天地争乱(仮) 1.プロローグ

パラレルワールドが存在するなら現在も戦国時代だったのかもしれない。そんな物語。

この地は戦国乱世。武の才、知の才のある者が生き残る世界。
その地を統一せんとする者ありけり。名を千田風輝という。

「変わらないな」
出羽の国の山岳地帯にある小さな村、佐谷。約300人が住み、ほとんどが農業を営んでいる。
山の頂上から村を見下ろす風輝は三年ぶりに帰る故郷。三年前と同じ場所から眺めるその景色は何一つ変わっていなかった。
しかし村に行くと所々変わっていた。門や柵は壊れ、村人は痩せ、服は汚く、一番変わっていたことは領主の屋敷が大きくなっていたことだ。
情報通りすれ違う村人は女子供ばかりだった。男はといえば領主の屋敷で領主に対して申し立てをしている。

その領主の屋敷では、
「これ以上の課税は無理です。私たちには妻も子供もいるのです」
「ならもっと働けばよかろう」
「働きたくても働けない者もいるのです。働く場を提供して頂きたい」
「貴様ら儂に文句しかないのか」
村人の願いを聞いてくれない暴漢な領主。村人の不満は募るばかりである。
「文句を言われるようなことしかしていないからだろう」
突如屋敷に響き渡る声。村人は雷に打たれたかのように静かになった。領主は刀を持ち立ち上がる。
「何者だ。隠れていないで姿を現せ」
右を向いたり左を向いたりバタバタしている。
「俺は此処だ」
バタンと豪勢な音を立てて開いた襖。
「我が名は千田風輝。三年の旅より帰って来たらこんな奴が領主とはな」
「誰だ、こんな誰ともわからん輩を屋敷に入れたのは?」
「私でございます」
隣に現れたのは一ヶ月前にこの村を訪れ、領主に気に入られ侍女となった女だった。
「蓮花。貴様、彼奴を何故入れた?」
「俺が答えてやろう。お前の首を取りに来た」
ざわざわと村人がし出す。
「彼奴を捕まえろ」
しかし領主の言葉に誰も従わない。
「無駄ですよ。この村にいる全ての者が貴方に愛想を尽かせております」
蓮花が何の感情も見せずに言う。冷徹な一言だった。
「貴様、謀ったな」
憤怒の表情で手に持っていた刀で蓮花に襲いかかる。蓮花は刀を躱し、懐に飛び込み腕を掴み背負い投げを決める。
領主は腰を床に強打し、刀が手から落ちる。その刀を手に取った風輝は痛みもがく領主の首に刃を向ける。
「あんたに選択肢を与える。ここで殺されるか、今すぐここから、この村から出て行くか」
領主は慌てて部屋から出ていく。
この一連の出来事をただ見守ることしかできなかった村人には安堵だけでなく不安の空気が漂っていた。
風輝は刀を鞘に仕舞い、刀掛けに置く。
「これをもって俺がこの村の領主に就く。異議のある者は前に出ろ」
ざわざわとするが一人として意義を唱える者はいなかった。連れを除けばだが。
「異議あり!」
風輝が登場したように豪快に襖が開き三人が現れる。風輝は野次馬とも取れる三人の言動に青筋を浮かべた。
「テメェら、全員そこへ直れ!」
やってはいけないことをしてしまった、とは思ってくれたらしく、静かにその場に座った。
もう一度村人の方を見る。何もなければ話を進めようと思っていた。しかし一人静かに手を挙げた。それは風輝の父親だった。
「風輝、それはお前がやらなくてはならないことなのか?昔から頭の良さは飛び抜けていたが、それはこの村の中では、と考えていた。世間から見れば普通ではないかと。そもそもお前は農家の出だ。そんなのが武士様に刃向かったなどと知れ渡ったら、殺されてもおかしくない」
「武家だとか農家だとかというしきたりは馬鹿げている。俺はそうこの三年間で感じた。だから俺はそんなしきたりを壊そうと思っている。それに賛同してくれたのが蓮花とそこに座っている三人と今国に文書を渡しに行っている一人を含めた五人だ」
四人と目を合わせる。四人とも小さく頷いた。
「異議はないな。これより佐谷の領主は千田風輝が務める。俺はこの生まれた地から天下統一を目指す。ここが俺の一番最初の領地だ。貴様らに何不自由なく暮らしてもらえるよう全身全霊をかける。だから貴様らも俺に力を貸してくれ」
ぱちぱちぱち、と四人が拍手をする。予定にない行動で少し焦る。
数秒開いて一人、また一人と拍手する者が増えていく。最後には大拍手になり、終息させるのに一苦労する。
「ありがとう。ではこれからの暮らしについて話す。と言っても今まで通りに過ごしていて構わない。ただ仕事がない者にやってもらいたいことがある。今職のない者は手を挙げろ」
十人近くの者が手を挙げる。
「お前らにはたたら吹きを作ってもらいたい。灯から指示を仰いでもらう」
灯は立ち、一礼する。
「蓮花、この家に鉄どんくらいありそう?」
「刀百本は余裕に作れる」
「武器を作るためだけにたたら吹きを作るのですか?」
村人の一人が声を荒らげる。
「そうじゃない。武器はあまり作らない。それよりかは農具を作る。そんだけあるなら数年は持つな。
次に守備兵だが、必要はない。俺たちは気覚法を使える。それならちゃんとした訓練を受けた方が生産的である。訓練を受けたい者は志願制で旗徒に担当してもらう」
旗徒は立ち、一礼する。
「とりあえずはこんなとこだが、俺たち七人はここに住む。侍女の方々にはできればここに居てほしい。そこで俺たちはいろいろお願いをすることがあると思う。それぞれできるだけ守って欲しい。例えば俺たち全員様ずけされるのは嫌いだ。侍女関連は蓮花に任せる」
蓮花は立ち、一礼する。
「俺の話はこれで終わるが、皆から何かあるか?」
しーん。
「今後何かあればいつでもここに来てくれて構わない。六人の誰かしらに伝えてくれ。ではお開きとする」
ぞろぞろと部屋から村人が出ていく。

こうして風輝による天下統一の第一歩を踏み出したのだ。

出羽の国、出羽城。
城主は天守閣でご飯を食べていた。
突然忍者の格好をした者が目の前に現れた。忍者は巻き物を投げ、どこかに消えた。
ほんの数秒の出来事。護衛の者も消えてから気づいたほどだ。巻き物を開くとそこには簡単には容認できないことが書かれていた。
「緊急の三役会を開く。町にいる者だけでいい。早急に城に呼べ」
は、と護衛の者は短く返事をして部屋を後にした。
「とうとうこの時が来たか」
城主は下唇を強く噛み締める。

#小説 #戦国

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