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イザヤ、イザヤ

ここは、古都にある一軒のBAR。
武士が歩いていた時代に作られた人工の川にかかる小さな橋を渡り、細い路地に面した目立たない建物の階段を上がったところ、名刺大の表札の横にある頭を下げないと入れないような小さな扉を開けると、そこにカウンターだけの隠れ家的なBARがひっそりと明かりを灯しているのである。


「いらっしゃいませ!、あ、畑さんお久しぶりですね!」

今日も一人の客が、一日の労働を終え帰宅時間を少々過ぎた頃にこのBARを訪れた。
畑と名のるこの男は、ときどきフラっと現れては、マスターの顔を見るなり、何か面白い話はないか?とマスターを困らせる男である。

この日は、畑が姿を現した時に、もう一人女性の客が既にカウンターの一席を占めていた。


やはり畑はこの日も、その女性から一つ離した席に腰を降ろしながらマスターにきりだした。
「マスター、この前の日本のクリストの話は、面白かったね!
ほかに、面白い話はない?」

「あ、畑さん。その話の主が、今日お見えですよ。
ミワちゃん、この方が例の畑さんです。」

畑とその横に座るミワと呼ばれた女性は、互いに少し気まずそうに笑顔を向けた。
そして、互いに「はじめまして」と挨拶を交わした後に、


畑のほうから、ミワに話かけた。
「ミワさんとお呼びして良いですか?
あ・・・赤ワインを飲まれているのでか・・・」
と、少しとってつけたような会話となりながら。


「はい。ぶどう酒は、イエスの最初の奇跡であり、聖書にはかかせないアイテムですからね。
あはは、いやクリストに絡めてじゃないのですけど・・・」
ミワは屈託のない笑顔で答えた。
「お酒って聖書だけでなく、日本の神話にもつき物ですものね。
酒船、酒解神・・・宗教につき物なんでしょうね。」

畑は、少々何の話か途惑いながら、相槌を打った。

カウンター越しにマスターはニヤニヤしながら、
「ミワちゃん、イザの話続きがあるんでしょ?
良かったら、畑さんに聞かせてあげてくださいよ。」
と声をかけた。


ミワは、少し躊躇したもののニコリとうなずき一口赤ワインで咽喉を潤すと、ゆっくりと話はじめた。
「あのー、畑さん、私の話は、妄想だから、史実と反することもあるし、
そのまま真に受けないでくださいね。

ということで・・・

クリストの話は、聞いてもらったようだけど、
日本のイザという言葉には、クリストという意味があると思うの・・・
というか、クリストを含む、主や神といった意味だと思います。

だから、「イザナギ、イザナミ」は、「イザのコ、イザのメ」であり、
すなわち男の神と女の神という意味もあると思います。
そういえば、鯨のことを勇魚(いさな)と呼ぶけど、神の魚という意味もあるのかもしれないですね。
人は、大木と大岩とか大きいものに神を感じるから、大きな魚も神と感じたのでしょう。


このイザを冠する神さまや、神社はけっこうあります。
伊勢(いせ)や伊雑(いざわ)宮もこれに関係している可能性がありますし、
四国には、伊佐爾波(いさにわ)神社という八幡神社があります。

そして、福井県の気比神宮の祭神は、伊奢沙別命(イザサワケのミコト)と言います。
面白いのは、この両神社には、武内宿禰命が絡んでいます。
この人は、謎の人だけど、それはまた別の話ね。
どこか、私は、モーゼの印象と似てると感じるのよね。
そして、サルタヒコもモーゼの匂いがするわ。
但し、同一人物だとは言わないけど・・・

八幡宮の祭神は、応神天皇だけど、この応神天皇は、若いころに気比神宮の神イザサワケと名前を交換したという話があるの。
だから、応神天皇の本来の名前は、イザサワケという事になります。
ワケというのは、別や若という文字を使い、若君すなわちお子の意味となります。

だから、イザサワケは、私の解釈でいくと神の子ね。
これって、イエスでしょ?

以前、あるサイトでイエス=応神天皇と考察している人がいたわ。
実は、イエスには、双子の弟(ユダ・トマス)がいて、そのトマスを身代わりにし、生き延びて日本に来ていたという話があります。
十二使途のトマスは、双子という意味だそうです。

私は、その話をそのまま信じることはできないけど、その話を信じるキリスト教徒の一派が日本に来て、気比神宮の神との名前の交換の話を作ったのでは、と考えています。

応神天皇の時代に、秦(はた)氏という氏族が大勢渡来しています。
八幡は、ヤハタでありハタの神でもあると思います。」


ミワは、ここまで話すと一息ついた。
畑は、少し話についていけず、彼の思考は、他の世界を巡りだしたのだが、
ハタの名が突然出てきだので、
ビクリと我に返った。


ミワは、赤ワインを飲み干すと
「実は、八幡神については、まだ話が続くのですが・・・」


畑は、気をとりなおして、
「是非、お聞かせください!」と元気に答えた。


「じゃあ、マスターお代わり頂こうかしら。」

マスターは、二人の様子をニコニコしながら聞きながらオーダーをとった。

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