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パンクロック 7

5人編成になった僕らは、大学でギターを教えていた教授の自宅スタジオでデモ音源を録ることになった。

出来上がったラフミックスをメンバー全員分CD-Rにコピーして毎日聴いた。自分達で作った曲が形になるというのは、嬉しいもので、何度聞いても飽きることがない。これは、バンドをやっている者の特権だろう。ヒット曲や好きな曲を聴くのとはまったく違う楽しさがある。

そのデモが出来上がる前に、大学主催の野外パーティーに出演することが決まった。

キャンパス内の芝生が広がった広場では、フリスビーを投げて遊ぶ学生や、バーバキューの屋台、ドリンクを配るソロリティのブースなどがあった。

そのメインイベントとして、ローカルバンドがいくつか出演、そのトリが僕たちだった。

ライブには大学の学生だけではなく、ローカルの音楽好きの若者や、高校生もたくさん来ていて、すでに僕たちのライブに来たことのある人たちが、シングアロングしてくれたり、モッシュピットを作ったり、ものすごい熱気だ。

後輩の日本人女子留学生も何人か来ていた。ライブ終了後に感想を聞くと、新メンバーのマイクのことを

「超かわいい〜💕」

と言っていた。やはりボクの目に狂いはなかった。

機材を片付けて、ギターをケースにしまっているとき、高校生の女の子4、5人が僕に寄ってきた。

金髪ギャルズに囲まれながら、僕のプレイがどれだけイケてたか、今日来たのは僕に会うため、なとど、顔が真っ赤になってしまうくらい、嬉しい言葉を投げかけられた。

それを見ていたエリックが

「君たちの誰か、こいつと結婚してくれよ!そしたらずっとアメリカにいられるだろ?」

と話をさらに盛り上げる。

この頃は、卒業後にどうやってアメリカに残るか悩んでいた。エリックにはこの件を話したことがある。アメリカ人との結婚は一つの方法だ。

また、バンドがうまくいけばOビザ、いわゆるタレントビザが下りるかもしれない。僕が目指していたのはこれだ。

ただ、アメリカ人にビザの話をしても、

「英語喋れるんだから、大丈夫だろ」

「英語と日本語のバイリンガルだぜ。ノープロブレムだろ」

このような返事しか返ってこない。彼らには労働ビザの取得が移民にとってどれだけ大変で重要なことなのか、わからないのだ。

アメリカには日本語も英語も中途半端な日本人はゴロゴロしている。日本語を話せるというのは、アドバンテージがあるようで、実はほとんど価値がない。

大学で専攻を栄養学に変えたのも、専門職としてビザ取得がしやすいと考えたから。それもどうなるかはわからない。栄養士の資格を取れるわけではないからだ。

アメリカでバンドを続けていくには絶対に労働できるビザを手にしなければならない。そのためにはこのバンドを何としても成功させなければいけない。

鼻の下を伸ばして女の子たちと楽しい会話をしながらも、頭の中ではそんなことを考えていた。

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