サード・キッチン 白尾悠
世界は途方もなく多様だという事を、まざまざと思い知らされる物語だった。
国籍やジェンダーによって差別されない世の中に!みたいな風潮は、判を押したようにそこら中で叫ばれている。差別的発言をした議員は更迭され、企業の採用ページではダイバーシティ経営がアピールされ、女性のものとされていた洗濯洗剤や化粧品のコマーシャルにはこれ見よがしに男性が起用されている。
そんな風潮の中で、日本も僅かながら多様性が進んできているのかもなーと縁側でお茶を飲みながら日向ぼっこをしているところを、作者に引っぱたかれた気分だ。
差別をされる側の時には、相手の思いやりの無さや視野の狭さを軽蔑するのに、自分が悪気なく発した言葉が態度が相手にとって差別的な発言になっている事がある。
違う違う!そんなつもり無いのに!と後から思ったところで、傷つけた事実は変わらない。失敗、反省、行動を繰り返しながら、主人公は深く学び成長していく。
印象的な場面がいくつもあったけれど、韓国系の留学生ジウンとのストーリーが心に残っている。日韓関係はとても複雑で、さらっとテキスト化できるものではないが『無知は差別』というジウンの台詞は、日本人として耳が痛かった。ジウンに対して失礼な態度をとってしまった事も重なり主人公は自己嫌悪に陥るのだが、それを励ます友人の『国の教育を変えるのは時間がかかるけど、今から学ぶ事を選択すればいい』『無知でいられるのも特権。差別される側は嫌でも直視するしかない』という内容の台詞にもまた考えさせられる。
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物語の後半『ティーチインと叫び』の章では、世界の縮図を見たような気がした。立場が違えば、歴史も政治も意味が変わってしまう。わたしちはきっとすぐにはわかり合えないだろう。けれども歩み寄ろうとする気持ちや、自分と異なる価値観の人に対してヘイトではなく『なぜ?』と追求する事で、理解できる部分がでてくるのかもしれない。
とても勉強になりました。
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