天地争乱(仮) 3.文書の返答

その頃出羽城では、城主でありこの国を任された大名である最上義昭は武官、文官の両方を含む三役会を急遽開いた。
内容はある村の領主が勝手に変わったこと。それがただの蛮族なら大量の兵を送れば済むのだが、今回の相手は大将級の者と力量が不明な者五人。推測でしかないが相当な腕の持ち主たち。
大広間に着いた義昭は上座に座るなりこう言った。
「突然の呼びかけに応じてくれて感謝する」
誰が来ているかを確認する。武官四人、文官六人が座っていた。
「聞いていると思うが佐谷の村が強奪された。そのことを知らせる文書も届いている。その届けた者は忍者であり、その姿を見たのは俺しかいない。それも文書を渡されたほんの数秒間。隠密の腕は一級品だと思われる」
「その後の行方は?」
文官の一人が尋ねる。
「すぐに消えたから分からない」
「私らに一言言って頂けたら追跡致しましたのに」
「いいや。たぶんだが、あやつはこの城の隅々まで知り尽くしている。俺たちの知らないような抜け道も。そうでなかったら天守閣まで誰にも見つからず侵入することはできないはずだ。そんなのを追いかけるのは不可能だ」
文官の一人が手を挙げる。
「抜け道などあるのでしょうか?」
「あると思う、としか言えない」
「あっておかしくはないですね。少し調べましょうか?」
また違う文官が進言する。
「ああ、誰かに頼もうと思っていた。やってくれるか?」
「もちろんです」
一つの問題は解消。
「まさか、そんな話をするために我々を呼んだのですか?」
武官の一人がイライラした口調で言った。
「そんなことはない。これからが本題さ。届けられた文書を読む。ちゃんと聞いていてくれ」
そう前置きをして義昭は文書を読み始めた。

二年の月日が過ぎたが少しは成長したか?俺たちの出会いを覚えているか?あのときは次期当主だった貴様に失望したよ。まさかあんなに弱くて頭の悪い貴様に俺は頭を下げないといけないのか、とよく悩まされたものだ。今の俺にはもう関係のないことだがな。なぜなら俺はこの国の頂点でなく天下の頂きに立つからだ。その意味がわかるな。その足がかりとして当分の目標は貴様をその座から降ろして俺が座ることだ。無論、俺一人だけではない。二年間色々な国を歩き回った。その間に五人の仲間を作った。同じ夢を追う同胞だ。一つ言っておくと、この五人は俺と同じ力量を持っていると思って兵を送ってこい。さもないと痛い目見るぞ。ま、その前に貴様の首を取りに行くけどな。

義昭が読み終わる前に怒りを顕にする武官たち。読み終わると一斉に口にする。
「そんな輩、俺一人で殺してやる」
と。義昭はそれを制止させ、自分の考えを言った。
「今、佐谷村の領主になっているのは千田風輝。佐谷生まれの農民だ」
「農民だと。農民ごときにこのような場を開いたのですか?」
「そうだ。だが、ただの農民ではない。二年前、あやつがこの国を出る前に俺はあやつと決闘をしたのだ。木刀のな。結果は俺の十戦十敗。まさしく手も足も出ない戦いだった」
義昭の一言でそこにいる者がざわつく。
「俺の感覚からすればあやつは大将に匹敵する力量を持っている。二年前だが俺の剣があやつに当たりすらしなかった。それが千田風輝の実力だ。そして何より問題なのはその力量を持った者を五人集めたことだ。これには慎重にならざるを得ない」
「話を聞く限り、闇雲に兵を送ることは無意味ということになりますな。無駄の血を流さぬ決断を求められている、ということでしょう。私たちはできる限るの助言を致しますが、決断は義昭に任せます」
宰相が物静かに言った。
「だからこそ、この場を設けているのだ。俺は短い時間で策略を練っていた。だが、それでは不安がある。だから皆から意見が欲しい。まず、敵を知らねばならない。大将は人を見たとき、その人がどの程度の力量か分かると聞く」
「はい。全員できますが、私が一番上手いですよ」
「では、そなたに任務を言い渡す。八角道普、謀反の可能性のある佐谷に行き、蛮族の調査せよ」
「御意。臣下の者五十人と共にすぐにでも向かいましょう」
道普は義昭に一礼してその場を去る。
「殿、その後のことを考えておりますか?」
「ああ、道普の報告次第だが、もう一つ皆に頼みたいことがある。各大名にもう一度、忠誠の誓いを立ててもらう。何としてでも寝返りを避けなければならない」
「それなら私に任せて頂きたい」
次期宰相と言われている文官が声をあげた。
「あまり不躾なことをさせないでくれ。誰も敵には回したくないからな」
「分かっております。文は送る前に殿に見せますのでそのときに判断をお願いします」
「うむ、わかった。それでは三役会を終わりとする。いつ戦が始まるか分からない。いつ起きてもいいように準備をしていてくれ」
「ハッ」
一同返事をし、頭を下げる。

各町や村では、早朝に送られてきた文書が領主の元へと届けられた。

昨夜、佐谷村を強奪した千田風輝だ。天下統一を成し遂げる為、共に旗を掲げる者を募集している。当面の目標は出羽国の占領である。力を貸してくれる者は使者を送ってくれ。

これが風輝が送った文書の内容だ。
領主の反応は大きく二つに別れた。
「ふざけんじゃねぇ。何様のつもりなんだ。血祭りにあげてやる」
と激怒する者。
「とうとう始まったか。千田風輝、その道を見届けてやる」
と保守的な者。この者たちは前に風輝と決闘した者たちだ。

風輝たちの険しい天下統一という道はこの地から始まるのであった。

#小説 #戦国

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