天地争乱(仮) 4.佐谷の戦い 1

道普が出発して三日が経った。今日ようやく佐谷村に着く。整備された道は回り道のため、直線距離なら一日で行ける距離だが三日もかかってしまった。
風輝にどうやったら会えるか考えていたが、裏手から行くよりも表から入った方が警戒されないだろうと思い、正々堂々と行くことにした。

村まで残り2.5里になった頃、道の端に如何にも怪しい紙が落ちていた。
「道普様、私が取ってきます」
「止めておけ」
道普の制止を聞かず、紙を取りに行く若者。若気の至りというか経験不足というか、少しは疑うことをしないと命が幾つあっても足りない。
ほら見たことか。若者が紙に手を伸ばすと、あと少しというところで手から手紙が遠のいた。否、手紙から手が遠のいたのだ。
若者の足に縄が結びつき、宙吊りになる。
「助けて」
情けない声を上げる若者。縄を刀で斬る。若者は重力に則ってドンッと地面に落ちた。道普はそれを横目に紙を拾う。
『この先罠多数あり。入らないことを勧めるが、入らなければならないのなら気を付けるべし。ま、仕掛けたのは拙者だけどな。望月夜太郎』
からかっているとしか思えない。しかしその先罠に何度も悩まされることになる。

残り約1.3里までに落とし穴に三度、丸太罠に五度、上から撒菱が降ってくるという罠に二度遭い、兵は疲労して休憩していた。
道普は率先して救助をしたために、罠には一度も引っかからなかったのに服は土で汚れていた。
突然誰かが
「こんなところに鈴が」
と言い、触らない方が身のためなのにそうとは知らずに拾う。
チリン、と不吉な音色が響く。普通よりやに長い反響。
刀を抜いて臨戦態勢を取る。
何か来る、と思ったときにはすでに体が動いていた。目の前から尋常ではない速さで来る敵の小刀と自分の刀がぶつかる。その衝撃で体が後ろに傾く。
敵は恐ろしいぐらいの速さで迫ったのにも関わらず、勢いはなくなっていた。そしてしゃがむと脚払いをした。
道普は背中から地面に着き、次の瞬間には敵が首筋に小刀を当て、馬乗りになっていた。
「ちょろ過ぎる。ちょろ過ぎるぞ、八角道普」
格好が武士でもわかる。
「貴様、私たちの城に侵入した忍者だな」
殺気を完璧に消すという芸当ができるのは忍者しかいない。だから気づけなかったのだ。
突然、敵は道普から離れ、顔のすぐ横の地面に矢が刺さる。
「おい、何すんだ、柚葉」
「一人占めは駄目よ」
「だからって味方攻撃するのはどうかと思うぞ」
道普はその会話でもなく、いつの間にか刺さっている矢でもなく、敵の小刀に心を奪われていた。
その間にも着々と敵の人数が増えていく。
全員で六人。文書に書かれていた通りだ。
「貴様ら喧嘩すんな。獲物は逃げないのだから」
獲物とは我々のことだろう。こちらの事情を知っているかのような口振りだ。
「自己紹介が遅れたな。俺が千田風輝。将来、天下を統べる者だ。貴様は八角道普だな」
「そうだ。最上義昭様より大将の称号を受け賜っている八角家長男、八角道普だ」
「なあ、俺が先に着いたんだ。俺に先鋒を任せてもらえるよな」
道普の格好つけた台詞を無視する敵。
「あん、先鋒も糞もないだろ。夜太郎一人で終わるぞ、この戦い」
「おい、貴様何を言っ」
「今回は皆で楽しもうぜ。それにあやつの目的は俺たちの力量を測ることだろうから」
道普の発言に割り込まれ、怒りを抱いていたが、風輝の一言で頭が冷静になった。
「なぜそれを?」
「教えてやろうか。簡単なことさ。一つ目は宣戦布告されたとしても敵の力量を知らずに攻めるのは危険である前に一番してはならないことだから。貴様らがそんな能無しな訳がないからな。二つ目は表から侵入しようとしているところ。攻めるためなら少なからず正面からは来ない。三つ目は貴様らの荷物の量だ。戦するのにはいくらなんでも少なすぎる。一週間を目処にした量だ。あと付け足すとしたら、大将が来るとしたらそのくらいはしてもらわないとその地位が飾りとしか思えなくなるからな」
風輝は半分笑いながら言った。どの理由も合っている。武力だけでなく頭もきれるようだ。
「なら一つ言っておこう。そんな鉄塊では何も斬れんぞ」
「うん?ああ、刀に刃がないことか。これくらいの枷がないとあっという間に終わっちまうだろ」
「舐めやがって。武器を取れ」
おおー、と言って道普の中心に陣形を組む。
「お前たち、相手をしてやれ」
そうして開戦となったのだ。

#小説 #戦国

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