天地争乱(仮) 7.幕間

道普との一戦を終えた風輝たちは村に向かって走っていた。
「渡した文には何を書いたの?」
蓮花が語気を強めて言った。
「あれには今度村の近くに来たら問答無用で刃を持って打ち払うということと国内の領主たちに忠誠を誓わせることは逆に忠誠心を失うことになるという内容だ」
「忠誠心?どうしてそんなことを?」
「全く柚葉は何もわかってないな。俺たち反乱分子が他にいないか確かめる必要があるからだ」
「僕たち以外にも反逆者がいたら大変でしょ」
夜太郎が呆れたように言い、旗徒が優しく言う。
夜太郎がお前が甘やかすから、と旗徒に文句を言うのを横目に蓮花が風輝に尋ねた。
「そういえばあの豚さん国に帰れたのかね」
豚さんとは風輝たちが追い出した元領主のことだ。蓮花が屈辱ながら一ヶ月も従わされた。
「あいつのことなら柚葉が知ってるよ」
「何か呼んだ?」
「ああ、あの領主はどうなった?」
「あの人ならね国に帰れたと思うよ。山賊たちは殺してまではしていないって言ってたから。そうそう、そこら一帯の賊とは話つけてきたよ。約束さえ守ってもらえるなら力貸すって」
柚葉は一度として夜太郎との仕事をすることはなかった。木の調査はしっかりとやり、夜太郎に報告済みであるので夜太郎からは許してもらった。
それと並行して行っていたのが賊の対応だった。ここは特に辺境の土地のせいで賊が多くいる。その一つ一つに不可侵の関係を築いた。
「あら柚葉、大活躍じゃない」
蓮花が柚葉の頭を撫でる。すると夜太郎が蓮花に噛みつく。甘やかすなと。
そんな話をしている内に村に着き、それぞれ作業していたところに戻る。

風輝が村に戻ってきて一週間が経った。風輝は予定通り計測を終えていた。他五名もこの土地に慣れ、仕事に邁進している。
村の人も活発になりつつある。風輝のとった配給制は前より多く食べれるようになっただけでなく、食事の偏りを無くし、食の健康を保てるようになる。野菜や穀物しか食べれなかったが、今では肉や魚も食べれるようになった。

風輝はある作戦を決行しようとしていた。近くの街や村に送った文書の返事がどこからも返ってこなかった。だがそれは文書に送り返さなくてよい、と書いたからだ。
これは風輝の作戦であった。もし返答してくる者がいたのならその者は国に対して反逆とは言わずとも不満を持っている者である。絶対だ。そういう者の心を揺さぶる内容を書いたのだから。しかしそれに返答がないのなら仲間に引き入れるのは容易いことではなさそうだ。

風輝はこの日の昼過ぎ、五人を集め、会議を開いた。
「これからのこと、特に領地拡大について話し合いたい。まず俺は近隣に文を出したが返答が返ってこない。これは予定通りだが、予定を変える必要はあると思うか?」
風輝の問いかけに蓮花が一番に口を開いた。
「私はこのままで良いと思う。さんざん皆で話し合ったことだし、無理に変えると悪い方向に傾くかもしれない」
「蓮花の言う通りだが、風輝がそう言う理由が聞きたい」
灯が風輝を正視する。このときの灯は納得していないときにする癖だ。
「予定通りなら皆がばらばらに街や村を説得しに行くことになっていた。だが時間はかかるかもしれないが俺一人でやるべきだと思った」
「それが何故だと聞いているのだ」
まだ話そうとしている風輝の言葉を切って灯が声を荒らげる。
「それは国から将が送られてくるのが早かったことだ。予測では接触を避けた調査、それを経ての接触だとしていた。しかし敵は最初から接触してきた。これは俺という力量がわかっている者がいるからと言えど、文の内容を鵜呑みにするとは思わなかった」
風輝の言い分に黙る五人。それをいいことに風輝はさらに言う。
「それに今の状態を維持してもらいたい。これは俺の仕事が一段落着いて、皆の様子を見て思ったことだ」
数十秒の沈黙の後、言葉を発したのは旗徒だった。
「俺は風輝の言うことに賛成だ。もし稽古を今止めたら戻ってきたときにまた一からやり直さないといけなくなるかもしれないから」
「私も仕事が思いの外手こずってるから手を離したく手を離したくない」
柚葉は本音しか言わないからこういうときだけは有り難い存在だ。
他も同様に仕事がまだまだ残っているので風輝の言うことに賛成した。

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