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杏・京・キヨエ(3)-1~野中のユリとアン〜名前をめぐる冒険――佐原ひかり『ペーパー・リリイ』

 ※『ペーパー・リリイ』の結末に言及していますので、未読の方はご注意ください。

『ペーパー・リリイ』
野中杏、17歳、詐欺師のこども。……

佐原ひかりの新刊と聞いて、河出書房の公式サイトを開いた時の第一印象が

あ、「野中ユリ」!

だった。
著者の意図はわからないので大ハズレかもしれないが、銅版画集『Metamorphoses』の「アドーニス」「ヒュアキントス」「海のナルキッソス」あたりが最初の出会いで、美麗装丁本も何冊かは手元にあるので、久しぶりに取り出してみた。

野中ユリが装丁を手がけた本

杏の母の名前は作中に書かれていないので、個人的に「ゆり」だと思っておこう。

『ペーパー・リリイ』の続編がもしあるとしたら、私は今作中ではほとんど出番がなかった京介の物語を読みたい。
杏の祖父母にあたる京介の両親は?杏の母&京介姉弟の生い立ちは?京介はなぜ結婚詐欺に手を染めたのか?姉との仲は?そもそも杏の母はどんな人物だったのか……
『ブラザーズ・ブルー』の例もあるので、ひそかに期待している。

京介は、キヨエはトモコだと言っているが、どうだろうか?
「キヨエ」という語感が古風なので、あるいは「ママ」の名前を借りたのかもしれないが、いずれにせよ、それが本名とは限らない。
キヨエが「結婚詐欺師に騙されたフリをする詐欺師」な可能性だってあるのだ。

今まで一度もしっぽをつかませなかった京介が、「遠出したときに、たまたま見かけて、そのまま後つけ」られた、なんてことがあるだろうか。
おそらく相手を泣き寝入りさせるために、あえて高額詐欺にはせず、ヨータの言うとおり「すげー良心的」にやっているのだろう。
そこをクリアしてきたキヨエは、京介を軽く上回る手練れの詐欺師なのか? 

……まあ100万弱の投資で500万巻き上げた、という結果から見ればその通りなのだが、キヨエの正体は謎のままだ。
京介にとっては初めての敗北なので、商売替えを考えるかも?

登場人物がみんな何かしら嘘をついているので、「恵奈津」も本名ではないだろう。
古い神様の名前みたいだと思ったが、調べても出てこなかったので、案外、本名の「奈津恵」をひっくり返しただけだったりして。
ヨータも、文字通りぜんぶ吐き出して、かなり素直になれたのではないか。

みんな杏とキヨエと関わり合ったことで、お互いのこれからの人生が動き出しそうな予感がある。
いい方向へ転がるなら、それは「ほんもの」になるだろう。
みんなの未来に、祝福を。

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