街の小さな映画館

福井には全国に誇る素晴らしい映画館がある。

席数117の小さな映画館、メトロ劇場だ。

朝9時半から上映される「読まれなかった小説」を観にメトロ劇場に行く。

先週土曜日から公開されている「パラサイト」を一刻も早く観たい気もするが予告の時から気になっていたこの作品も捨てがたい。

なにより「パラサイト」は連日ビルの外にまで列をなすくらい盛況だと聞いて妻と話をして「もう少し落ち着くまで待とう」ということになったのだ。

エレベーターを降りてロビーに入ると館長の姿が…

「パラサイト連日満員おめでとうございます」

と僕が言うと

「ありがとうございます。ここまでとは思いませんでした」と館長。

「いやぁアカデミー賞の発表直後に公開を合わせてくるなんて佳代さん(支配人)の慧眼には恐れ入ります」

「いやぁ、僕としてはもう一週早くても良かったなとも思っているんですよね。(アカデミー賞関係なく)いつも観に来てくれてる映画ファンの方にゆっくり観て欲しかったなとも思うんです」

(なんて良い人なんだ…)

「それはそうしていただいてたら僕らは嬉しかったですけどね」

そんな事を話しているとバイトの黒田さんが

「あ、上映時間です…貸切ですよ」

え?貸切?

劇場に入ってみると確かに誰もいない。

お客さんは僕たちだけだ。

3時間の映画を観終える。

素晴らしい映画だった。

派手なアクションも、気を衒った演出も、新たな技法もないオーソドックスな作りの映画だったが人間が描かれた素晴らしい映画。

ホーッとため息をつき外に出ると…

外は次の回の「パラサイト」を待つ人、人、人…

人の列はホールから階段まで続いている。

(まだ観ていないが)パルムドール、アカデミー賞のダブル受賞した作品だからおそらく凄い映画なんだろうとは思う。

だけど今日の「読まれなかった小説」も先週やってた「シュバルの理想宮」も地味ながら素晴らしい映画だった。

片や「パラサイト」は長蛇の列、その前の「読まれなかった小説」は僕たち2人だけの貸切…

この差はいったいなんなんだろう…

アカデミー作品賞たった映画だけが素晴らしい映画なのか?

そんなわけないよな。

「読まれなかった小説」という素晴らしい映画に出会えて良かった。

うっかり見逃して「観られなかった映画」にならなくて本当によかった。