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たぬきのタノスケ 番外編

90年代の初め、トトロの森のような林に
囲まれた家に住んでいた頃のお話です。

たぬきのタノスケに、毎日餌をやるように
なってからしばらくして
タノスケが姿を見せない晩がありました。

家の玄関の横の林に、いつものように
たぬきの気配はあるのに
いくら呼んでもやって来ないのです。

不思議に思っておりますと
家の庭を挟んで反対側の林の方に
見慣れない白っぽい毛並のたぬきと
その一派が陣取っており
こちらの様子を窺っています。

只ならぬ緊張感の中、タノスケの群れと
白たぬきの群れが睨みあっている様子。

タノスケ側は数も少なく劣勢で
白たぬき側から牽制されて身動きが
出来ないまま膠着状態に陥っているような
感じで埒があかず。

仕方がないので餌を庭に置き
私は家の中に入り様子を見ていました。
すると、白たぬきがやって来て
素早く餌をくわえて逃げ去りました。

その後、再び餌を持ってタノスケを
呼んだのですが、現れませんでした。

次の晩も、やはりタノスケは
気配はすれど、姿は見せず。

そうこうするうち、例の白たぬき一派が
再び庭のむこうに現れました。
明らかに前の晩よりも警戒心が薄く
堂々としているように感じられます。

察するに、近隣のたぬき社会において
私は危険なく餌を得られる存在として
認知されたのでしょう。

より力のあるたぬきが、その特権を得ると
いう構図で、タノスケ一派は弾圧されて
追いやられ、非力な彼等は従わざるえない
状況に陥っているのです。

そんな訳で、いくら私がタノスケを呼んでも
出て来る事が出来ずにいる状態の中
白たぬきが一歩踏み出すと
胸を張るような感じで堂々と
まるで他のたぬきに見せつけるような感じで
私の方へ向かって小走りにやって来る
ではありませんか。

私は思わず大声で怒鳴りつけてやりました。
「お前にやる餌なんかない
とっとと失せろ!」

予想外の展開に、白たぬきとその一派は
驚いて山へ逃げて行きました。

その後、私はいつものように
タノスケを呼びました。

すぐに現れたタノスケに餌をやりながら
「アタシが餌をやるのは、お前だけだよ」と
言ってきかせてやりました。

お前は私の可愛い特別なたぬき。
だから、お前を苛める奴は
やっつけてやるよって。

それからは、白たぬきの群れは
現れる事はなく、タノスケは安心して再び
餌を貰いに来るようになったのでした。

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