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皇帝様は絵師を褒めて伸ばしたい【002】

美しい絵(主に美少女の)をこよなく愛するカイザー烈と、ひょんなことから彼のおかかえの絵師となったスィンゴミカミン。カイザーは絵を発注し、絵を愛で、そして褒める――。全ては、スィンゴを自分好みの神絵師にするために……!

☆プロローグ&第1作目を読む☆


【第2作 ~熱帯魚みたいな女の子~】


我が家には2人の執事がいる。

名はセバスとチャン。
セバスは筋肉隆々の青年で、その姿は海王ネプチューンを連想させるほど勇ましい。
チャンは身長2メートルを超える巨漢の中年で、東洋の武術の使い手だ。
共に威圧感のある体躯ゆえ、彼らを初めて見た者は執事ではなくボディーガードと勘違いすることが少なくなかった。

そんな2人にスィンゴと共同生活する旨を伝えると、あからさまに困惑した様子を見せた。スィンゴの身なりはお世辞でも奇麗とは言えず、みすぼらしさが強調されている。私は見た目で人を判断することはないが、そんな腐臭を放つドブネズミのような者が自身の生活圏内に入ってしまうことを悲劇と捉える彼ら2人の気持ちも十分にわかる。

もちろん、私は主人なので2人に納得してもらう必要などなく、強引に推し進めることは容易だ。だが、我が一族は代々執事を大事にしているので、無理強いするのは好まない。そこで「いつでもスィンゴをラリアットの練習に使っても良い」という条件を出して、2人を快く納得させた。

「マグネットパワープラス!!」
「マグネットパワーマイナス!!」
「クロス・ボンバーーーッ!!!!」

夜な夜な屋敷内に響き渡る執事の雄たけびとスィンゴの断末魔。不思議とその声色は私の安眠を促した。

ある日、澱んだ空気の漂う地下室に足を運ぶと、そこにはぐったりとドブネズミの死体のように倒れているスィンゴの姿があった。まるで連日連夜、ダブルラリアットを喰らって満身創痍になっているようだった。

私は優しく往復ビンタでスィンゴを叩き起こすと、いつものように絵画を描かせることにした。今回のテーマは“ギャップ萌え”だ。

積極的なロリータフェイス、家庭的なヤンキー、フリルの多いドレスを着た吉田沙保里、ギャップ萌えは古来より人を惹きつける。私も例外ではない。きっとスィンゴなら私の想像を遥かに超えた絵画を完成させるだろう、そんな期待をしながらお題をあげた。

発注内容はこうだ。
『一輪車を巧みに扱うポニーテールのアマゾネス』

どんな問題も力業で解決しそうなアマゾネス、そんな彼女が器用に一輪車を扱っていたら、そのギャップに誰もが魅了されるだろう。しかも、ポニーテールだ。

お題を聞いたスィンゴはまたしても苦虫を嚙み潰したような表情をした。今度は何だ、一輪車を描くのが苦手とか言うつもりか。もしそんなことを宣うようなら毒虫を嚙み潰させてやる…と心に誓ったが、その理由を問うと「アマゾネスって何?」と私の想像を遥かに超えた言葉がスィンゴの口から発せられてますますの苛立ちを覚えた。

いちいち説明するのは面倒だったので「全部、想像で描きなさい」とアドバイスをしたあと、後ろ回し蹴りを顔面に浴びせて地下室から立ち去った。

待つこと30分、絵画が完成した。


それでは、ご覧頂こう。
『一輪車を巧みに扱うポニーテールのアマゾネス』



ザーさんコラム02


私はこの作品を見た瞬間、ざわっと全身に鳥肌がたった。

アマゾネスを知らない教養のなさには驚いたが、目の前に描かれている少女は私の思い描いている…いや、それ以上に野性味のあふれたアマゾネスだった。

感情なく人を殺めることができそうな虚ろな表情、無駄な筋肉をつけず機能的に引き締まった腕。そして、「SHIT」という一言でその人間の粗暴さを見事に表している。ファミレスにサラダバーがあっても一切利用しない、そんな肉食系な雰囲気が全身から漂っている。

スィンゴの無限とも思える想像力に恐怖すら覚えた。

今回のテーマでもあるギャップ萌えの表現力も目を見張るものがあった。物理法則を無視してアクロバティックに一輪車を扱う姿にはキュンと胸がときめいたが、それよりも何よりも背景に注目して欲しい。

教室だ。今にも「ちょっと殺し合いをしてもらいます」としゃがれた声が聞こえてきそうな教室だ。文化の象徴ともいえる学校と未開の地に棲むアマゾネス、このギャップは注視せざるを得ない。

ジャングルで生活していたアマゾネスが、ふとしたきっかけで都会の学校に通うことになる。都会の常識を知らない彼女の周りではトラブルばかり。友情、努力、恋、様々なことを経験して彼女は成長していく―――。

そんな萌えストーリーも容易に思い描ける。いや、待て。これはまさに『魔法の妖精ペルシャ』(※)ではないか。「ペルッコ、ラブリン、クルクルリンクル」ではないか。スィンゴは己の想像力だけで、ゼロの状態から名作を再現したのか。

スィンゴ…この男は絵画だけでなく、魔法少女モノの作品を描く才能をも持ち合わせているのかもしれない。

(※)…1984年から放送されたアニメ作品。アフリカで育った野生児の少女ペルシャは日本にいる両親のもとに旅立ち、なんやかんやで魔法少女になって愛のエネルギーを集める。


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文:カイザー・烈
画:スィンゴ・ミカミン

■次回、カイザー烈の欲望がスィンゴに直撃する!?(5月18日更新予定)

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