天地争乱(仮) 5.佐谷の戦い 2

風輝はこの日も変わらず測量や大福帳の確認をしていた。
村は大した大きさではないので村人は全員知り合いである。そこには大きくなってから知った者もいれば赤ん坊の頃から知っている者もいる。
風輝はあまり知らない者から始め、最後には自分の家族になるように知っている度合いの小さい方から順々に調べていったため、折り返し地点を過ぎた今、知る度合いが大きくなり、調査する家の者から話しかけられる頻度が増える。
内容は世間話から始まり、徐々に風輝の変わりように尋ねるようになる。一軒一軒同じようなことを聞かれ、同じように返すのは予想していたものより心身に負担をかけていた。なぜなら風輝は元来口数の少ない人だからだ。

昼過ぎ、風輝は村の外の異変に気づいた。それは風輝だけでなく、他の五人もそれぞれのいる場所から感じ取っていた。
「すまない。緊急事態だ。俺はここを離れる。調査は進めなくいいからお前達はここにいろ」
風輝の付き人はなぜそういうのかわからないため、気のない返事をして、言われた通りにちょうど調査していた家に残った。風輝は人とは思えない速さで正門に向かって走って行った。

正門をくぐるとすぐに鈴の音がした。鈴には魅惑の妖術がかけられており、近づいてきた獣が触れるようにしてある。しかしその力は人間には効かない筈なのだが。
風輝は鈴の音がした方に走って森の中に入る。
風輝が敵の下に着いた頃には隊長らしき者は地面に寝ていた。その顔の近くには地面に刺さった矢があった。
そして夜太郎と柚葉が睨み合っていることから大体の状況がわかった。
「貴様ら喧嘩すんな。獲物は逃げないのだから」
とりあえずいざこざを嗜める。敵に自分が長だとわからせるためだ。
「自己紹介が遅れたな。俺が千田風輝。将来、天下を統べる者だ。貴様は八角道普だな」
「そうだ。最上義昭様より大将の称号を受け賜っている八角家長男、八角道普だ」
「なあ、俺が先に着いたんだ。俺に先鋒を任せてもらえるよな」
夜太郎が道普の言葉を無視して風輝に尋ねる。風輝はやれやれと小さい声でつぶやき、肩を竦めて言った。
「あん、先鋒も糞もないだろ。夜太郎一人で終わるぞ、この戦い」
「おい、貴様何を言っ」
「今回は皆で楽しもうぜ。それにあやつの目的は俺たちの力量を測ることだろうから」
嘲笑うような口調になる風輝。しかし道普の表情は素に戻っていた。
「なぜそれを?」
「教えてやろうか。簡単なことさ。一つ目は宣戦布告されたとしても敵の力量を知らずに攻めるのは危険である前に一番してはならないことだから。貴様らがそんな能無しな訳がないからな。二つ目は表から侵入しようとしているところ。攻めるためなら少なからず正面からは来ない。三つ目は貴様らの荷物の量だ。戦するのにはいくらなんでも少なすぎる。一週間を目処にした量だ。あと付け足すとしたら、大将が来るとしたらそのくらいはしてもらわないとその地位が飾りとしか思えなくなるからな」
風輝は半分笑いながら言った。風輝は確信を持っているから。
「なら一つ言っておこう。そんな鉄塊では何も斬れんぞ」
「うん?ああ、刀に刃がないことか。これくらいの枷がないとあっという間に終わっちまうだろ」
「舐めやがって。武器を取れ」
おおー、と言って道普の中心に陣形を組む。
「お前たち、相手をしてやれ」
風輝たち六人は刃のない刀、模擬刀を手に道普たちに立ち向かう。対する道普は疲労した五十名と共に風輝たちとの最初の一戦となる。

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