布教活動が重要になる段階と言えます。(推しが伸び悩んでるなぁ…)と感じているファンは、推しに代わって魅力をアピールしましょう。
ここが取り込めれば見込み顧客の50%が獲得できるボリュームゾーンであり、ファンの頑張りどころでもあります。


そして④フォロワーが動き出します。フォロワーはファンの多さを見て動く人たち。流行を追いかけてコンテンツを楽しむ層です。

フォロワーを獲得するには、多くの人が楽しんでいることをアピールしましょう。登録者数〇万人突破!、再生回数〇万回達成!など。ファンたちが同時多発的に発信する雰囲気も重要です。ここまで取り込めると見込み顧客の84%が獲得できたことになります。


最後の⑤アンカーは周りに流されず、新しいものに簡単に飛びつかない人たち。アンカーを顧客として獲得するのは容易ではありません。いま利用しているものに強い信念・こだわりを持っているからです。

残り16%は獲得できない(仮にできたとしても大変)と割り切るのが吉かもしれません。まだ隠れているウォッチャー/フォロワー気質の人を探すようなアプローチが有効かと思われます。

ちなみに同じ人でも”商品”によってはタイプが変わります
例えば、コスメに対しては「マニア」だけど家電に対しては「フォロワー」な人とか。 自分の場合は、VTuber音楽に対してはリーダー気質だけど、VTuberのボイスに対してはフォロワー気質といった感じです。皆さんはどのタイプですか?



具体例|企業勢VTuberの場合

抽象的な話が続いたので、企業勢VTuberのチャンネル登録者数を例にしてそれぞれの段階を紹介します。

日本の企業勢VTuberトップ層は、軒並み100万人以上の登録者を獲得しています(2021年末現在)。海外ファンも多く含んでいる数字なので、企業勢VTuberの国内の見込み顧客を100万人と仮定しましょう。

※あくまで仮定の数字、しかも理論値。
完全個人勢の場合は1ケタ小さくなるイメージ(∵プロモーション規模が違うので)。

イノベーター理論にしたがうと、登録者数2.5万人以下の企業勢VTuberはマニアの獲得フェーズです。最近はデビュー時から10万人突破する人もいるのでアテにならない数字ですが、2019~2020年ごろの肌間隔とは大体合っていると思います。
このフェーズでは、新人デビューを宣伝すればチャンネル登録してくれる視聴者が一定数いるでしょう。

登録者数2.5万人を超えたらリーダーの獲得フェーズです。面白いコンテンツをみずから探していて、大型企画や切り抜き動画などをきっかけに認知してくれる視聴者が出てくる頃合いです。
このフェーズは、VTuber自身の一番の頑張りどきです。面白い配信をすれば見つけてくれる視聴者が必ずいます。自身の「戦略」を信じて活動を続けてください。

登録者数16万人を超えたらウォッチャーの獲得フェーズ。メディアに取り上げられたり、友人知人に勧められたりして興味を持つ視聴者が出てくる頃合いです。
このフェーズ以降は、ファンが担う役割が大きくなります。面白い動画があれば感想をツイートしたり、ファンアートを書いたりして推しの魅力を広めましょう。noteで記事を書くのも良いですよ…! 一方、VTuber運営としては、影響力のあるメディアに取り上げてもらうようなプロモーションが効果的でしょう。

50万人を超えたVTuberはフォロワーの獲得フェーズに入っています。数字の大きさを見て興味を持つ視聴者が出てくる頃合いです。
半自動的に数字が伸びるので、ここまで来ればひとまず安泰と言っていいでしょう。より数字を伸ばすなら海外展開も視野に入って来るでしょうし、音楽活動など活躍の場を広げるのも手だと思います。つまり「戦略」を変える段階ということです。



まとめ|ファンが推しに貢献できること

改めて、ファンはどのように動いて貢献するのが(イノベーター理論上は)正しいのでしょうか?

まず、推しの普及段階を見極めましょう
自分の周りにどのタイプのファンが多いか/増えてきたかを観察してみましょう。新規ファンがどういうきっかけでハマったかを知るのも◎。

その上で適切なアプローチを選択しましょう
・リーダー参入段階であればコンテンツ自体を売り込むのが良いでしょう。音楽アーティストならCD/DVDを視聴させる、VTuberなら面白い場面のスクショや切り抜きを投稿/拡散するなど。
・ウォッチャー参入段階であればポジティブな感想を発信するのが良いでしょう。Twitterやnoteで熱烈に語ったり、家族や友人に魅力を直接売り込みましょう。
・フォロワー参入段階であれば、わざわざ布教しなくても新規ファンは集まってきます。 しかし、まだ獲得できていないリーダー気質/ウォッチャー気質の人がいる可能性があるので、両者向けのアプローチを続けるのが良いでしょう。

結局、ファンのとるべき行動に落とし込むと実質2パターンしかないわけです(コンテンツ布教/感想布教)。意外とシンプル。

本記事で紹介してきたのは、エンタメコンテンツにハマるタイミングの早い遅いの違いです。推し方の善悪/強弱とは一切関係ありません。勘違いしやすいので注意してください。
例えば、マニア的な出会いをしてから、生涯そのコンテンツを推し続ける人もいれば、別のコンテンツに目移りする人もいるでしょう。ハマったのが他の人より遅かったとしても、古参勢に負けないくらい情熱を傾ける人もいます。


この記事で紹介したことはあくまで「理論」なので、現実に即していない部分が多々あるかもしれません。

ただ、インディーズ音楽やVTuberといった発展途上のコンテンツ/市場であれば大いに役に立つ考え方だと思います。一例として「最近話題のメタバースがどう広まっていくか」を予想するのも面白いでしょう。

いま猛烈に推しているものがある人もない人も、なにかしら発見があって楽しく読んでもらえたなら幸いです。

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